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「決定力に欠けるのよね~」
家で朝食を食べているとアンネがふと、そんなこと呟いた。
「決定力って、なんの?」
「ウッドベアとの戦いで思ってたんだけどさ、ライルは手数が少ないし、ガツンッ!と威力のある一撃もない。なんかないかな?」
確かに、俺には決め手になるものがないな。
「魔力で敵を倒すのは難しいからね~、やっぱり武器かな? 強い武器で一気にやっつけちゃうの!」
「そんな強力な武器なんて、何処から手に入れるんだ?」
「ライル~、自分のスキル忘れたの? 作ればいいんだよ!」
自分で武器を作る? それは思いつかなかったな……俺の“魔力支配”なら、それが可能だ。
「それと、魔術習ってたんでしょ? それも使えばいいじゃん」
「武器に術式を刻むのは、少し厳しいかもな……」
「なんで?」
「普通の鉄だと、脆くなってしまう恐れがあるんだ。魔道具としてなら別にいいんだけど、武器として使うのは……」
戦っている最中に壊れでもしたら、詰んでしまう。
「そっか、それじゃ仕方ないね、でも武器は作れるよね?」
「作れない事はないけど、強い武器ってどんなの?」
武器に詳しくはないから、よく分からないんだよな。
「そこは……ほら! 異世界の知識でチョチョっと出来ないの?」
前世の俺がいた世界の武器か、まず思い付くのは“刀”だけど、あれは扱う技術があって、初めてまともに斬る事が出来るものだからな……俺には無理だな。
後は……“銃”か? 駄目だな、銃の構造なんて分かる筈がない。実際に見た事も触った事もないのに……
他に武器といったら、う~ん……あの世界の武器は火薬ありきだから、再現するのは難しいぞ。
武器で考えるから駄目なのかな? 火薬を使わず、武器として代用できる物…………あっ!……あった、強力なやつが……。
「ん? なんか思いついたの~?」
アンネは俺の朝食のパンに塗る蜂蜜を舐めながら聞いてきた。
「おい! 俺の蜂蜜を勝手に食うなよ!」
「いや~、なんか考え事で忙しそうだったから、代わりに食べてあげようかな~って…………てへ♪」
はぁ、まったく……そんな風に呆れていると、
「ねぇねぇ、何か思いついたんでしょ? おしえてよ!」
「まだ考え付いただけだから、それに色々と手を加えたいし、出来たらちゃんと見せるから」
「むぅ~……しょうがない、我慢しましょう!」
さて、先ずは鉄を集めなくては……そろそろ、あの行商人も村に来る頃だし、行ってみるか。
俺は魔力収納の中にいるクイーンへ思念を送る。
『これから村に行くんだけど、また頼んでもいいかな?』
するとクイーンから、
――了解――
と返事が送られてきた。
俺の魔力を通って、数匹のハニービィが出てくる――魔力収納から出るのは簡単だ。ただ出たいと念じればいいだけだから、入る時だけお互いの同意が必要なのだ。
家を留守にするとき、ハニービィ達に留守番を頼んでいる。
ハニービィ達の“思念伝達”に距離は関係ないらしく、何かあればすぐクイーンへと伝わり、クイーンから俺に伝える手筈になっている。
これが便利で、安心して家を留守にしていられる。
「なに? どっか行くの? 村?」
ハニービィ達が出てきた事で察したのか、アンネがそう聞いてきた。
「ああ、村に行こうかと思って」
それを聞いてアンネが、にやりと笑った……
「そっか、じゃあ村まで“魔力飛行”の練習だね!」
げっ! あれか、苦手なんだよな~……
「今日は普通に歩いて行くのは――」
「――却下です! ライル、機動力は大切だよ。この前の事わすれたの? また守れる保証なんてないんだからね」
そうだな……アンネのいう通りだ。
「わかった、頑張ってみるよ」
アンネは満足そうに頷いた後、
「しっかし、変わってるよね~高い所が恐いなんて」
「仕方ないだろ、恐いもんは恐いんだから」
そう、俺は“高所恐怖症”なのだ。前世から高い所が苦手で、全身が硬直して思うように動けなくなってしまう。少し浮くぐらいなら平気なんだが。
「今でも不思議だよ、魔力で空が飛べるなんて」
本当、なんでもありだよな……魔法や魔術だって、魔力が必要だし、一体何なんだろう、魔力って……
「まぁ、本来はわたし達、妖精やドラゴンの飛び方なんだけどね」
「人間には真似出来ないと?」
「当然! わたし達は生まれた時から飛び方を知っている。生まれてすぐ呼吸をするように、誰にも教わっていないのに手足をうごかせるように、わたし達は空を飛べる。多分、人間には理解出来ない感覚だと思うよ」
本能のようなものか……
「なら、どうして俺には理解出来るんだ?」
「ライル、また自分のスキルを忘れてるでしょ。そのスキルはね、魔力に関わる事全てを理解できてしまうんだよ」
魔力に関わる事全て? なら……
「なら俺は魔法を使える事にはならないのか?」
そうだ、魔法だって魔力を使用するんだから、魔力に関わる事だ。
「……それは、無理だよ、魔法はスキルがないと使う事が出来ないようにされているから……」
ん? いま、“されている”と言ったのか?
「アンネ……もしかして、この世界は魔法を“制限”されているのか?」
アンネはコクリと頷いた。
「誰なんだ?……魔法を制限してるのは」
アンネはゆっくりと断言した。
――神さま達だよ。




