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やっと王都から救援が来たよ。ゴブリンとの戦闘は終わったけど、西の森に多くのゴブリン達が逃げて行ったから、ゴブリン狩りでもしてもらおうかな。
「よう、どうやらひと足遅かったようだな。これでも急いで来たんだけどよ。ったく、あの老害共が邪魔しなかったらもっと早く来れたものを。父上も爺共の顔色を窺うだけで情けない。この街の重要性をまるで理解していないと見える」
門前で堂々と自分の父親を貶める発言をしている青年は何者だ?
騎士団を率いているようだけど、鎧は来ていないし、とても騎士には見えない。金髪碧眼で顔はハンサムだが、目付きと言葉遣いが悪い。
「コルタス殿下、それは言い過ぎですわ。いくら陛下のご子息でも聞き逃す事は出来ませんわよ」
「本当の事を言って何が悪い。それより俺は疲れた、早くお前の館で休みたい」
殿下? てことは…… 王族!? シャロットはコルタス殿下と呼んでいたな。確か第二王子の名前だったか…… 第一と第三王子は良い噂を聞くけど、第二王子のは聞かないな。出迎えに来たシャロットの馬車にコルタス殿下は乗り込み、馬に乗った騎士と馬車を連れて館へと走っていった。二人の会話の様子を見るに、どうやら知り合いみたいだ。
王都からの救援が来て数日が経った。冒険者と王国の騎士団によるゴブリン狩りが本格的に行われ、森に逃げていったゴブリンも殆どが討伐される。村も他種族のお陰で予想していたよりも復興が早い。
街も落ち着きを取り戻し、また静かな日常が戻ってきている。いや、静かなでは駄目なんだよ! ゴブリン騒ぎで後回しにしていたけど、店に客を呼ばないと。何か新しい商品を考えなければならないな。
う~ん、アルクス先生が使っていた結界魔術を使用した、防犯の魔道具なんてどうだろうか? 持ち運べる大きさにして、旅先で野宿した時の安全を確保する目的なら、隊商や冒険者に売れそうだ。問題は如何にコストを下げるかだな。マジックテントを覆うだけの規模の小さいもので一晩くらいなら、魔石数個でいけるか?
それと通信の魔道具も作りたい。ギルドや教会に置いてあるやつは結構な大きさらしいから、携帯電話みたいに小さくして、気軽に誰かと連絡出来るような、そんな魔道具にしたい。
これからも店を留守にすることが多くなると思うから、直ぐに母さん達と連絡出来る手段が欲しい。じゃないと安心して旅に出れないからね。こういうのは心配しすぎる位が丁度良い。先ずは結界の魔道具でも作製するとしよう。
良し! そうと決まれば早速ギルと相談だ。設置型にするか取付型にするか…… 両方作ればいいか。
新しい商品の構想を練っていると、店の扉が開き、一人のローブを羽織った客が来店してきた。フードを目深く被り、顔は確認出来ないが立端はある。
客は店の中でもフードを脱がず、物珍しそうに店内を物色していたかと思うと、足早に此方へと近づいてきた。
「腕無しに隻眼…… お前が店主だな? 報告通り、中々良い店じゃないか」
若い男性の声だ。それに、近付いた事でフードで隠された顔が現れた。この目付きの悪い顔は、最近見た覚えがある。マジかよ、何でこの店に?
「コ、コルタス殿下、ですか? 何故お一人でこのような場所に? 」
「それは勿論、お前に興味があるからだ。分かってんだぜ? お前がマジックバックの製作者だと言うことも、空間魔術の実用化に成功した最初の奴だってのもな」
ハッタリか、それとも本当なのか判断が難しい。そもそもこの王子様は一体何が目的なんだ?
「ここでは何ですので、二階で話を致しましょう」
シャルルとキッカに店番を頼み、俺はコルタス殿下を二階の応接室に案内した。ローブを脱いだコルタス殿下は、三人掛けのソファーの真ん中にドッカリと座り足を組む。
「お初にお目に掛かります。私はここの店主をしておりますライルと申します。以後お見知り置きを」
「おう、コルタスだ。一応この国の第二王子をやっている。よろしくな。それと今は非公式の場だ、そんなに改まらなくてもいいぜ」
片手を上げて軽く挨拶をする、随分とフランクな王子様だな。
「では、お言葉に甘えまして…… 目的は何ですか? 俺に何の用があるんですか? 」
軽い微笑を右の頬だけに浮かべるコルタス殿下。その目付きの悪さも相まって凶悪に見える。
「なに、下調べだよ。いずれこの街を俺が治める事になるんだからな」
は? それはどういう意味だ? まさかインファネースを、レインバーク領を奪うつもりか?
「そう睨むな、無理矢理どうこうするつもりはない。そんな事をする必要もないしな。シャロットは俺の婚約者だ。だから将来レインバーク領を治めるのは俺になると言うだけの話だ」
第二王子がシャロットの婚約者?
「この街の発展は素晴らしい。報告には上がっていたが、実際に見るまでは信じられなかった。他種族との交流を実現させたのだからな。今やインファネースはこの国にとって無くてはならない街になった。その発展の裏には必ずお前がいる。惚けても無駄だぞ。マーカス伯爵は必死に隠してはいるが、王族がちょっと本気を出せば直ぐに調べはつくんだぜ」
これは厄介や相手に目をつけられたかな? いや、まだ目的が分からないし、ここは慎重にいこう。