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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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31

 

 ギルの強力な一撃で、周りにいた人型の化け物達も消滅したようだ。アンネが結界を解いたので、俺は魔力をギルに繋げて話し掛ける。


『ギル、お疲れ様。あの化け物は死んだんだよね? 』


『ああ…… 我の渾身の一撃を喰らったのだ。塵も残らず消滅したわ。ふぅ…… ライルよ、我は疲れた。暫しお前の中で休みたい』


『分かった。ゆっくりと休んでて』


 ギルを収納して寝床である洞穴に休ませる。


「ギルティエンテは大丈夫なのかい? 」


「疲れたから休むってさ」


 それを聞いたクレスは、安心したように頬笑んだ。次第に周囲が騒がしくなっていく。ドワーフ達が化け物を倒した事を実感し始めたのだろう。だけど、此方の犠牲はゼロではない。俺の意識が囚われていた時、人型の化け物達が一斉に襲い掛かってきた時、勇敢に戦い、命を散らしたドワーフ達がいた。死んでなければ俺の魔力支配で治せるのだけど、死者はどうする事も出来ない。なので、即死してしまったドワーフには何も出来なかった。


 それでも、想定していたよりも被害が少なくて済んだとルドガーは言ってくれるが、俺達の顔は晴れない。けれどもドワーフ達は笑い、喜び合う。仲間は名誉の死を迎え、胸を張って神の御許に旅だったのだと、誇りに思っているようだ。これが種族による価値観の違いってやつなのかな。


「それで、この子は誰だい? 僕に紹介してくれないか? 」


 俺の傍に引っ付いている、とても人間とは言えない姿をした男の子であるムウナを見て、クレスの表情が若干固くなる。レイシアとリリィも此方に気付き集まって来たので、化け物に精神が引き摺り込まれてから、アンネに助けて貰うまでの事を説明した。


「成る程、この子が召喚された化け物で、さっき倒したのがこの子の体を乗っ取ったという、犠牲者達の思念なんだね」


「このこ、ちがう! ムウナは、ムウナ! 」


 ムウナが俺の腰元で、両手を振り上げて激しく抗議する。


「ああ、ごめんよ。僕はクレス、よろしくね」


「私はレイシアだ! 異界より召喚されし者、ムウナよ。よろしく頼む」


「…… リリィ、よろしく」


「私はエレミアよ。よろしくね、ムウナ君」


 其々の自己紹介を受け、ムウナは全身の目を頻りに瞬かせる。


「クレス! レイシア! リリィ! エレミア! おぼえた、よろしく」


 皆とムウナが打ち解けたのは良いけど、リリィの一族に課せられた罰はどうなるのだろうか? 本体はまだ生きているので、罪は赦されないのか?


「…… 大丈夫、神からの言葉を賜った。罪は赦された。ただし、ムウナが再び世界に仇なす事があれば、今度はライルが責任を負う」


 おぅ、それって矛先が俺に向いただけなのでは? でもこれで、魔法スキルが授かれない子供は生まれる事はないだろう。


「これで、世界の危機は一先ず無くなったで良いんだよね? もうヘトヘトだし、早くドワーフの国に戻ろうか」


 クレスの提案に反対する者は誰もいなかった。アンネ、エレミア、ムウナは魔力収納の中に入り、俺達はドワーフ達と共に転移門から王城へと戻ったのだった。


 無事に帰還した俺達をギムルッド王は大いに歓迎し、化け物との戦いと結末の報告を受け、大層喜んだ。


「感謝する! これで友の罪が赦されたのだ! こんなに嬉しい事はない!! 今日はゆっくりと休むが良い。明日は宴じゃ! 勝利の宴を開くぞ! 」


「陛下、宴も宜しいのですが、最期まで勇敢に戦った兵士達を弔いたいのです」


「うむ、彼等は真の英雄だ。我らドワーフは喪に服す事はない。酒を飲み、騒ぎ、死者を称える。これがドワーフよ! 明日は生き残った者も、神の御許に旅だった者も、共に盛大に祝い、弔おうぞ!」


 俺達は各自部屋に戻り、ベッドに飛び込んだ。ダブルサイズの広さでフカフカのベッドと掛け布団に包まれて、疲れきった体はすぐに睡眠へと誘われる。


『ライル! 何故化け物がここにいるのだ! 』


『ムウナは、ムウナ! いっしょ、おどろう! たのしい、たのしいよ? 』


『えぇい! 鬱陶しい!! 我は休養中だ! 寄るな、向こうへ行け! 』


『お~い! こんな奴は放っといて、わたしと踊ろうぜ! 』


『わかった、ムウナ、アンネと、おどる! 』


『イェ~イ! 音の精霊よ、ノリノリでいくよ~! 』


『喧しいぞ! 向こうでやれ! 』


 アンネは音の精霊で、前に俺の記憶を魔力念話で見せて聞かせたヒップホップ・ミュージックを再現して、ムウナと一緒に踊り始めた。俺はそっと魔力収納との映像と音声を切る。これで静かに眠れる。



 翌朝というか、もう昼過ぎだけど、目覚めると城中が騒がしい。宴の準備でバタバタとしていた。


『おはよう、ライル。お腹減ってない? 減ってるなら用意するけど』


『おはよう、エレミア。そうだね、何か軽く食べたいから、サンドイッチをお願いするよ』


 エレミアに肉と野菜のサンドイッチを作って貰った。


『ライル! ライル! おはよう』


 サンドイッチを頬張っていると、ムウナが元気よく挨拶をしてくる。朝からハイテンションだね。


『あはよう、ムウナ。朝から元気だね、ご飯は食べた? 』


『ムウナ、げんき! ここ、たのしい。ごはん、おいしい。いきもの、ちがう、たべる、いい? 』


 料理は生き物では無いから食べても大丈夫? って事かな?


『ああ、料理は食べても大丈夫だよ。でも、人の物は勝手に食べては駄目だからね』


『わかった! ひとの、もの、かって、たべない! 』


 うん、素直でよろしい。手間は掛かるけど、ちゃんと教えないと、またとんでもない事になるからな。


『ライルよ、我が寝床の壁をもっと厚くしてくれんか? あの馬鹿どもが一晩中踊りおって、安眠妨害も甚だしい』


 ギルがげんなりとした声で頼んでくる。あの二人、一晩中踊ってたのか。


 メイドの話だと宴は夕方に開くらしい。ギルの寝床の壁を厚くしたら、夕方までのんびりと過ごすとしよう。

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