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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
177/812

5

 

「…… と言う訳で、国を挙げてマナトライトの採掘が行われるようになった。まだ生きている鉱山、死んだと思われている鉱山も調べ直し、採掘作業が始まるようである」


 王都に向かった領主は、王にマナトライトの存在と重要性を説き、認められると直ぐにインファネースに戻ってきた。そして館に帰る途中に俺の店に立ち寄って、経緯を報告してくれた。


「今まで見逃されていた分、大量に採掘出来そうですね」


 何せ千年分だからな。それを国はどう扱うのか分からないが、平和的なものであってほしいものだ。


「グフフ、ほんの少し離れていただけで、ドワーフの店も出来て、随分と賑やかになったようだの。街が活気づくのは嬉しい事である」


 穏やかに笑い店から出ていく領主の背中は、やる気に満ちていた。


「にく…… おおきい、にく」


 黙って領主を見詰めていたムウナが、物騒な言葉を呟く。いや、食べちゃ駄目だからね!


 領主が街に戻り、本格的に人魚達の安全面が強化される事になる。街の中に迄は入らないが、港で魚介を売る人魚達の姿を見掛けるようになった。人魚達は、鋏が異様に大きく気性の荒いマッドクラブ、体が宝石のように輝く深海の生物ジュエルロブスター、メガロシャークと同等の巨体を誇るフォートマグロといった人間では捕るのが難しい獲物を持ち込んでは、漁港を賑やかせている。


 やはり人魚達にも契約やスカウトの話が持ち掛けられるが、誰一人首を縦に振る者はいなかった。人間の社会には興味があり利用はするけど、組み込まれたくはないようだ。


 ヘバックと人魚達の最初の取り引きの日、商品の受け渡しの場所として決めた無人島へ俺も一緒に行くことになった。最初だから何かあった時の為に、交流のある俺についてきて欲しいとヘバックに頼まれたのだ。そんなヘバックの心配は杞憂に終わり、無事に取り引きは終了した。

 他国から仕入れた陶器、家具、インテリア等に人魚達が楽しそうに物色している様子を見て、俺とヘバックは揃って胸を撫で下ろす。




「えっ!? この街へですか? 」


「あぁ、人魚やドワーフの話を聞いて、里の若い者達が興味を持ってしまってね。どうしたものかと思って相談しに来たんだ」


 困り顔で地下の転移門から来たのはエルフの里の長老、イズディアであった。どうやら他の種族がこの街で積極的に人間達と関わっているのを聞いて、触発されてしまったようだ。

 もし、人間の街で商売をするのならどんな物が良いのかと、長老から相談を持ち掛けられた。


「しかし、店を持ちたい訳ではないらしくてね。ライル君が言っていた出店? といったかな? それなら店を持たなくても商売が出来るのだろう? 」


「それなら、商工ギルドに登録すれば大丈夫ですよ。お金が多少掛かりますけど、問題はないでしょう。肝心の何を売るかですが、里で作った野菜、お酒、果物等が宜しいかと」


 エルフは薬づくりに長けてはいるが、他の薬屋との軋轢を生む恐れがあるので控えた方が良いだろう。里で育てている棉花から作った綿布は、リタの服屋と専属契約をしているようなものだし、これぐらいじゃないかな?


「そうか、出来れば領主と会っておきたいのだが、頼めるかな? 」


「あ、はい。俺の方から話を通しておきますね」


「すまないね、何時までも君の世話になりっぱなしは良くないと、里の者達も思っていてね。森に引き込もってばかりでは何も進めないと感じ始めたのさ。君が切っ掛けをくれたお陰だ。ありがとう」


「いえ、これが本当にエルフ達にとって良い事なのかはまだ分かりません。人間達に目をつけられ、面倒事に繋がってしまう可能性もあります」


「だけど、里は停滞したままだ。何かを変えて、前を進むというのは常に危険を伴うもの。それを乗り越えなければ未来を歩く事など出来はしないよ」


 この話を領主を持っていった所、是非もない―― と直ぐに場を設けた。領主は特にエルフに求める物はない、インファネースで商売を始めてくれるだけで、街にとって大きな利益になると言って無条件で許可してくれた。


 エルフが持ち込む野菜と果物は新鮮で味も良く、ワイン、ブランデー、デザートワインは直ぐに完売してしまうほどの人気である。


 中央広場ではドワーフとエルフが出店を開き、漁港では人魚達が珍しい魚介を持ってくる。そんな光景が話題になり、益々インファネースは注目されていった。しかし良いことばかりではない。他領からの悪質な引き抜きもあるので、街の警備はより一層強化された。


 街に来るようになったエルフ達が、一番興味を持ったのがパン屋だ。エルフの里では小麦は栽培してなく、たまに来るドワーフからパンを仕入れていたくらいだったので、様々な種類のパンに釘付けだ。因みに人魚達はお好み焼きに興味津々である。


 終にはパン屋で働きたいと言ってくるエルフも出てくる始末。長老の許可を貰ったエルフの女性は南商店街にあるパン屋で働き出した。そしてパン作りの技術を里に広めた結果、里ではちょっとしたパンブームが巻き起っている。確実に変わり始めている里の様子を長老は愉しそうに眺めていた。


 う~ん、街が賑やかになるのは良いんだけど、エルフやドワーフの出店や店が話題になりすぎて、また俺の店にあまり客が来なくなって暇になりつつある。ヤバイな、何か対策を考えなくては。

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