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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
179/812

7

 

「グフ、急な呼び出しですまない。急を要する事なのでな。こうして迅速に集まってくれて有り難く思うぞ」


 南商店街の代表である俺と、北商店街代表のカラミア・リアンキール、西商店街代表のティリア・マーマル、東商店街代表のヘバック・サラステアは、緊急会議と称して領主から呼び出される。館の会議室で、コの字型のテーブルにそれぞれ席につき、領主の報告に耳を傾けていた。


「斥候に出していた兵士と冒険者の報告を照らし合わせると、ゴブリンの軍勢は凡そ五百、その歩みは遅く、村の食料を根こそぎ食い荒らしてから動きだしているらしい。よって、此方に到着するには、五、六日といった所である」


「う~む、今から王都へ救援要請をしても間に合うかどうか…… 時間がないのぅ」


 ヘバックは綺麗に整えられた髭を擦り、唸っている。


「隣の領主は当てにならないわ。貴族派だから、此方の弱味につけこんで何を要求してくるか分かったもんじゃないわよ! 」


 カラミアは悔しそうに顔を歪め、親指の爪をガリガリと噛んだ。


「それよりも、住民達をどうするかだ! 皆不安と不満が溜まってきている。今はまだ良いけど、その内難民達と揉め事を起こすわ」


 ティリアは小さい体を前のめりにして、住民達の暮らしの安全を訴えた。


「ブフゥ~、ティリアは住民達への配慮を頼む。カラミアは信頼できる貴族に呼び掛け、支援の要請を。ヘバックには漁師の協力を仰ぎ、食料を調達して貰いたい。ライル君には、洗浄の魔道具の提供と、シャロットの手伝いをしてくれ」


 シャロットの手伝い? 頭に疑問符を浮かべている間に他の三人は既に退室していた。領主からシャロットの居場所を教えて貰い訪ねてみると、そこには大量のゴーレムが並んでいた。どうやらここはシャロットの作業部屋のようだな。


「おや? 来ましたね、ライル君。待っていましたよ」


「アルクス先生。あの、シャロットの手伝いと聞かされて来たのですが、何をしているのですか? 」


「君から貰ったマナトライトを組み込んだゴーレムを大量生産している所ですよ。このゴーレム達を使って、街の防衛に役立てようと言うわけです。ゴーレム自体はシャロットさんの魔法で材料を加工して造り、僕達魔術師は、ゴーレムの中核となる魔核に術式を刻むのが仕事です。ライル君にはシャロットさんの魔力の補充をお願いします」


 すっかりと俺は魔力タンク扱いだな。まぁ、それぐらいしか役に立てないか。ゴーレムを造っているシャロットの所へ向かい、魔力の補充に専念していると、アルクス先生が困った様子で近付いてきた。


「困った事になりました。魔核が足りません。せめてもう百体は造っておきたいのですが」


「あら? それはいけませんわね。冒険者ギルドと商工ギルドには問い合わせはしたのですか? 」


「はい、どちらも在庫は無いようです」


 冒険者の数が少ないので、少しでも多くのゴーレムで補いたい。一度に百体以上のゴーレムを動かすのは、いくら土魔法が得意なシャロットでも無理だ。だから魔核に制御魔術を刻み、自立型のゴーレムを作製しているのに、肝心の魔核が足りないときた。ギルドに在庫は無いし、今から魔獣や魔物を狩っている暇も無い。どうしたものかと頭を悩ませていると、魔力収納の中にいるムウナが元気良く俺の名前を呼んだ。


『ライル! ライル! ムウナ、つくる。まかく、つくるよ! 』


 言われて思い出した。ムウナには食べたものの器官を造り出す事が出来るのだ。千年前にもそうやって魔核を造り、人間達に提供していたんだったな。


『ムウナ、確か魔核を造るには自分の体を削らなければならないんだよね? 大丈夫なのか? 』


『ごはん! たくさん、ひつよう! できれば、にく! がいい! 』


 沢山食べて体の体積を増やせば問題はないらしい。なら、ムウナに頼むとするか。

 俺は収納内にある食料を片っ端らからムウナに与えた。買い置きしていた肉から、収納内で育てている野菜や果物、とにかく食える物ならなんでもだ。


『あ~!! お酒はダメだかんね! これはわたしのだから! 』


『おさけ、からだ、ふえない、いらない。にく、がいい』


 肉が一番効率良く体を大きく出来るようだ。一通り食べると、ムウナは体をブルブルと震わせ、中からバレーボール程の紫色した魔核を生み出した。


『なっ!? これは、ドラゴンの魔核ではないか! こんな物まで造りだせるのか』


 魔核と言うのは、魔物や魔獣の体内に生成される魔力を貯めて使う為の器官である。その色は、生成された生物の血液の色と同じだと言われている。よって殆どの魔核は赤色をしているのだが、海の魔物達は深い藍色をしている。そして、下級ドラゴンであるワイバーンも、赤竜や緑竜といった通常のドラゴンの魔核は紫色をしている。


『うむ、この大きさと色合いからして、赤竜の魔核だな』


『どう? すごい? もっと、つくるよ! 』


 凄いのだけれど、この大きさではゴーレムに組み込めないので、半分の大きさまで加工してからアルクス先生に渡す事にした。


 ドラゴンの魔核を渡されたアルクス先生はあまりの驚きで言葉を失っていたが、この魔核なら稼働時間が大幅に増えると喜び、ゴーレムに取り付けていた。


「有り難う御座います。こんな貴重な物を分けて頂いて」


「非常事態だからね。それに、頑張っているのはムウナだから」


「そうでしたの。なら、ムウナ君には沢山お礼をしなくてはなりませんわね」


『にく! にく! おれい、たくさんの、にく、 がいい! 』


 魔核を生み出しながら、声を張り上げて要求するムウナの様子をシャロットに伝えると、「無事に事が済みましたら、いっぱいご用意致しますわ」 と微笑んだ。

 それを聞いたムウナが喜び勇んだのは言わずとも分かるだろう。

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