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二メートルはあるゴブリンキングの巨体から繰り出される、こん棒の一撃はかなり重い。そんな攻撃をギルは涼しい顔をして、大剣で弾いていく。弾かれる度にゴブリンキングのこん棒は削られていき、もうボロボロだ。
このままでは勝ち目がないと踏んだのか、ゴブリンキングはギルから距離を置き雄叫びを上げる。すると周囲のゴブリン達が集まってきた。どうやら数で勝負をするらしい。
「えぇい! 雑魚共が、邪魔をするな! 」
ギルの大剣の一振りで二、三匹のゴブリンを纏めて斬り伏せるが、数が多くてゴブリンキングまで辿り着けないでいる。
「アンネ、エレミア、ギルを援護しよう。俺なら大丈夫、ハニービィ達もいるし、殆どのゴブリン達はキングの元に集まっているみたいだ。こっちを襲う余裕はないんじゃないかな? 」
「おっしゃー! なら、さっさと終わらせちゃうか! 」
「…… 分かったわ。ライルは離れてて、直ぐに終わらせるから」
アンネは風の精霊魔法で竜巻を纏って敵陣に突っ込んでいった。ゴブリン達はアンネの纏う竜巻に巻き込まれた瞬間、ミキサーに入れられたかのようにバラバラになっていく。最低、家が無事なら良いか。
エレミアは雷の魔法を地面に流し、それに触れたゴブリンが足から頭へと電流が走って黒焦げになる。勢い余ってゴブリンの頭から空に向かって伸びる様は、まるで地面から雷が発生しているかのようだ。
キングを守るゴブリンの数が大幅に減ったのを見て、ギルは一気にゴブリンキングの元へ走り寄る。逃げても無駄だと思ったのか、ゴブリンキングも正面から迎え撃つ。ギルの怒濤の攻撃にゴブリンキングの体に切り傷がどんどん増えていき、流れた血が足下に水溜まりのようになっていた。
目に見えてゴブリンキングの動きが鈍くなり、終には膝をついてしまう。息も絶え絶えのゴブリンキングは憎しみの籠った瞳でギルを射抜く。
「これで終わりだ。なに、貴様が悪い訳ではない。運が悪かっただけだ。我とライルのいる街を襲うとはな」
「……オ、オレハ、カミニエラバレタ。ニンゲンヲ、コロシテ、ナカマヲ、フヤスノダ! 」
ゴブリンキングが喋ったのにも驚きだが、その内容は俺やアルクス先生にとって衝撃的なものだった。やはりキングという存在は神が選定していたのか。
「安心しろ、他のキングが貴様の分まで務めを果たすだろう」
ギルが言い終わると同時に大剣を横に払い、ゴブリンキングの首が飛んだ。
それを目撃したゴブリン達は大混乱。指揮系統は崩れ、戦意は喪失、散り散りになって逃げ出していく。
「ゴブリンキングは倒した。我の仕事はこれで完了だ」
逃げ出すゴブリン達には目もくれず、ギルは魔力収納に戻っていった。
「そんじゃ、わたしも戻ろっかな。いや~、働いた働いた」
アンネも魔力収納に戻り、ムウナを回収してからアルクス先生は村を覆っている結界を解く。するとまだ残っていたゴブリン達が一目散に村から出ていった。
程なくして村に兵士と冒険者、ゴーレムを連れた魔術師達が入ってくる。そして村の中にいる俺とアルクス先生、エレミアを見つけ、近くに倒れているゴブリンキングの死体と首を確認して勝利を確信した。冒険者や兵士達の歓びの声が後方へと伝わり、ゴブリンとの戦いが終わったのだと実感していく。
「ご助力、本当に有り難う御座いました。これで領民達の帰る場所を取り戻せました」
うっすらと涙を浮かべたシャロットが駆け寄り、お礼を述べてくる。外に誘い出したゴブリン達は、突然戦うのを止めて皆逃げ出したらしい。キングが倒された事を本能的に察したのだろう。村にゴブリンの残党がいるか確かめた後、俺達はゴブリンキングの首を持って、インファネースへと帰還した。
出迎えてくれた街の人達、インファネースを守ってくれたドワーフとエルフ達、そして報告を受けて西門に駆け付けた領主。皆こぞってゴブリンキングの首を見ると歓声を上げる。
ゴブリンキングは倒したが、ゴブリン達によって荒らされた村を立て直さなくてはならない。だけど今日だけは、勝利に酔いしれたい。
街の住人、難民、エルフ、ドワーフ、人魚、皆で喜び祝う。中央広場と門前広場に出店を出し、酒場でも祝いの酒を振る舞う。勿論、難民達には無料で提供している。
この日は夜遅くまで街の明かりと笑い声が消える事は無かった。
街を挙げての大宴会の翌日、村の復興の為の会議が始まる。先ずは被害状況を調査をして必要な物資、人件費等を纏めてからやっと本格的に復興へと動き出す。それまで村人達にはマジックテントを貸し与え、仮設住宅にする。安全が確保出来るまで護衛としてゴーレムとそれを操る魔術師や冒険者を被害に遭った村へと派遣した。
有り難い事に、家造りにはドワーフ達が協力を申し出てくれて、人魚達には大量の塩と魚介の支援をして貰い、エルフ達は畑を修復する手伝いを買って出てくれた。
そのお陰で随分と予算に余裕が出来て、その分を食料支援に回し、村人達がひもじい思いをせずに済んでいる。レインバーク領は他種族の皆様に大きな借りが出来た。領主はより一層に他種族との関係を大切にするだろう。領民達への信頼も厚くなり、インファネースの街は色んな種族が行き交う街へと変わりつつあった。
「この街での私の役目は終りました。報告の為に国へ戻ろうと思います。何名かの神官を残して置きますので復興のお役に立てて下さい」
「ブフ、感謝しますぞ。聖教国のお心遣い、有り難くお受け致します。教皇様に感謝の意をお伝え下さいますようお願いします」
「えぇ、しっかりとお伝え致します」
神官と神官騎士を伴って、カルネラ司教は帰り際に、「また会える日を楽しみにしてます」 と俺に言い残して、サンクラッド聖教国へ戻っていった。
王都から救援部隊が来たのは、村の復興作業を始めて二日後の事だ。騎士団を引き連れて訪れたのは、なんとこの国の第二王子であった。