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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
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2

 

「グフフ、無事で何よりである。直ぐに会えずにすまなかった。色々と立て込んでいて中々時間が作れなかったのだ」


「いえ、領主様がお忙しいのは重々承知しております。こうして態々お暇を作って頂き感謝します」


 俺はレインバーク領の領主である、マーカス・レインバーク伯爵に呼ばれたので領主の館まで来ていた。ガマガエルの様な顔に、横に肥大した体。見た目は立派な悪徳貴族、中身は娘と領民を大切にする心優しき人物。これ程の見た目詐欺はそんなに無いだろうね。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでしたわ。こうしてご無事に戻って来て頂けた事を、嬉しく思います。お帰りなさいませ、ライルさん」


「はい、有り難う御座います。ただいま戻りました、シャロット様」


 領主の娘で俺と同じ日本人としての記憶を持つ、立派な眉毛に金髪縦ロールの女性、シャロット・レインバークと挨拶を交わす。シャロットは今、アルクス先生と一緒に新しいゴーレムの制御魔術の開発をしているらしい。


「この旅で何か大きな収穫があったようだの。良ければ吾輩に聞かせて貰えんか? 」


 領主はこう言っているが、既に調査済みなんだろうな。下手な事は言わずに正直に話す方が良い、隠す所は隠すけどね。

 俺は領主にドワーフの国に行き、個人的な取り引きをおこなった事を話した。自分が調べた物と相違がない事を確認した領主は大きく頷く。


「うむ、そのマナトライトとやらは千年前には当たり前のように使われていたのであるな? しかし、今では加工技術が失われてしまい、知る者はいなくなったと」


「はい、その通りで御座います。これをご覧下さい。これがマナトライト鉱石で御座います」


 俺と領主の間にあるテーブルに、ドワーフの国から仕入れたマナトライト鉱石を魔力収納から取り出して置いた。


「…… ? 此れがそうであるか? 吾輩には只の石にしか見えんが? 」


 そう、それがマナトライトが世に伝わらなかった要因の一つでもある。見た目は其処らに転がっている石ころと同じなのだ。加工して初めて、あの淡い緑色した金属になる。ドルムの話しだと、マナトライト鉱石は鉄鉱石に次ぐ採掘量だったらしく、当たり前のように使われていた金属であり、そんなに珍しい物では無かった。


 千年前、他の種族の反対を押切り、世界の為に戦ったギルを封印してしまった為、ドワーフや他の種族は人間達から離れていってしまった。化け物に食われたり、殺されたりして人間の数は大幅に減り、その他の事情も合わさって、段々とマナトライトの存在が伝わらなくなっていったのだろう。


 マナトライト鉱石は、たまに鉄鉱石と一緒に出てくることもあるらしい。しかし見た目が石ころなので、それと気付かずに見過ごしてしまっている事例が多いとドルムは語ってくれた。人間の採掘場で削った石と一緒にマナトライト鉱石を捨てているのを見て驚いたとも言っていたな。

 マナトライト鉱石の見分け方は簡単で、魔力を通すだけで良い。そうすると、所々緑色に発色する。只の石に魔力を通す人なんてそうそういないので、今まで気づかれなかったのだろう。例え気づいた人がいたとしても、加工方法が分からなければ光る石でしかない。


「ブフゥ~、成る程。見分けるのはとても容易であるな。吾輩達はそんな有用な資源を知らずに捨てていたと言うことになる。実に勿体ない。ライル君、マナトライト鉱石の見分け方と加工方法をこの国に広める事は出来ないかね? 」


「申し訳ありませんが、私の一存では決められません。一旦持ち帰っても宜しいでしょうか? 」


「勿論、構わんよ。鍛冶屋におるドワーフと相談して決めて欲しい。良い返事を期待しておるぞ」


「では、エントランスまでお送り致しますわ」


 応接室で領主と別れ、シャロットにエントランスまで送って貰う。


「ライルさん。マナトライトなのですが、是非ともわたくしのシュバリエに組み込みたいと考えておりますの。そうすれば、シュバリエの運動能力の向上に加え、強化にもなりますわ」


 相変わらずゴーレムに熱心な事で。でも確かにマナトライトがあれば色んな事が可能になる。例えば、マナトライトをワイヤーの様に使用すれば、ロボットの定番であるロケットパンチのようなものができるな。それだったら個人的に見てみたい。


「もし駄目だったとしても、個人的にシャロットに渡すよ」


「申し訳ありません、我が儘を言ったみたいで。でも有り難う御座います。これで理想のロボットに近づけますわ」


 満足気に笑うシャロットに見送られ領主の館を後にした俺は、その足でガンテの鍛冶屋に向かい、ドルムに相談を持ち掛けた。


「う~む、別にワシ等はこの技術を秘匿している訳ではないからのぉ。良いとは思うが、取り合えず王に報告してみるかの」


「すみません、お手数をお掛けします」


 ドルムは俺の店の地下からドワーフの国に行き、戻って来たのは翌日だった。しかし転移門から来たのはドルムだけではなく、ドワーフの国の宰相であるエギルも来たのだ。


「ご無沙汰しております、ライル君。詳細はドルムから伺っております。ここの領主との商談の為、私が遣わされましてね」


「そうだったんですか、ご足労頂き有り難う御座います。では、早速ですが領主の館まで案内致します」


 領主とエギルの商談は滞りなく行われ、マナトライト鉱石の見分け方と加工方法をリラグンド王国に広める事を許可する代わりに、ドワーフ達がインファネースの街を自由に出入りできる権利を求め、商談は成立した。



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