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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第二幕】マナの大樹と眼なしのエルフ
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2

 

 まず “彼女” について説明するには、魔力収納の新たな可能性について語らなければならない。


 あれはまだアンネと出会い、旅を始めたばかりの頃だった。




「ねえ、その魔力収納ってさ、なんでも入れる事ができるの?」


「え? さあ、どうだろう? 試した事ないからな」


「はい! わたし、入ってみたい!」


 え!? 確かに生き物でも収納出来るかも、試してみようかな。


「いいよ、試してみる?」


「ほんと! やったね!!」


 アンネの全身を俺の魔力で包み込むと、収納するイメージをした。

 おとなしく俺の魔力を受け入れたアンネはそのまま収納されていった。


『お~!! すげぇ! なんだこれ!?』


 ちゃんと収納出来たか不安だったので確認したら、魔力の中でアンネが叫びながら騒いでいた。


『ひろ~い! なんもな~い! ん? なにこれ、椅子?』


『どうだ? そこはどんな感じなんだ?』


 アンネに伝えるイメージで心の中で語り掛けたら、ちゃんと届いたようで、


『おぅ? ライル? そっか……魔力の中だから、常に魔力念話が出来る状態なんだ』


『?……魔力念話?』


『後で教えたげるね♪ それより! 凄いね!! ここは……こんな空間初めてだよ』


 これを機会に色々と調べてみよう、俺一人では出来ないからな。


『アンネ、そこには酸素はあるか?』


『酸素? 空気のこと? 無いよ』


 え!? 無いのか!


『アンネは大丈夫なのか!?』


『ん? 大丈夫だよ。 わたし達は空気がなくても平気だから、魔力と“マナ”があれば生きていけるよ』


『“マナ”って何?』


『マナはね~、魔力の元かな。魔力と同じで目に見えなくてね、普通の生き物は空気と一緒に吸い込む事で体に取り込むの。そんで、取り込んだマナはその者の魔力へと変わるんだよ』


 なるほど、マナは魔力の元……か、基本的に生物は酸素がないと生きていけない。だけど、酸素だけだと魔力は貯まらない――さしずめ魔素と言った所か。


『いいこと思い付いた! ねぇ、ライル……ここを素敵空間にしようよ!』


『素敵空間? いったい何をする気だ?』


 変な事じゃなければいいが……


『ふっふ~ん、それはね……ここに地面を作ります!』


 は? “地面” を作る?


『そんでね~、花とか木を植えてね~、わたしだけの楽園を作るのです!!』


 楽園!? 何言ってんだ! こいつは……


『わたしだけのって、俺の魔力なんですけど……それに、そんな事が出来るのか?』


『細かい事は気にしない♪ 気にしない♪ それと、出来るか出来ないかじゃなくて、やるの!』


 う~ん……納得いかないが、取り敢えず試してみるか。


 まずは酸素がなければ話しにならない。俺は魔力を広げ、空気を収納するイメージをした。

 そしたら、周りの空気がどんどん収納されていく。まるで、宇宙船の窓に穴があいたかのように、凄い勢いで空気が流れ込んできた。

 大丈夫か?これ……周りの酸素が無くなってしまうんじゃないかと錯覚してしまうほどの勢いだ。


『おぉ~、空気が入ってきたよ! ほら、やれば出来るじゃん! 次は地面だよ』


 こうして、“素敵空間” 作りが始まった。土を一ヶ所から収納すると、大きな穴があいてしまうので、旅をしながら少しずつ収納していった。

 水は川から少しずつ、花も目に付いたものを、ただの木は嫌だと言うので果実が実る木を、この半年の間集め続けた結果……。


 俺の魔力収納の中はちょっとした、果樹園と花畑と小規模な湖が出来上がってしまった。


 そんな時、俺達は “彼女” に出会ったのだ。


 その日も何時ものように狩りをしていたら、なかなか大きい魔力を捉えた。白い影は熊のような形をしていて、小さな虫のような影達に纏わり付かれているのが視えた。


 その事をアンネに伝えたら、


「ウッドベアだね! アイツは硬いからちょっと面倒なんだよね~」


「周りの小さいのは何だと思う?」


「たぶん、ハニービィじゃないかな? ウッドベアの好物は蜂蜜だから」


「なるほど、関わらないで離れたほうがいいかな?」


 熊と戦うなんて冗談じゃない、自殺行為だ。


「なに言ってんの!? 蜂蜜だよ! 甘味だよ! 食べたい!!」


 食べたいって……


「どうするんだ? 相手は熊だぞ、どうやって戦う?」


「大丈夫! わたしがアイツの硬い皮膚を精霊魔法で傷つけるから、ライルはそこ目掛けて剣をぶっ刺しちゃえ!」


「その後は?」


「各自がんばる」


 作戦にもなっちゃいねぇ……でもアンネはやる気満々だし、仕方ないか。


 俺達はウッドベアが目視できる場所まで近づき、様子を見る事にした。そこには茶色と白色のマーブル模様の丸いものが、木の幹にくっついていた……が、でかい! でかすぎる! 蜜蜂の巣ってこんな大きさだったか? と思うほどだった。


 たぶん俺の体より大きい、あれじゃ枝に付けるのは無理だ、折れてしまう。


 そんな巣を豪快に壊し、中の蜜を舐めている熊がいる。あれがウッドベアか――サイズはヒグマより一回りほど大きい、体毛はなく木の皮を付けたような肌をしている。


 なるほど、これは硬そうだ。


 ハニービィ達は巣を守るため必死にウッドベアに向かっているが、硬い皮膚にはハニービィの針は通らないようだ。


「よし! そんじゃ、やりますか!」


 アンネが魔力を放出し、精霊魔法の準備をしているので俺も魔力収納から剣を取り出す。


「いくよ! 風の精霊さん、やっちゃって~!」


 そう言うと、アンネからウッドベア目掛けて突風が襲い掛かっていく。

 風がウッドベアを通り抜けた時、体の至る所に切り口が出来ていて、そこから血が吹き出ていた。


 相変わらず凄い威力だ。あの血の出方からして、かなり深いとこまでいってるな、その切り口の一つに狙いを絞り……剣を放った!


