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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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35

 

 一夜明けて、俺達はギムルッド王とエギル、ドルムと共に謁見室に集まっている。


「では、転移門が繋り次第、お主の店に邪魔させてもらうぞ」


「はい、お待ちしております」


 クレス達もギムルッド王と挨拶を交わし、アンネの精霊魔法でインファネース付近の空間へと繋いだ。何で店に繋がずに態々離れた場所に繋いだかと言うと、馬車でインファネースから出発したので、馬車で戻らないと怪しまれる恐れがあるからだ。


 俺達と、荷物を纏めたドルムは繋がれた空間の穴を通り抜けた。辺りには草原が拡がり、微かに潮の香りがしてくる。あぁ、戻ってきたって感じがするな。


 魔力収納から馬車とルーサを表に出して、俺達は馬車に乗り込みインファネースに向けて出発した。御者台にはレイシアが乗っている。近くに見える海にドルムは懐かしそうに目を細めた。


「海の幸と旨い酒、今から楽しみじゃわい」


「それも良いですが、ちゃんとマナトライトの加工技術を教えてやってくださいよ」


「分かっとるわい、ワシに任せい。一から鍛え直してやるぞ」


 それはそれで不安だな、程々にお願いしますよ。


「そう言えば、リリィ。聞きたい事があるんだけど、罪は赦されたんだよね? なら、リリィはもう魔法スキルを授かれるのか? 」


「…… 残念だけど、それは出来ない。神達が一度定めたものは変えられない。でも、私や他の人達のこれから産まれてくる子供達が、不憫な思いをしなくても済むのは嬉しい。未来に希望が持てる。私の両親のように、自分の子供に謝らなくても良いのだから」


 子供が魔法を使えないのは親のせい。それは、自分が魔法を使えない以上の苦しみと罪悪感が在るのだろう。リリィはそんな両親を見て育ってきた。自分がこの先一生魔法が使えなくとも、自分の子供は使えるようになる。ただそれだけで、未来が明るく開けた感じがする。リリィの一族の罪は赦されたのだ。


 それから程なくして、インファネースのコンクリートで出来た巨大な門が見えてくる。門を潜る時、門番にお帰りなさいと言われて不覚にも胸にきてしまったのは俺だけの秘密だ。


「それじゃ、僕達はここで失礼するよ。君達との旅は楽しかった。何か困った事があったら、何時でも訪ねてきてくれ。必ず力になるから」


 柔かな笑顔で握手を求めるクレスに、木の腕を操りそれに応えた。


「ライル殿の事情も多少は理解しているつもりだ。許可無くライル殿の力を触れ回るつもりはない、安心してくれ。我等は共に世界の危機を救った仲間なのだからな! 」


 フンスっ! と鼻を鳴らし、胸を張るレイシア。相変わらず真っ直ぐな女性だ。


「…… 皆のお陰で私達の未来が開けた。深く感謝する。この恩は決して忘れない。一生を掛けてでも、恩を返すつもり」


 大袈裟だなと思ったけど、自分の子供が魔法を授かれないのは困るからね。そのせいで不憫な思いをさせずに済む、リリィの未来への選択肢が増えたのだ。大袈裟な表現にもなるよな。


「此方も皆さんとの旅で色々と学びました。ありがとうございます。機会がありましたら、またご一緒しましょう」


「私も、中々楽しかったわ。またね」


 クレス達と冒険者ギルド前で別れ、エレミアが操る馬車で俺達の店に向かう。南商店街を馬車で進み、我が家兼店に到着した。離れていた時間は二週間程だが、凄く懐かしく感じてしまう。やる事が沢山出来た、けれど先ずは……


「ただいま!! 」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺達がインファネースに戻って半月が経った。留守にしていた約二週間、店の方は特に問題は無かったようだ。何事もなくて良かったよ。


 母さん、シャルル、キッカに帰還の挨拶を済まし、ドルムを紹介した後、シャルルとキッカを上に残して、地下に転移門を設置した。そこでドルムが一旦ドワーフの国に戻り、ギムルッド王へ報告をしている間に、母さんに旅の経緯を説明する。

 その過程でムウナを紹介する流れになったので紹介した。初めて見る異界の異形者に警戒していた母さんだったが、ムウナの素直で明るい性格のお陰で警戒心が大分薄れたみたいだ。でも、取り扱い注意だと言うことは忘れないで欲しい。


