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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
182/812

10

 

「村に籠られたんじゃまた数を増やして襲って来るだろ! それまで難民達を抱えて待つっていうのか? 」


「だからと言って、此方から打って出るほどの戦力はないのよ! ここは当初の作戦通り、街の守りに徹して救援が来るのを待つのが得策よ! 」


 西商店街の代表、ティリア・マーマルと北商店街の代表、カラミア・リアンキールが会議室でコの字テーブルから身を乗りだし、言い争っている。ティリアはまたゴブリンを増やされる前に、拠点にされている村に攻めた方が良いと。対するカラミアは、無駄に戦力を消耗させずに救援が来るまで街を守りながら持ちこたえた方が良いという意見で、両者は激しくぶつかっていた。


「ふむ、さてどうしたものか…… 難しいのぉ。ライル君はどっちが良いと思うのじゃ? 」


 東商店街代表のヘバック・サラステアは顎髭を擦り、顔を顰めて意見を聞いてきた。


 そうだな、王都や他の貴族から救援が来るにはあと数日は掛かる。そのくらいだったら街に籠って待つのも良いだろう。だけど、ゴブリン達がインファネースを諦めて他の村を襲いに行ったら厄介だ。みすみす奴等に食料を渡す様なもの、それに襲われた村から村人達が此処へ逃げてきて、さらに難民の数を増やすことになる。そうなったら街の住民達のストレスは溜まっていき、トラブルの元となり、街の内側から壊されてしまう。


 どちらの意見も間違いではないのが困るんだよね。だけど今の戦力では、ゴブリン共を一掃するのは厳しいのもまた事実だ。


 結局、会議は平行線を保ったまま何も決まらなかった。其々の代表達が会議室から出ていくのを見送りながら、どうすれば最善を尽くせるのかを思案する。


「ブフゥ~…… ゴブリンキングさえ倒せたなら、あの異様な繁殖力も無くなるのだ。キングさえいなければな…… 」


 領主は疲れたように椅子に深くもたれ掛かり、ひとりごちた。


「ゴブリンキングがいなくなれば、もう爆発的にゴブリンが増えることは無くなるのですか? 」


「ブフ、そうである。キングと呼ばれる魔物には共通した力があるのだ。それは、種族の繁殖力を増加させてしまう能力。キングだけではなく、周りにいる同じ魔物にも効果を及ぼすスキルを持っているのでは? と過去の文献に記されている」


 それなら、ゴブリンキングを倒してしまえば勝機はある。問題はどうやって倒すかだ。恐らく向こうは数を増やしてまた襲おうと画策しているのだろう。それか、小刻みに強襲と退却を繰り返して少しずつ此方の戦力を消耗させる考えかも知れない。

 あのゴブリンキングは、戦況を見極めて撤退するだけの知能がある。普通のゴブリンならそのまま攻め続けた筈だ。用心深く、指揮能力もある厄介な相手だよ。


「ライル君、まだいたんですか? もう今日は休みましょう」


 アルクス先生に声を掛けられ周りを見ると、会議室に残っているのは俺、エレミア、シャロット、アルクス先生だけになっていた。


「アルクス先生、ゴブリンキングには繁殖力を強くさせるようなスキルを持っていると聞きました。生まれながらに持っている先天的スキルは、神から与えられているんですよね? 何故そのようなスキルを神は魔物に与えるのですか? 」


「…… 神様達は何も人間の味方とは限らないのです。もしそうだったのなら、魔物なんて存在はこの世界には生まれて来なかったでしょう。魔物にもスキルがあり、魔法も使える者もいます。これ等の事を鑑みるに、魔物もまた神様達が造り出したものなのです。僕達は神々の試練と呼んで、魔物の被害から身を守っているのです」


 それじゃあ、魔物による被害はこの世界が存在している限り無くならないって事なのか?


「ギルさんとアンネさんのお力を借りて、ゴブリンキングを倒すことは出来ないのでしょうか? 」


 シャロットの言葉にギルは辛辣な答えを返した。


『我等はどちらの味方にもなってはいけない。そう言う決まりなのだ。キングが生まれたというのは、彼の方がそう望まれた。つまりそういう事。彼の方の眷族である我等にはどうすることも出来ん』


 何だよそれ。じゃあ世界の安定の為に、人を減らす為だけに魔物を造ったというのか? 増えすぎた人間を間引くように。


『相変わらず頭の固いトカゲだね。そんなのわたし達の考えで如何様にもなるでしょ? ほら、よく考えてみんしゃい、ライルはあの方から魔力支配のスキルを授かったのよ。その意味があんたにも分かるわよね? そのライルが住む街が襲われてんのよ? そして街を守りたいとも思っている。だったらわたし達がそれに協力するのに何か問題はある? あの方の意思に反することにはならないと思うのよ。あんたがどう捉えようが、わたしはライルの味方よ! 』


『成る程、何時もなら鬱陶しい羽虫もたまには良いことを言う。確かに、今の世界を安定させるのにライルの存在は必要だ。そのライルの暮らしを守るのも、彼の方の眷族である我等の役目。それを脅かす者を排除するのに何も問題はないと言うことか』


 ん? 何だか勝手に話が進んでいるので、置いていかれてる感じがするな。


『えっと…… よく分からないけど、協力してくれるって事で良いんだよね? 』


『もっちろん! わたしに任せなさいよ! 何たってわたしはライルの味方だかんね!! 』


『うむ。先の戦いでまだ力は完全に戻っていないが、ゴブリンキング程度ならどうにかなるだろう』


 胸を張り過ぎて上を向いてしまっているアンネを、困り顔で見ているギル。


『ムウナも! ライルの! みかた! いっぱい、ころすよ! 』


 テンション高めに物騒な事を叫ぶムウナ。俺の中にはこんなにも心強い味方がいてくれる。時折不安に感じる事もあるけど、それ以上に頼もしい。ありがとう…… 彼等と出会えた事に、一度は失望しかけた神に感謝してしまう俺だった。

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