 ウッドベアは突然の事で驚いたのか、身動きひとつ取れずに左胸に剣が突き刺さる。


 よし!――いや、駄目だ! 浅い……ウッドベアがこっちを向き、大きな雄叫びをあげる。怒りが籠ったその声は、体中にビリビリと響き渡った。


 俺の中から恐怖が込み上げてきたが、気合いでそれを押さえつけた。――舐めるなよ! そんなんで俺がびびるか! 浅く刺さったのなら“深く”すればいいだけだ。


 まだ刺さっている剣を魔力で操り、押し込んだ……ウッドベアは苦しそうな声をあげ、剣を引き抜こうとしているが俺が押し込んでいるので剣は動かない。


 それを好機と見たのか、ハニービィ達がウッドベアに群がり、傷口から針を刺していく……痛みで手がゆるんだのを見計らい、一気に押し込む。


 そのままウッドベアは後ろへと倒れた――ふぅ、やっぱり命のやり取りは慣れないな、そう思い地面に座り込んでいたら、


「ライル!!」


 アンネが俺の名前を叫んだので、急いで顔を上げると……いつの間に起きたのか、ウッドベアが此方に全速力で向かって来ていた。


 俺は魔力でウッドベアを覆う――くそ! 抵抗が強くて、うまく支配出来ない! まだこんな力を残していたのか。


 その時、強い風が吹いたかと思ったら、ウッドベアの首から血が吹き出し、地面へと落ちていく。


「油断大敵……だよ」


 振り返るとアンネが右手を突き出したまま、俺を見つめていた。


「……助かった……ありがとう」


「帰ったら、反省会だかんね」


 ウッドベアを収納し、ハニービィ達のもとへ向かった……巣は無惨に壊されていて、蜂蜜は残ってはいないようだ。


「これじゃ~蜂蜜は無理だね……せっかくの甘味が~」


 アンネがボロボロの巣を見て項垂れている直ぐ傍に、首と脚にふわふわの毛を着けた、一際大きなハニービィが地面でうつ伏せになっていた。

 でかいな、身長はアンネと同じぐらいだ。


「クイーンだね、だいぶ弱ってるみたい」


 アンネがクイーンと呼んだハニービィは弱々しく鳴いている。その周りに――子供達だろうか? ハニービィ達が心配そうに集まってきていた。


「仕方ないよ、これが自然の摂理ってやつだよ」


 クイーンに近づき、身を屈めるとハニービィ達は大きく羽を鳴らし威嚇してきたので、これ以上近寄らずクイーンへと魔力を伸ばした。

 俺とクイーンの魔力が繋がるのを感じたので、魔力念話で意思を伝える。


『ちゃんと伝わってるかな? 今から貴女を治すから、俺の魔力を受け入れてほしい』


 クイーンはピクリと触角を動かすと、その複眼で俺を見つめた……ような気がした。


 ――何故?――


 という疑問の思念が伝わってきた。なるほど、言葉を持たない相手とはこんな感じなのか、感情や意思がそのまま伝わってきてるようだ。


『俺は魔力で怪我などを治す事が出来るんだ、だけど貴女が拒絶してしまったら治せない……頼むから、俺に貴女を治させてほしい、貴女を心配しているこの子達のためにも』


 ――了解――


 思念が伝わってきたと同時にするりと、俺の魔力がクイーンに浸透していった。

 クイーンの体の情報と今の状態を読み取り、細胞を操って怪我を治した。怪我が治ったクイーンは羽を羽ばたかせ、俺の顔の位置でホバリングをしながら、


 ――感謝――


 と思念を送ってきたので、


『なあ、俺と取引をしないか? 君達に外敵のいない安全な場所を提供する事が出来る。花も沢山あるし、湖もある。食事には困らないはずだ』


 ――本当?――


『ああ、本当だ。ただ……君らが困らない程度でいいんだけど、蜂蜜を分けてくれないかな?』


 ――問題無い――


『なら、みんなをここに集めてほしい、それと全員に俺の魔力を受け入れるよう言ってくれないか?』


 ――了解――


 クイーンが思念を送ってきた直後、ハニービィ達が一斉に集まってきた。


「うお! びっくりした」


「この子達はみんなクイーンの分身みたいなものだから魔力を繋げなくても念話が出来るし、距離も関係ないんだよ。凄いよね!」


 群にして個ってやつか……


 ――準備万端――


『それじゃ、いくぞ』




 こうして、ハニービィ達を魔力収納へ招待した。思いのほか気に入ってくれたみたいでクイーンに大変感謝された――なんでも、魔力収納の中で育った花から採れる蜜の質と量が素晴らしいみたいで、今では、あのでかい巣が三つもある。





「ライル~! 授業中にボケ~としないの!」


 俺が“彼女”――クイーンとの出会いを振り返っていたらアンネに注意されてしまった。


「早く魔力念話でハニービィ達から蜂蜜貰ってきて! はやく~!!」


 こいつ、蜂蜜が食べたいだけじゃないか……

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