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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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25

 

 檻を良く監察すると、所々欠けていたり、錆が目立つ。千年も魔術を発動し続けていたのだから当たり前か。むしろ良くもったと感心するよ。


「…… 檻の術式を止める。ライル、お願い」


 え? 俺が止めるの? 出来れば他の人にやって貰いたいのだけど。そう目線で訴えて見ても、リリィは知らん振り。やるしかないのか。


 どうやって止めようか? 普通に止めるのも良いけど、化け物が解き放たれた時、あの大魔力結晶がどうなるのか気になる。ドワーフの地下鉄への入り口になっていた大岩と大差ない大きさ。周囲のマナを取り込み、魔力に変換する効率が良いのだろう。そうじゃないとこれ程までに長く魔術を発動させられないし、再び封印した時の為にも必要になる。


 なので俺は大魔力結晶を収納する事にした。


 突如無くなった大魔力結晶にドワーフ達が多少ざわついたが、それどころではないと皆が気づく。魔力供給が止まり、魔術を維持出来なくなった檻の中身が徐々に顕になっていく。


 “それ” が姿を現した時、一切の音が消えた。俺も、リリィ達も、ドワーフの兵士達でさえ、言葉はおろか呼吸さえも忘れたかのように止まってしまった。


 なんだ “アレ” は? 誰かが言う。でもその答えは誰も知らない。黒くて肉のような質感をもった塊、リリィの言っていた通りだが、かなりの大きさだ。その表面には唇がなく、歯や牙が剥き出しになった口と、瞼がないギョロっとした目玉が幾つもついていた。呼吸でもしているのか、ゆっくりと膨らんでは縮んでいる。


 檻の中に無惨にも破壊された杭と鎖の残骸が転がっていた。もう “アレ” を縛るものは無い。光が宿らない濁った目玉達が忙しなく動いて俺達を見ている。顎を震わせカチカチと鳴らす音が後ろから聞こえてきた。誰も動けずに “アレ” の姿に釘付けになっている中、堂々とした声が化け物に向かって放たれる。


「久しいな、化け物。我を覚えているか? 」


 ギルが声を掛けると、化け物の目玉が一斉にギルに方に向く。


「だ、だぁずげでぇ」

「しね、しね、しね」

「なぁんでぇ、おれだけぇ? 」

「ママァ、どこぉなのぉ? 」

「いだいよぉ、ごわいよぉ」

「ヒヒヒ…… ヒャハ! ゲヒャ! 」


 まるで会話にならない。化け物についている幾つもの口から別々に発せられる言葉は、大人から子供、女性から男性と様々だった。


「おぞましい化け物よ。今度こそ貴様を滅してやろうぞ! 」


 ギルの体が急速に膨らみ、ドラゴンの姿へと変わっていく。黒光りした鱗の体に、真っ赤な模様が血管のように全身を巡っている。金色の双眼に、こめかみから生えた長い角と鼻先から生える短い角。鋭い牙を晒し威嚇するギルに、恐怖よりも頼もしさを覚える。


 ドラゴンの姿に戻ったギルを見て、化け物は大きく体を震わせ、その身から人間の手を生やし、檻を力ずくで破壊する。そして、ただの塊だった形体を変化させ、ギルに似たドラゴンの頭を三つ、腕を六本、足を4本生やした。


「ぬぅ…… またしても我の体を模したか」


 そうか、あの化け物は食べたものの器官を造り出す事が出来ると言っていたな。恐らく対象のDNAを取り込み、同じものを自分の肉体で再現出来るのだろう。千年前の戦いでギルの血肉を取り込んで、ギルの体を再現できるようになっていたのか。


 ギルの鱗はアダマンタイト並に頑丈で、牙や爪も同等の威力を持つ。そんな最強とも言える肉体をあの化け物は、全く同じものを造れる。いや、性能が同じ分手数が多い化け物の方が有利と言える。


「所詮は紛い物。そんなものを幾ら生やしたとしても、我には勝てんぞ! 」


 二つの巨体が勢い良くぶつかり合う。その余波で建物に罅が入り、崩れていく。


「後退しろ!! 早くこの建物から出るんだ! 」


 ドワーフの兵士長であるルドガーが大声で指示を出し、ドワーフ達は急いで建物から脱出する。


「僕達も急いで離れた方が良い」


 俺達が建物から出ると同時に完全に建物が崩壊しても、ギルと化け物はお互いに攻撃の手を緩めてはいなかった。


 ギルが鋭い牙で化け物の体を噛み千切り、その鋭利な爪で切り裂く。しかし化け物は、自分の体をどんなに傷付けられても動じる事はなく、傷もすぐに修復されていく。


 化け物の体から生えた三つのドラゴンの首が触手のように伸び、ギルに襲い掛かる。ギルはその巨体にも関わらず、俊敏な動きで躱しては自身の爪で襲ってきた首の一つを切り落とす。だが、化け物の攻撃は首だけであらず、ギルの腕を模したものが六本同時に迫って来ていた。


 回避を試みるも失敗し、ギルの体に少なくはない切り傷を残す事になった。一旦化け物との距離を取り体勢を整えるが、切り落とされた首を化け物は取り込み、再生している。見た目ではダメージを負っているようには見えない。これで本当に千年の封印で弱っているのか疑問である。


 決して優勢とは言えない戦いに、俺達も加勢した方が良いとは思うが、こんな怪獣同士の争いにどうやって加わればいいんだ?


「ギルディエンテは一人で戦いたいと言っていたけど、もう黙っては見ていられない」


 そう言って剣を抜くクレスに同意するかのように、レイシアとリリィも戦闘体勢に入る。それを見て俺も魔力をクレス達に繋げて魔力の補充に備えた。


『それで、どうするんですか? 』


 魔力念話でクレスに指示を仰ぐ。


『オークの時と同じさ。僕とエレミアが攻撃を仕掛ける。リリィは魔術で援護、レイシアは二人を守る。ライル君は魔力の補充に専念して、余裕があれば援護も頼む』


 クレスの体か光り輝き、姿が消える。光の速さで化け物に向かったようだ。


「はぁ、しょ~がない。わたしもギルの所に行くよ。協力するって言ったからね」


 アンネは顔を顰めている。ギルと力を合わせるのがそんなに嫌なのかね?


「アンネ、気を付けろよ」


「大丈~夫よ! ライルこそ気を付けなさいよね! 変な事は考えないように!! 」


 アンネはちいさな手で俺の額をコツンと小突き、ギルの方へ飛んで行った。


 俺はギルとアンネにも魔力を繋ぐ。


『ギル! 皆と協力しよう。それで駄目なら封印する』


『むぅ、もう少し一人で戦いたかったが、致し方ない』


 渋々だけど承知してくれたみたいだ。あの化け物も体は治せても、ダメージまでは回復はしないだろう。ならば攻撃あるのみ。


『はん! 一人で大丈夫とか言っておきながらこの体たらく、情けないね! この千年で鈍ったんじゃないの? 』


『黙れ、羽虫が。こんなものはまだ準備運動に過ぎない。本番はこれからだ! 』


 さて、出し惜しみは無しだ。魔力支配の力を存分に使わせて貰うよ。

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