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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
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9

 

 思いがけない救援部隊に街の活気が戻り始めた頃、ついにあいつ等がやって来た。緑色の肉体に身長は子供ほど、太くて長い鼻、血走った目をして全体的に醜悪な見た目をしている。外の平原を埋め尽くす位のゴブリンの数、報告では五百とされていたが、それ以上はいるように見える。


 そんなゴブリン達の中に一際体の大きい奴が確認できる。恐らくあいつがゴブリンキングなのだろう。二メートル近くある体を大きく揺らしながら練り歩く姿は、キングの名前の通り威風堂々としていた。


 早速、ゴブリン達を迎え撃つ準備を始める為動き出す。西門から二百体のゴーレムを先頭に、冒険者達とドワーフの兵士達が出てきて陣形を整えた。

 インファネースへの入り口は、西門と南門の二ヶ所ある。この二つを攻めてくるかと考えていたのだが、どうみてもゴブリン達は全員西門にいるな。分散させるよりも、物量で一気に攻める事を選んだのか? 何にせよ、これで守りやすくはなった。


 壁上にはエルフ達が弓矢を構えて待機。街の兵士達は、門の側でゴブリンの侵入を防ぐ為、守りを固めている。


 街から出てきたら大量のゴーレムと人間の冒険者達、そしてドワーフの兵士達を見て、ゴブリン達の足が止まった。お互いに警戒し、にらみ合う。張り詰めた空気が両者の間に流れる、正に一触即発。


 最初に動き出したのはゴーレム達だった。生き物ではないから空気なんかお構い無し、プログラム通りゴブリン目掛けて走り出す。


 それを見てゴブリン達はギャッギャッと鳴き始め、棍棒と錆びた剣を振り回しながら向かってきた。


 ゴーレムの体は大きく、攻撃も大振りだが威力はあるので、当たりさえすればゴブリン程度、楽に仕留める事ができる。しかし、小さくて身軽なゴブリンは、ゴーレムをすり抜けて街に向かって走ってくる。それを冒険者達とドワーフの兵士達が迎え撃つ。


 一匹のゴブリンは大したことはないが、数が集まればそれだけで脅威となる。前衛でゴーレム達がゴブリン共を抑えてはいるけど、それでも数の多さに苦戦を強いられる。そんな状況の中、街の方から矢が飛んで来て、ゴブリン達の頭に突き刺さった。エルフの射った矢が命中したのだ。


 壁上からゴブリンがいる戦場まで、二百メートル以上はある。それを楽々とゴブリンに当てるとは、流石はエルフだ。


「やりますわね。わたくしもがんばらないと」


 西門の近くに設置したテントで、魔力結晶をモニターの様に平たく加工したものに、シャロットの土魔法て造り出したドローン型の偵察機が送ってくる映像が映し出されている。その映像で俺とシャロット、そして領主が戦場の様子を窺っていた。


 この魔術は術式の刻んだ魔石、魔核、魔力結晶が撮った映像をモニターに映し出す事が出来る。これを作製したのはアルクス先生であり、術式は前にギルから教えて貰ったのだそうだ。


『ふむ、確かに、そんなのを教えたような気もするな』


 教えた本人はあまり覚えてはいないようだけどね。シャロットの魔力は戦場に出ている二百体のゴーレムのコアと繋がっている状態で、これにより細かい指示は出来ないが、進め、止まれと言った大雑把な命令は下せる。最初はプログラムが働き、勝手にゴブリンに向かっていくゴーレム達に驚いていたけど、今ではモニターを見ながら指示を送っている。


 数に押され、傷付いた冒険者やドワーフは一旦街へと退避する。そこで門の近くで待機している教会の人達に回復魔法をかけてもらったり、薬屋から回復薬をもらったり、刃こぼれした武器やぼろぼろになった防具は新しい物と交換して、また戦場へと戻っていく。

 使い物にならなくなった武具は街の鍛冶屋が総出で鋳潰し、直ぐに新たな武具を造り出す。

 戦えない者達も傷ついた兵士達に手を貸したりと、街を守りたいという一心で、街の人達総出で今自分が出来る事をしている。


 最前ではゴーレムが、その後ろでは冒険者とドワーフ、そして門前には兵士達、エルフの弓矢による援護で着実にゴブリン共の数を減らしていく。


 しかし順調に思えても油断は出来ない。ゴブリン達の中で堂々と戦場を眺めている一際大きいゴブリン、ゴブリンキングがまだ動いてはいないのだから。一体奴は何を考えているのだろうか? 動かずに戦況をじっと窺うゴブリンキングに、警戒の色は濃くなる一方だ。


 どのくらいの時間が経ったのか、ゴブリンの数か目に見えて少なくなり、疲労で負傷する者達が増えてきた頃、突然大きな咆哮が聞こえた。ゴブリンキングが叫び出したのだ。その声を聞いたゴブリン達は一斉に踵を返して退却していく。


「待ちなさい! 深追いは禁物ですわよ! 」


 追撃をするゴーレム達にシャロットは待ったをかける。その様子を見て、冒険者達とドワーフの兵士達も動きを止めた。


 ゴブリン達は止まることなくそのまま離れていく。何処まで行くのか、シャロットのドローン型ゴーレムで追跡していくと、どうやら近くの村に向かっているようだ。ドローン型ゴーレムを先に進ませて村の様子を確認する。そこには無惨にも荒らされた畑や家屋、もはや村とは呼べない景色がモニターに映し出され、シャロットと領主と共に胸を痛めた。

 村の中にはゴブリンの雌と他のゴブリン達が、村に備蓄されていた食料を貪っている。まだこんなに残っているのか。


「ブフ、やはりゴブリンキングを倒さなければ、ゴブリンは増えていく一方であるな」


 まだまだ増えていきそうな様子を見て、領主の顔は脂汗でテカテカと光っていた。

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