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村の復興を始めて半月が経過した。シャロットの婚約者であり、この国の第二王子でもあるコルタス殿下が連れてきた王国騎士団と、冒険者達の働きによって、西の森へ逃げ去って行ったゴブリンを大方討伐できた。ゴブリンキングがいなくなった今、短期間で数が増えることはなくなったので、もう安心しても良いだろう。
村の方も随分と復興が進んだ。ドワーフの協力により、ボロボロだった家屋は新築同様に修繕され、完全に倒壊した家は一から建て直した。
畑はエルフの協力で既に修復は済んでいる。今は他の村や領地から譲って貰った麦の種籾と野菜の種を植えて様子を見ている段階だ。今年の税収は大幅に下がるが、被害にあった村の税は収穫が安定するまで無税となった。魔物による災害なので仕方ない、誰も悪い訳ではないからね。
人魚による大量の塩の支援は地味に助かった。レインバーク領は塩の生産地でもある。塩田がある南の村が襲われなかったのは不幸中の幸いではあるが、自領だけで賄うとなれば輸出する分が減ってしまう。塩の輸出量を変えずに、村の支援に回せる事が出来たのは、ひとえに人魚達の力添えあってこそだ。
いずれ他種族の人達には正式にお礼をしなければならないと、領主は言っていた。何が必要で喜ばれるのか、それとなく聞いてはくれないかと頼まれたけど、皆現状で大体満足しているので、これといった要望がないので困る。どうしたものかと領主と一緒に頭を悩ませている最中だ。
この半月で、俺の方も新しい商品の開発に勤しんだ。そして、ついに簡易結界を張る魔道具が完成した。形も大きさもルービックキューブのように、正六面体をしている。上部が開く構造になっていて、そこに魔石または魔核を入れて術式を発動させると、マジックテントひとつ分覆うくらいの結界を張ることが出来る。一番小さいサイズの魔石なら三つまで入れられて、大体五~六時間はもつ。試運転を手伝ってくれた冒険者達の話では特に問題は見付からなかった。これで外でも安心して休めるな。
マジックテントに結界の魔術を組み込む事も考えたけど、そうすると魔石や魔核が使用できず、自分の魔力を使ってマジックテントの発動と結界魔術の発動、維持をしなければならなくなる。俺みたいに魔力が有り余っているのなら問題はないけど、大半の人はそうじゃない。自身の魔力は貴重なものなので慎重に使うのが常識なのだ。
低コストで十分に効果のある簡易結界の魔道具は、五万四千リランと少々高めに設定したけど、売れ行きは順調だ。だけど毎日のように足を運んでくれるかと言うと微妙な所である。
素材には一部ミスリルを使用して頑丈に作ってあるから、一度買ってしまえばもう用はなくなるんだよね。リピーターになってくれるような商品が必要なのだけど、良い考えが浮かばない。
母さんの蜂蜜クッキーに、洗浄の魔道具、消耗品といったらこれぐらいか。この店のコンセプトは冒険者の為の雑貨屋だから、長く使えるものが多い。もっと使い捨ての物があってもいいとは思うんだけどね。
どんなものが良いのか、思案に耽っていると銀髪で美丈夫の騎士が店に入ってきた。その人は王国騎士団の副団長、アレクシス・アイズハート。レイシアの兄でもある。
「ライル君、ひとつ聞きたいのだけど、殿下が訪ねてきてはいないかな? 」
コルタス殿下はまた一人でぶらついているのか。うちの店にもたまに顔を出す事がある。街の視察でもしているのだろう。行動力があるのは良いけど、周りの迷惑も考えてほしいね。お目付け役のアレクシスは毎日大変だな、ご苦労様です。
「残念ですが、見ていませんね。お役に立てず申し訳ありません」
「いえいえ、貴方が悪い訳ではないよ。全く、殿下の放浪癖には困るね。あっ、蜂蜜クッキーを一袋お願いします」
「はい、まいど有り難う御座います」
蜂蜜クッキーの袋を受け取ったアレクシスは、早速袋から一枚取り出し、口へと放り込んだ。
「うん、やはりここのクッキーは美味しい。西の商店街にもお菓子を提供する店があるけど、味が複雑でどうにも…… 美味しいんだけどね、私は分かりやすい味が好きかな」
「レイシアさんも、同じ事を仰っていましたよ」
「ははっ、私達家族は味覚が似ているからね。妹は今、オーク討伐に北のレグラス王国にいるんだよね? 中々手紙を送って来なくて心配していたけど、冒険者としてちゃんと活動しているようで安心したよ」
「何故、騎士の名門であるアイズハート家のレイシアさんが、冒険者をやっているのですか? 」
「ああ、それはだね。我がアイズハート家は、正式に騎士となる前に見聞を広げる為、一度家を出る決まりになっているんだよ。家の力を一切借りずに、世間の荒波に揉まれて騎士としての成長を促す。私も冒険者として活動していた時期があったな」
成る程、だから騎士の名家なのにお金がどうとか気にしていたのか。良かった、追い出されたんじゃなかったんだな。
「妹は優秀で真面目だが、融通が利かない所があるからね。この経験でそういう所も変わっていけば良いと思っているよ。正直、一人でやっていけるか不安で仕方なったんだ。だけど、ライル君の話だと良い仲間と出会えたようで良かったよ。妹に会うことがあったら、たまには家に顔を出してくれと伝えてほしい。後、手紙ももっと書くようにともね。それじゃ、そろそろ殿下を探すとするよ」
「有り難う御座いました。またのお越しをお待ちしてます」
そう言えばオーク討伐はどうなったのだろうか。無事だと良いのだけど、いや、クレス達ならきっと大丈夫だ。
「はぁ~、流石はアイズハート家ね。いい男だわぁ、惚れ惚れしちゃう♪ 」
うお!? デイジー、何時の間に! 気配も魔力も感じなかったぞ、最近どんどん人間離れしているような…… 気のせいだと思いたい。