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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第八幕】平穏な日常と不穏の訪れ
173/812

1

 

 夏も終盤に差し掛かるが、うだるような暑さは続く。大魔力結晶のお陰で店の中は涼しく過ごしやすい。しかし、その弊害もある。俺の店を休憩所代わりにする輩が出てくるのだ。


「だからね、ライル君。師匠は厳しすぎると思うんだよ。それに声がデカイ。あんなに張らなくても聞こえるのに、どうして怒鳴るように声を荒らげるのかな? 」


 今日もガンテが休憩と言う名の逃亡をして、俺の店でドルムへの愚痴を溢している。初めはドワーフから鍛冶を教わる事が出来るなんて感激だと喜んでいたのに。


「こぉらぁ!! やはり此処におったか! 休憩は終わりじゃ! はよ来んかい! 」


 勢いよく店の扉を開けて入ってきたのは、ガンテが師匠と呼ぶドワーフのドルムだった。


「し、師匠、もう少し休ませて下さいよ。こう暑くては集中出来なくて」


「全く、その肉体は見せ掛けか? こんな暑さで参るとは情けない。それでも鍛冶師か? 」


 ドルムは呆れたように溜め息をつき、カウンターに近づく。


「すまんのぉ、出来損ないの弟子が迷惑を掛ける。それと、ウイスキーを一樽貰えんか? 」


「ドルムさん、毎日のように買っていってくれるのは嬉しいのですが、この調子だとギムルッド王に渡す分が無くなってしまいますよ」


「む? う~む、そりゃいかんな。今日は瓶一本にして残りはエールで済ますとするかの」


 ウイスキーを一瓶購入したドルムは、ガンテを無理矢理に連れ立って店を後にした。現在ドルムはガンテの店に住み込みで鍛冶を教えている。人間達の間ではドワーフというのは、神出鬼没だが決して珍しい存在と言うわけではない。たけど、ドワーフが人間の街に住むのは珍しいようで、ガンテの店はドワーフがいる店としてインファネースでは、ちょっとした注目の的になっている。


「大変そうだけど、繁盛しているんだから良いわよねぇ」


 紫色の角刈りをしたタンクトップのオカマである薬屋のデイジーが、冷えた麦茶を飲みながら憩っていた。いや、あんたも帰れよ。


「デイジー、おかわり、どぞ」


 普通の男の子の姿をしたムウナがデイジーに麦茶のお代わりを差し出す。気が利くのは良い事なんだけど、気を利かす相手を選ぶ事を覚えて欲しいね。


「あら? ありがとね、ぼうや」


「どう、いたし、まして」


 デイジーに頭を撫でられたムウナは上機嫌で店の奥に引っ込んでいく。クッキーを焼いている母さんに、おやつでもねだりに行ったのだろう。シャルルとキッカは、そんなムウナの様子を微笑ましく見ていた。この二人には、ムウナは俺の親戚として紹介していて、異界から召喚され、世界を滅ぼしかけた存在だとは知らない。今のムウナの身長は、シャルルとキッカよりも頭一つぶん小さい。その為、二人の弟的立場になり良く世話を焼いている。自分達より小さい存在が出来て嬉しそうだ。


「相変わらず質素な店ね。なのに快適に感じるが不思議なのよね」


 開口一番にそんな事を言う、派手な服装に盛りに盛った髪型の女性、北商店街の代表であるカラミア・リアンキールが訪ねてきた。


「いらっしゃいませ。今日はどの様なご用件で? 」


「デザートワインは入荷したかしら? 」


 “デザートワイン” 切っ掛けはアンネの「別の甘い酒が飲みたい! 」と言った所から始まった。果実酒と蜂蜜酒以外の甘い酒といったらデザートワイン位しか思い付かなかったのだ。前世では、果実を凍らせて水分を限界まで取り除き、濃縮された果汁を使って造る。

 これを異世界でやるのなら、果物を凍らせるのは水魔法を使えば出来るし、その他の手順も前世と比べると魔法と魔術がある分、楽に造れると言える。だが最低でも三年は寝かせないと美味しく飲めない。そこでギルとリリィの協力の元、発酵や熟成を促す魔術を開発した。

 俺の魔力支配で菌を支配して活性化させる事が出来たので、魔術でも同じ事が出来るのではないかと考えた。だけど俺一人では魔術の開発なんか出来るわけもなく、ギルとリリィに協力を仰いだ次第である。


 そして完成した魔術をエルフの里にあるワイン樽に刻み、エルフ達が自分の魔力を使い発動させ、短期間で十分に熟成させる事に成功した。これにより、味噌、醤油、ワイン、ブランデーの生産量が大幅に上昇した。ただ、自身の魔力を使用するので使いすぎには注意が必要だ。

 そうして最低ラインの量を生産する期間が減り、余裕が出来たので、新たにデザートワインの生産も任せることにした。デザートワインには、葡萄と林檎の二種類。僅か五百ミリリットルの中に林檎十二個分が詰まったデザートワインは、香りも味もガツンッとくる甘さに仕上がった。


 その出来にアンネはいたく気に入り、蜂蜜酒に次ぐ好物となったのは言わずとも分かるだろう。それを店でも売り出したのだが、カラミアが目をつけ持っていった所、貴族の女性達に大受けだったみたいで、こうして大量に購入していってくれる。


「はい、丁度入荷したばかりですよ」


「それは良かったわ。取り合えず入荷した半分を頂戴」


 一応、他の人達に遠慮してくれているけど、入荷量の半分でもかなりの数になるんだよね。カラミアの店の従業員が、せっせとマジックバッグに瓶詰めされたデザートワインを詰め込み、カラミア達は店を出ていった。


「ほんと、金持ちに売れそうな商品には鼻が利くのよねぇ、あのオバさん」


 キッカから購入したのか、いつの間にか林檎のデザートワインを飲んでいるデイジーが扉を見詰めて呟いた。


 だから、いい加減に帰れよ! これから仕事に戻るのに、なに酒なんか飲んでんだ!

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