 そうこうしていると、転移門からドルムと宰相のエギル、そしてギムルッド王が姿を現した。本当に王自ら来たよ。突然のドワーフの王の出現で驚いたものの、母さんは直ぐに持ち直し、跪いて挨拶を交わす。

 その様子にギムルッド王は感心していたので印象は悪くない筈だ。その後に転移門から人魚達がやって来たのを見て、女王に会わせて欲しいと頼んでいた。

 人魚の女王に会ったギムルッド王は、過去に何も出来なかった事、アダマンタイトによる混乱の一部に加担していた事を謝罪した。ドワーフ達は人間達と協力してアダマンタイトを加工していた。そのせいで人間達がアダマンタイトの有用性を見出だしたという訳らしい。

 女王はギムルッド王の謝罪を受け入れ、ドワーフと人魚の交流がこの店を通して始まる。手始めに人魚からは海産物を、ドワーフからは武具や調理器具等の生産を請け負う形になった。トラブルが起きないよう俺達が仲介人となり、取り引きは行われる。


 南商店街の唯一の鍛冶屋であるガンテにマナトライトを持って行き、ドルムを紹介した。初めて見るマナトライトと、ドワーフから鍛冶を教わると聞いたガンテは飛び上がらん程に喜んだ。しかし、その喜びは長くは続かなかった。ドワーフの指導は想像以上に厳しいようで、怒鳴るのは当たり前、酷い時には拳骨が降ってくるとか。休憩と称して俺の店に逃げ込んできたガンテが、疲れきった様子で語っていたな。


 ムウナは普通の男の子の姿をとり、店の手伝いをするようになった。シャルルとキッカも弟が出来たみたいだと喜んでいる。今のところ特に問題は起こしてはいないが、商品を補充するとき触手を使うのは止めて欲しい。楽で便利なのは分かるけど、何処に人の目があるか分からないからな。十分に注意が必要である。それ以外は素直で良い子なんだけどね。


 俺とエレミアが戻ったと聞いて、アルクス先生が直ぐに訪ねて来てくれた。俺はアルクス先生にリリィの先祖や一族の事を話した。アルクス先生が魔法スキルを授かれなかったのは隔世遺伝により、リリィの一族の血が色濃く出てしまったからではないか。そして、リリィの先祖であるリクセンド・グレシアムが犯した罪は赦され、もう魔法スキルを授かれない子供は産まれては来ないと聞いたアルクス先生は涙を溢し、


「…… ありがとう、ライル君。僕は不安で仕方ありませんでした。僕の子供が、僕と同じ様に魔法スキルを授かれないのではないかと…… でも、これで僕の不安は消えました。本当にありがとう。それとすみません。君の話によれば、僕もその罪人の子孫なんですよね? それなのに力になれなくて…… 」


 そう言って深々と頭を下げてきた。アルクス先生がもしかしたらリリィと同じ一族の血を受け継いでいるのではと気付いたのが、ドワーフの国に着いた後の事だったので仕方無いとアルクス先生を宥める。漸く落ち着きを取り戻したアルクス先生に再度お礼を言われ、店から出ていくその横顔は実に晴々としていた。

 罪は赦されたとしても、それが適応されるのはこれから産まれてくる子供達だけで、既に産まれてきているアルクス先生やリリィは魔法スキルを授かれないままなのだが、将来の不安が一つ解消されたのだ。


 持ち帰った大魔力結晶なのだが、店の地下深くに設置してマナトライトをコードのように繋ぎ、転移門やクーラー、店自体に新しく刻んだ魔術の発動と維持に利用している。

 店に刻んだ魔術とは、結界魔術である。外からの衝撃は勿論、火をつけようとしても防いでくれる。入り口の鍵を閉めてしまえば、誰も中に入る事は出来ないだろう。大魔力結晶の魔力変換効率でないと維持は難しい。

 因みに、空いた窓からは自由に出入りが出来るので、クイーン二世の子供であるハニービィ達は屋根裏の窓を利用して、家の外と中を監視している。何か異常を感知した時、クイーン二世から俺の中にいるクイーンへと念話で伝わることになっているので安心だ。


 さて、まだまだやりたい事は沢山ある。それに他の領地で生産、販売しているマジックバッグの様子も気になるし、新しい商品の開拓もしたい。まだまだ忙しくなりそうだ。

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