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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
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 折角だから剣を使いたいと言うギルの要望に応え、ミスリルの大剣を作って渡してある。少し軽いな―― なんて言っていたが、今は愉しくゴブリン達をバラバラグチャグチャにして嗤っている。えげつない、後で掃除するんだからあまり汚さないで欲しいね。


「あ~あ、張り切っちゃって。子供じゃないんだから、しょうがないな」


 ギルのはっちゃけ振りを冷めた目でアンネは見ていた。


「それでは、作戦通りに行きます。ライル君、魔力の補充をお願いしますよ」


 屋根から降りた後、アルクス先生から大量の魔力が放出され、地面に染み込んで行く。村全体を包む半球状の立体的な魔術陣が形成された。アルクス先生がギルから教わった術式を改良して開発した “大型結界魔術” である。この結界の効果は、生物の出入りを完全に禁止するといったものだ。これで外にいるゴブリン達は村に戻る事は出来ず、村の中にいるゴブリンキングと残りのゴブリン達は逃げることが出来なくなった。


 この結界を維持する為に、俺はアルクス先生に魔力を補充し続ける。その間、俺とアルクス先生は無防備になってしまうので、アンネとエレミアに守って貰う。迫り来るゴブリン達にアンネは多種多様な精霊魔法を、エレミアは蛇腹剣と水、雷、風魔法を駆使して仕留めていく。


「ムウナも! がんばる! 」


 短く揃えた髪に、ドラゴンの手足と尻尾、そして体の至る箇所に目玉と口が生えた異形の姿をしたムウナが、ゴブリンの頭を叩き潰す。


「ムウナ! ゴブリンなら沢山食べても良いぞ! 」


「おお! やった! にく、たくさん! たべほうだい! 」


 ムウナの両腕の肘から先が、ドラゴンの頭に変化する。それを触手のように伸ばし、ゴブリンを容赦なく喰らっていく。


「す、凄まじいですね。これが異界の者の力ですか…… よく倒せましたね」


 ムウナの戦い方に顔が引きつるアルクス先生。いや、ほんとに大変でしたよ。ギルがいなけりゃ再封印も出来たかどうか怪しかったからね。つくづく味方に出来て良かったと思うよ。


「ライル! 危ない! 」


 此方に向かって飛んできた火球を、エレミアは水を纏った蛇腹剣で斬り払う。


「ありがとう、エレミア。しかし、あれは魔法だよな? 一体どこから? 」


「ライル、あいつだよ! あの屋根に乗ってる奴! 」


 アンネが指差す方向に、掌を此方に向けているゴブリンが見える。魔法スキルを持っているゴブリンか、面倒だな。


「気を付けて、あいつ一匹だけじゃない。囲まれてるわ」


 エレミアが言ったように、周囲にある家屋の屋根にゴブリンが数匹、俺達を囲い掌を向けていた。あれ全部魔法スキル持ちなのか? ギルとムウナは周りのゴブリン達を相手にしていて、此方には手が回らない。アルクス先生は結界の維持に専念して貰わないといけないし、ここは俺が魔力の補充をしながら攻撃をするしかないな。


 魔力収納から鉄を弾丸状に加工した物を数個取り出して、空に浮かべる。屋根にいるゴブリンに狙いを定めて撃ち込もうとした時、四方から火球が飛んでくる。くそ! タイミングを合わせて一斉に魔法を撃ってきやがった。しかし、ゴブリンの火球は俺達に当たることなく、アンネの精霊魔法による簡易結界と、エレミアの剣で防いでくれた。


「ライル! わたし達が守るからやっちゃいなよ! 」


「ああ! 頼んだ! 」


 回転を加えた鉄の弾丸をゴブリン達目掛けて発射する。猛スピードで迫り来る弾丸に為す術べなく、屋根にいたゴブリン達の体に無数の穴が空いた。正に蜂の巣状態だね。


 蜂の巣と言えば魔力収納にいるハニービィ達だが、クイーンの命令で外に飛び出し、周りのゴブリンに毒針を刺して応戦している。魔力収納で生活していた影響で、強化されたハニービィ達の毒針は強力になり、刺されたゴブリンが痙攣して動きが鈍くなる程だ。神経毒かな? しかも、刺した針はハニービィから抜けてしまうのだけど、直ぐに新しい針が生えてくる。これは通常のハニービィではあり得ない再生力だと、アルクス先生は驚いていた。


 突然大きな咆哮と、少し離れたところで煙が上がる。そこで大きな魔力同士がぶつかっているのが確認出来た。どうやらギルとゴブリンキングが戦っているようだ。


 ギルの下へ行きたいが、ゴブリン達に囲まれて思うように動けない。こいつら、数だけは多いな。


「ライル! ここ、まかせて! 」


 ムウナが気合の入った声を上げると、その体が大きく肥大した。遺跡で最初に見た肉の塊に姿を変える。大きさは周りの家屋とほぼ同じ、至る所に目玉が生え、ギョロギョロと忙しなく動く。

 体から何本もの触手を伸ばし、ゴブリンを掴み上げて手繰り寄せ、上半身? と呼べばいいのだろうか、ムウナの体の上半分がパッカリと開き、内側にはびっしりと鋭い牙が生えていた。そこに触手で捕らえたゴブリン達を放り込んでは咀嚼していく姿は、凄惨の一言につきる。もう皆ドン引きだよ。


 うん、ここはムウナに任せよう。これ以上はちょっと精神衛生上よろしくないからね。俺達はムウナを残し、ギルとゴブリンキングがいる場所に走り出す。


「なかなかやるではないか! 人間の姿で戦うのも楽しいものだな! 」


 そこには、愉しそうに大剣を振るうギルと、苦々しい顔して巨大なこん棒で応戦しているゴブリンキングがいた。


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