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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
197/812

4

 

 インファネースの港に着いた俺達は、ヘバックに事情を説明して船の修理を手配して貰う。思いがけない珍客にヘバックは興味津々で、テオドールを自分の商店へ連れていってしまった。


 港に着く前に酒とお米はある程度譲って貰ったので、後はテオドールの交渉次第だ。商談が上手くいくよう祈ってるよ。


 その日の夕食は仕入れたばかりのお米を出したけど、皆の反応はイマイチなものだった。


「不味くは無いんだけどね…… 」


「というか味がしないです」


「ぼ、ぼくは、美味しいと思います…… よ? 」


 何でだよ! 味はするだろうが! う~、シャルルの気遣いが地味に突き刺さるから止めて。くそ~、エレミアの言う通り、ご飯だけを食べ続けている。おかずと一緒に食べるから良いのに、勿論そのままでも美味しいとは思うけどさ。次にお米を出す時は丼物にしよう。そこから徐々にお米に慣れさせていけば…… 我が家だけでもお米を主食化させたい。


 それとは逆に米酒の方は好評だった。シャルルとキッカはまだ未成年なので、先に部屋に戻って休んでいる。


「結構飲みやすくて良いわね」


「透き通るようなお酒ね。見た目は水みたいなのに、不思議だわ」


 母さんとエレミアは、グラスに純米酒を注いでチビチビと楽しんでいる。度数が強い割りに飲みやすいと気に入ったようだ。


「この米焼酎というのは中々に酒精が強い、それと香りも良い。何かつまみが欲しくなるな」


 焼酎をストレートでカパカパと飲むギル。流石はドラゴン、うわばみだね。アンネはどれも甘くないと言ってデザートワインを呑んでいる、こいつは全くぶれないな。


 清酒のつまみに焼き魚とホタテのバター焼きを用意した。刺身も良いんだけど、大陸では生で食べる文化が無いから仕方ないね。後で俺だけで楽しむとしよう。


 俺は収納内で作った豆腐を冷奴と厚揚げにして、それを肴に大吟醸をロックで飲む。前世からの何時もの飲み方だ。あ~、旨い…… 幸せだね~。魚介と合うから人魚達も好きかもしれない、後で持っていこう。


 しかし、こんな調子で飲んでしまっては直ぐに無くなってしまうな。早くジパングに行きたいものだ。そこでお米と酒を仕入れるのは当然として、種麹と米の種籾も欲しい。魔力収納の中で育ててしまえば何時でもお米を確保出来るし、そのお米で酒も造りたい。


 船の修理はいつ頃終わるのだろうか? 待ち遠しいね。



 あれから数日、テオドールが店に訪ねてきた。


「へぇ、ここがライルさんのお店ですか。まだお若いのに、立派なものだ。私も小さくてもいいので店を持ちたいです」


「いえ、まだまだお客が少なくて大変ですよ。所で、商売の方はどうですか? 」


 その質問にテオドールは何とも言えない微妙な表情を浮かべる。


「いやぁ、エレミアさんのご指摘通りでしたよ。米はあまり受けがよろしくないようで…… でも、酒は好評でしたよ。あと、味噌と醤油も持ってきた分は全て捌けました」


 やっぱり酒は売れてるようだ。しょうがない、売れ残ったお米だけでも買い取ろう。


「よろしければ、余っているお米を譲って頂けませんか? 」


「おぉ! それは助かります。勿論、お値段の方も勉強させて頂きますよ」


 まけるから全部買って欲しいと言うことか。この商売人め、良いでしょう、全部買いますよ!


 ほくほく顔のテオドールは、お米を売ったお金で洗浄の魔道具と簡易結界の魔道具を買った。マジックテントとマジックバッグは、ヘバックの店から纏めて仕入れたようだ。


「広場で出店を開いていたエルフの方から、ワインを仕入れようと思ったのですが纏まった数がなくて、どうにか出来ないかとお尋ねした所、ライルさんに頼めば何とかなると言われたのですが、本当なのでしょうか? 」


「エルフ産のワインですか? ええ、お時間を頂ければご用意出来ると思いますよ」


「お手数をお掛けしてすいませんが、普通のワインとデザートワインをよろしくお願い致します」


 マナフォンで長老に連絡して用意して貰おう。


「船の修理はいつ頃完了する予定ですか? 」


「そうですね、後三日ほど掛かります。それまでに色々と仕入れて、直ぐに出発したいと思っています」


「分かりました。それまでに準備は済ませておきます。ワインもその時にお渡ししますね」


 安全に渡れる海路が決まれば、サラステア商会を通して本格的にインファネースと交易をするつもりらしい。向こうからは米酒と味噌、醤油、それと他の品も幾つか出し、インファネースからはマジックバッグとマジックテント等の魔道具を輸出するようだ。


「まだ先の話になりますが、また訪れた際にはワインと魔道具を買いに来ます」


「いえ、今後は此方からお伺いすると思いますので、その時に持って行きますよ」


「成る程、前に仰っていた独自の移動法というやつですね? 私が国にいない時は、この街に向かっているとお考え下さい」


 それから三日後の出発について軽く打ち合わせをして、テオドールは店を後にした。


 テオドールは値段の安い南商店街の宿屋に泊まり、観光もしながら、あれこれと仕入れていき、インファネースの街を楽しんでいるようだった。


 ヘバックもジパングの者と交易が出来る事を喜んでいた。何でも、ジパングの人達は大陸に来ることは滅多にないらしい。逆に大陸の人がジパングへ訪れる事はあるけど、あまり余所者は歓迎されないらしく、取り引きはしてもらえるが長居は出来ないと言っていた。


 テオドールと一緒だから大丈夫だよな? 余所者は出ていけ! なんて追い出されたりはしないよね?

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