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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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26

 

『ほらほら! どうした! トカゲ野郎の本気ってのを見せてみんしゃい! 』


『ええい! うろちょろと目障りな羽虫だ! 少しぐらい黙ってられんのか』


 アンネとギルは互いに文句を言い合いながら戦っているけど、アンネが精霊魔法で化け物の攻撃を防いでくれるので、ギルは攻撃に専念できていようだ。中々に息が合っているじゃないか。


 その間もクレスは光魔法でレーザー光線を放ち、光の速度で攻撃を躱している。

 エレミアも雷魔法で攻撃を与えては、向かってくる触手のような腕を、俺が作って渡した蛇腹剣で斬り伏せていた。

 俺とリリィに向かってくる触手は全てレイシアが防いでくれているが、流石に一人では厳しいみたいだ。そして、一本の触手がレイシアの守りを抜けてリリィに向かっていく。


「くっ!? リリィ!! 避けろ! 」


 レイシアが叫ぶがもう遅い。リリィの身体能力では、あの触手に対しては反応出来ない。先が鋭く尖った触手が今まさにリリィの柔肌をローブの上から貫かんと迫ってくる。俺も触手に魔力を伸ばすが間に合いそうもない。


「ウオォォォ!! 」


 もう駄目かと思われたその時、小さな影がリリィを横から突き飛ばす。リリィのいた場所には、ドワーフの兵士長、ルドガーが触手に腹を貫かれていた。ルドガーは自分の腹に突き刺さっている触手を斧で切り落とし、乱暴に引き抜く。


「大丈夫です! すぐに治します」


 方膝をつき、息も絶え絶えなルドガーを魔力支配の力で細胞を操り傷を塞いだ。


「き、傷が治った? すまない、助かった」


「いえ、お礼を言うのは此方の方です。お陰でリリィが助かりました。あっ、無理はしないでください。傷は塞ぎましたが、失った血や、体力までは戻りませんので」


「いや、大丈夫だ。我々にも戦わせて欲しい。大した威力ではないが、我々も火と土の魔法スキルをもっている」


 幾ら俺でも百人を超えるドワーフ達の魔力までは補充は出来ない。さて、どうするか?


『クレスさん、忙しい所すみませんが、ドワーフ達も戦いに参加したいらしいのですが、どうしますか? 』


『そうだね。彼等には君達の護衛と、封印具の杭を弩砲で化け物に撃ち込んで貰おう。確か、杭の封印具は動きを鈍らせるんだよね? 鈍くなった所でギルディエンテが強力な一撃を喰らわせる。っと!? ふぅ、今のは危なかった…… それじゃ宜しく頼むよ』


 おぅ、今クレスが光の速度で空中回避したぞ。光魔法はそんな事も出来るのか。


 俺はルドガーにも魔力を繋ぎ、クレスの指示を伝えた。半数のドワーフ達は俺達の周りに集り、襲い掛かる触手を防ぎ、火魔法の火球を化け物にぶつける。威力は無いが気をそらす事は出来る。もう半数のドワーフは弩砲に封印具の杭をセットして、いつでも発射出来るように準備をする。


『ギル、クレスの言うような強力な一撃ってあるの? 』


『あぁ、ある。とっておきなのがな。それを放つには多少時間が必要ではあるが、お前達が時間を稼いでくれるのなら勝機は充分にある』


 時間を稼ぐか、それならあの杭はうってつけだな。準備が済んだドワーフ達が弩砲の照準を化け物に合わす。魔力念話を通してお互いにタイミングを調整して機をうかがう。


「撃て!! 」


 ルドガーの合図で三つの弩砲に装填された杭を化け物目掛けて発射した。三本の杭は触手を掻い潜り、真っ直ぐ化け物に向かっていく。誰もが命中を確信したその時、化け物の体に穴が空き、その穴を杭が三本とも通り抜けてしまい化け物には当たらなかった。


「は、外れた」


 くそ! そんなのありかよ! 残りの杭は後十二本。このまま避けられ続けられると厳しいな。


「グオォォォ!! 」


 ギルの悲痛の叫びが響き渡る。何事かと様子を見ると、ギルの左手首が化け物に食い千切られていた。


『おのれ、抜かったわ』


 次第に激しさが増す化け物の攻撃にアンネの防御が追い付かなくなっていたようだ。


『ちょっと! しっかりしなさいよ! 』


『フン! これくらいどうと言うことはない! 』


 化け物の体中から生えて襲ってくる触手とドラゴンの腕に頭。もう最初に見た原形は留めてはいない。疲れを知らないと見えるような攻撃に、すぐに再生する回復力がクレス達の体力を削っていき、避けきれずに傷を負う場面が増えてきた。


 このままではジリ貧だ。杭を撃ち込もうにも、またあんな避け方をされたらと思うと、数に限りがあるのでそうそう撃ち込めない。一瞬でいいんだ、杭が当たる瞬間に動きを押さえる事が出来たら……

 ん? そう言えば、あの化け物は異界から召喚されたので魔力を持たないと言っていたな。今も化け物から魔力は視えない。という事はだ、魔力が無ければ魔力同士の反発は起きない。俺の魔力支配は自身の魔力で触れる物を支配出来る力で、魔力同士の反発さえ起きなければ、どんなに大きかろうが完全に支配出来るかも知れない。


 試してみる価値はあるな。俺は魔力念話でクレス達にその旨を伝えた。


『それが本当ならかなり有利になるね』


『まて! 我は反対だ! 化け物を支配するという事は深く繋がるという事なのだぞ! 何があるか分からん』


『わたしも同意見だね! 他の方法を探そうよ』


『皆疲れが溜まっていて危険なんだ。試すだけはしたい。やばそうになったらすぐに魔力の繋がりを切ればいいんだし、頼むよ』


 ギルとアンネに、少しでも異変を感じたら魔力の繋がりを切ると約束することで納得してもらった。早速魔力を化け物に伸ばし、俺と化け物を魔力で繋げて解析を試みる。


 なんだこれ? これが生物の細胞なのか? というかこれは生き物なのか? 分からない。何もかもが未知で、俺の頭では理解が及ばない。


 …… ? 何かに引っ張られる感じがする。魔力を通じて引き寄せられる。やばい! と思った瞬間に俺の意識は何処かへ引きずり込まれた。

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