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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
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19

 

「ブフゥ、立派なマナの木であるな。これでまだ若木なのだから凄いものだ」


「何だかお庭の空気が澄んだような気がしますわ」


 俺は今、領主とシャロットと一緒に館の庭に植わったマナの若木を見上げている。ゴブリンキングの討伐作戦を行うに当たり、領主に俺のスキルを話した。なのでもういっその事、世界のマナが減少しているのも話して、力を貸して貰おうと考えたのだ。ギルとアンネを紹介していたのもあり、領主はすんなりと信じてくれた。


 魔力収納で育てているマナの木はまだ十本も満たない中で、若木にまで成長しているのは数本だけ。その一本をインファネースに植えたいと領主に提案し、マナの若木の安全を考慮して領主の館の庭に植える事にした。


「ブフッ、ライル君、このマナの木をレインバーク家の家宝として、世界の為に、何代にも渡り大切に育てると誓おう」


「有り難う御座います。どうか、よろしくお願いいたします」


 残りは何処に植えるか、貴重な木なので慎重に考えなくてはならない。信用できる者に託すか、人間の手に及ばない場所にしないと、伐採されてしまう恐れがある。何でも幹の部分は杖や武器の柄等に、葉は薬の材料になるらしく、かなりの数が伐採されたとか。因みに、人魚達が使用している転移門が設置してある無人島にも、マナの若木を一本植えている。エルフの里にはマナの大樹と木がそれなりに生えているから良いとして、ドワーフの国は岩山に囲まれ緑がないので止めておいた。


 今の所、候補はサンクラッド聖教国だな。そこにも一本植えて置きたい。しかし、こんな調子だと俺が死ぬまで何本植えられるのか。先は長い、焦らず気長にやるしかないね。



 通信の魔道具については構想は出来ているし、術式も既存の物を多少アレンジするだけなので、そんなに難しくはない。問題は材料だ。俺が作りたい通信の魔道具には魔力結晶が必要不可欠である。魔核はムウナに造って貰うとして、それを結晶化させるのに大量の魔力が必要だ。

 エレミアの眼を造るときだってかなりの魔力を使ったからな。回復が早いと言っても、時間が掛かる事には変わりない。効率よく魔力結晶を作りたいと思った俺は、ドルムを訪ねにガンテの鍛冶屋へと足を運んだ。うちの店の地下にある大魔力結晶は千年前の人達が人工的に造り出した物であり、前にギルから魔力結晶を造り出す魔道具があると聞いた事がある。ドワーフのドルムなら、何か知っている筈だ。



「それで、ワシを訪ねてきたっちゅう訳か。確か、そんなような魔道具が城の宝物庫にあると聞いた気がするのぉ」


「本当ですか!? それって見せてもらえたりは出来るでしょうか? 」


「見るだけなら問題は無いと思うがの。お前さんの都合の良い時に、城へ訪ねてみてはどうじゃ? 」


 現物があるのなら、それを解析してしまえば複製は出来る。材料があればだけど。


 あくる日、俺は地下の転移門を通りドワーフの国へ行き、王城を訪ねた。勿論エレミアも一緒だけど、鉄の匂いが強すぎて気分が悪くなるので魔力収納の中にいる。


「これはライルさんではありませんか。今日は何用で? 」


 門番は俺を覚えていたようで、にこやかに対応してくれる。


「どうも、お久しぶりです。実は宝物庫にある魔道具を拝見したいのですが、大丈夫でしょうか? 」


「宝物庫ですか? それなら宰相様に頼めば見せてもらえると思いますよ。正面玄関までお送り致します」


 門番に魔動車で送ってもらい城の中へと入ると、報告を受けていたのか、宰相のエギルがエントランスで出迎えてくれた。


「ご無沙汰しております。突然の来訪どうかお許し下さい」


「いえいえ、ライル君なら何時でも歓迎しますよ。今日はどういったご用で? 」


「有り難う御座います。実はドルムさんから、この城の宝物庫に魔力結晶を作り出す事が出来る魔道具があるとお聞きしまして、是非とも拝見させてもらえないかと、こうして足を運んだ次第で御座います」


 エギルは髭を撫でながら少しだけ思案すると、思い出したように頷いた。


「あぁ、確かにそういう魔道具が城の宝物庫に保管してあります。今から見に行かれますか? 」


「よろしいのですか? 是非ともお願い致します」


 エギルに宝物庫まで案内され、重厚な扉を開け中へ入る。そこには豪華な造りの剣や鎧、用途不明な道具達が綺麗に並べられている。田舎者のように忙しなく首を動かしつつ奥へと進むと、少し開けた場所に大きな箱形の物体が置かれていた。そこからパイプが伸びて、硝子で出来た大きな円柱状の入れ物と繋がっている。これが魔力結晶を人工的に造り出す魔道具か?


「この魔道具は千年前の人間達が作り出した物です。箱の中に魔核や魔石を入れて、魔力を抽出し、固めて結晶化させた物が円柱状の容器に出来上る仕組みになっています。魔道具を動かす為にはそれなりの魔力が必要ですので、今はこのように宝物庫の奥で埃を被っている状態です」


 ということは、動力さえ確保出来れば良いんだよな。大魔力結晶があれば問題なく使えそうだけど、作るのが大変だな。術式が複雑なうえにアダマンタイトが使われている。人魚達にいらないと言った手前、今更譲って欲しいとは言えないよな。強度は落ちるが別の物で代用しようかと思考を巡らせていると、エギルから思いがけない言葉をかけられた。


「我々は魔道具を作る事はしませんので、魔力結晶をあまり必要とはしません。欲しいのなら持っていっても良いですよ」


「え!? いいんですか? 貴重な物なのでは? 」


「えぇ、構いません。これも、元々は人間が作った物ですからね。貴方の役に立つと言うのなら、どうぞ持っていって下さい」


 エギルのお言葉に甘え、魔力結晶を作る魔道具を譲って貰った。王様の許可はいらないのですか? と尋ねた所、「事後承諾で十分です」 と頼もしい答えが返ってきた。

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