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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第九幕】東の島国と故郷への想い
195/812

2

 

 さて、船は動くというので、これに乗ってインファネースまで案内しよう。だけどその前に色々と聞きたい事がある。


「他の乗組員は? スズキさんお一人なのですか? 」


「いやぁ、実は私一人なんですよ」


 恥ずかしそうに頭を掻くテオドール。は? ひとり? 一人で海って渡れるものなのか?


「この船は魔動船ですから、魔力で推進器を動かすので一人でも運転が可能なのです。それに乗組員を雇うお金もありませんでした。この船は中古で購入したのですが、どうやら不備があったようでして、いやぁ参りましたよ」


 ハハハ、と乾いた笑いを上げているけど、不良品を掴まされた挙げ句、一人で海に出たのか。大丈夫か? この人。


 ふと、焚き火の方から良い匂いが漂ってくる。


「あぁ! そう言えば昼食の準備をしていたんでした」


 テオドールは慌てて焚き火へと駆け寄り、火から土鍋を遠ざけて蓋を開けると、中から白い湯気が立ち上がる。その中身を見て、俺は言葉を失った。


「…… ? ライル、どうかした? 」


 そんなエレミアの声は耳には届いていたが、答える余裕が俺にはない。土鍋の中にあるのは、白いふっくらとした粒が光沢を放ちながら、所狭しと佇んでいる。テオドールが何処からともなく取り出したしゃもじで底を返すと、茶色く焦げた部分が顕になる。その芳ばしい香りに思わず喉が鳴ってしまう。


「あ、あの…… それは、もしかして、お米ですか? 」


「おや? 知っているのですか? 大陸ではパンが主食と聞いていたのですが。そうですよ、私達の国の主食であるお米です」


 うおっしゃぁぁ!! やったぜ! 米だ! 白米だ! 白飯だ! しかもタイ米のように細長いやつじゃない、短くて太いジャポニカ米にそっくりだ。


「本当は商品として持ってきた物ですが、背に腹は変えられませんので、ちょっとだけ使ってしまいました。良ければご一緒にどうです? 」


「喜んで、ご相伴に預かります」


 茶碗に白米をよそってもらい受け取ると、魔力で操る木の腕で箸を使い白飯を持ち上げる。プックリとした良い米だ。粘り気のある米を噛んでると甘い味が舌に広がっていく。

 米に味なんか無いだろ、なんて言ってる奴もいるけど、それは間違いだと自信をもって言える。米にはきちんと味がある。久しぶりに食べた米は涙が出るほど旨かった。


「ライル…… 大丈夫? 」


「あぁ、大丈夫だよ。少し煙が目に染みただけさ」


 この日の昼食は焼き魚に白飯、胡瓜と茄子のぬか漬けと味噌汁。ご飯が進むラインナップとなっている。もっと味わって食べたいけど箸が止まらないね。


「こんなに気に入って頂けるとは、安心しました。これなら大陸でも売れそうですかね? 」


 いや、それはどうだろ? 俺を基準にしては駄目な気がする。


「それはどうかな? エルフには好まれる味だけど、人間達には味が薄すぎると思うわ。これだけでは難しいわね」


「はぁ、味が薄すぎるですか? 食べなれてる身としては、あまり気になりませんでしたけど」


 うん、俺も同感だな。それに薄いとも思ってはない。


「貴方が言う大陸の人間達は、濃い味が普通なのよ。だから米単品では食べてくれないかも知れない。おかずを用意しても難しいわ」


「それは何故ですか? おかずがあればご飯が進むと思いますが」


「うん、それは食べ方の問題ね」


 食べ方? 俺とテオドールは揃って首を傾けた。


「私達、大陸に住む人達の食べ方って、一品だけを集中的に食べるのよ。そして口の中を空にして次の料理に移るの。でも貴方の食べ方は頻繁に料理を別々に食べていたわね。白米を一口食べたら焼き魚を食べ、漬物を食べたら直ぐに白米を食べる。まるで口の中で自分好みの味に整えているみたい」


 前世で聞いた事がある。所謂三角食べと言われるもので、確か口内調味と言った日本人特有の食べ方だ。大陸ではフレンチのコース料理みたいにひとつひとつの皿を平らげながら食事は進んでいく。

 口の中に入れた食物の咀嚼を途中で止めたまま、口を半開きにしておいてそのまま次の食物や液体を放り込むのは、けっこう微妙な運動神経を必要とする作業だと、何処かで聞いた気がするな。


「なるほど、確かにそういった食事事情なら厳しいかも知れません。私の国と大陸では食事の仕方さえも違うのですね」


「米自体にしっかりとした味がついた料理なら食べて貰えるかも、そういう料理はある? 」


「えぇ、ありますよ。大きめの茶碗にご飯をよそい、その上に味の濃いおかずを乗せるんです。後は、具材とご飯を一緒に炒める物もあります」


 丼に炒飯か、丼なら白米と一緒に食べやすいから口内調味の練習には最適だな。


「それなら、大丈夫じゃない? 」


「いやぁ、貴重なご意見ありがとうございました。今後の参考になります。何も知らずに持ち込んでいたら大失敗する所でしたよ」


 テオドールは、良かった良かったと安心しているけど、まだ売れた訳ではないから。まぁ売れなかったとしても俺が全部買うけどね。こうなると他の商品も気になる所。


「他には何を持ってきているのですか? 」


「そうですね…… 後は、お酒ですかね」


 なに!? 米が主食の国で造る酒といったら……


「もしかして、米で造った酒ですか? 」


「それもご存知で? そうです、米を醸して造ったお酒です。今あるのは、米焼酎に、純米酒、それと大吟醸ですかね。どれも私の国で多く作られている米で造った物です」


 ひゃっほぉい!! 米酒だ! 清酒だ! この世界にもあると信じていたよ。これは買いだ! 全部買うぞ、あるだけ持って来い!!

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