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封印具が完成したと報告を受けたギムルッド王は、俺達に封印の遺跡への立ち入り許可を与えた。遺跡の入り口は、王城で厳重に管理している。王城に遺跡の入り口があるのか? と思ったが、遺跡へは転移門で行くしかないと言う。何でも遺跡全体に強力な結界を張っているらしく、外からでは辿り着けないようになっているようだ。
俺達はギムルッド王と共に、遺跡の入り口である転移門を管理している部屋の前に来ている。重厚な扉を開けて中に入ると、そこには巨大な転移門と、その前で綺麗に整列しているドワーフの兵士達の姿があった。
「陛下…… これは一体? 」
優に百人を超えるドワーフ達に呆気に取られたクレスが、それでも何とか声を絞り出してギムルッド王に尋ねた。
「壮観じゃろ? 命知らずのドワーフ兵の中から特に精鋭達を揃えた。よもやお主らだけで行くと思っておったのか? 最後までワシらは協力する。そう決めておるのじゃ。ワシももう少し若ければこの兵士達に加わっておるんじゃが、残念で仕方ない」
いやいや、王自ら出向くのは不味いだろ、この兵士達で十分だ。見ろよ、あのドワーフ達の顔と気迫を、あれは死を覚悟した者達だ。頼もしいを通り越して恐ろしく感じる。そんな彼等を目の前にして、思わずぶるりと体が震えた。
「選ばれしドワーフの精鋭達よ! この戦いは決して歴史には残らん。名誉も何もお主らに与えるものは無い! それでも命をかける者達よ! この戦いに勝利したのならお主らは、命を落とした者も、生き残った者も、みな等しく英雄である!! 表に出なくとも、世界を救う英雄になれる事を誇りに思うが良い! 」
ギムルッド王が言い終わると同時に、ドワーフの兵士達は一斉に斧を掲げ、雄叫びを上げた。その声は低音で重く、俺の全身に響き渡る。その覚悟が籠った声に、何だか俺まで高揚してしまう。
いよいよ出立の時、転移門を発動させ門の中の景色が変わる。
「では、頼んだぞ。旧き友の子孫、リリィ。そして人間の英雄達よ」
「…… はい。行って参ります」
俺達はギムルッド王に一礼して、転移門を潜り抜けたその場所は、正に遺跡と言うのに相応しい所だった。
朽ち果てた建物に植物が絡まり、都市と自然が一体になった景色だ。道は草が生い茂りボロボロだが、きちんと整備されていたのが分かる。建物も殆どが原形を止めていて、建築技術の高さが窺える。これで千年前と言うのだから驚きだ。
封印具を乗せた荷車と弩砲を運び、がらがらと音を立てて転移門からドワーフの兵士達がやって来る。全員が転移門を潜った所で一人の兵士が此方に近づいてきた。
「初めまして。兵士長のルドガーと言います。王の命令により、我々は貴方がたの指揮下に入ります。早速ですが、この後の予定をお伺いしても宜しいですか? 」
ルドガーと名乗ったドワーフもだけど、ここにいる兵士達は皆、王様やドルムと比べて、髭が短いな。やっぱり戦闘の邪魔になるからかな?
「…… 封印されている場所に向かう。案内出来る? 」
「ええ、監視の為に何度か来た事がありますので、大丈夫です。それと戦闘に関してですが、我々はどの様に動けばいいので? 」
そうだな、封印具で化け物の動きを封じて、ギルに倒してもらうのが最善ではないだろうか? そう提案しようとしたら、人化したギルが魔力収納から出てきた。
「お前らは我の邪魔にならぬよう後ろに下がっていろ。 “あれ” とは我だけで戦わせて貰う」
ギルの不遜な物言いにドワーフ達はいきり立つ。おい、命をかけてきたドワーフ達にそんな風に言ったら怒るのも当然だよ。
「我々では役に立たぬと、そう仰りたいのですか? 」
ほら、ルドガーなんか表情こそ変わってないが、額に浮かんだ血管が凄い事になっているぞ。かなりご立腹のようだ。
「…… 当初の計画は、ギルディエンテが化け物と戦い、私達は補助的な立場。もし、ギルディエンテでも敵わないと判断した場合、もう一度封印する手筈。申し訳ないが、先ずはギルディエンテで様子見をさせてほしい。それで駄目だったら封印するのに協力して貰いたい」
リリィの言葉を受けて、ルドガーは暫し思案した後、納得したかのように軽く頷いた。
「確かに、我々は化け物を見たことがありませんからね。どんな姿で、どんな力があるのかは文献でしか知りません。しかし、もし我々の助力があれば倒せると判断した場合、受け入れて貰いたい」
全員の視線がギルに集中する。
「良かろう。まぁ我だけで十分だと思うが、厳しいと判断した場合、手を出す事を許す」
ふぅ、どうにか話は纏まったかな?
「な~にが、許す―― だよ! 前回、あんなにボロボロにやられちゃったのをお忘れなんですかね~」
「アンネ様、これから大事な戦闘が控えておりますので、余計な挑発は控えてください」
魔力収納からアンネとエレミアも出てきた。ここはもうドワーフの国ではないから、エレミアは平気だし、ギムルッド王の言い付けも破る事にはならないので、アンネも普通に出てこれる。
妖精の姿を見たドワーフ達は多少狼狽えたが、まだ若いのだろう。話には聞いていただけで、実際に被害にあった者はいなかったようで、すぐにおさまった。
「それでは、ご案内しますので、ついてきてください」
気を取り直したルドガーが、化け物が封印された場所へと案内する。遺跡の奥に行くほど建物の損害が酷くなり、終には建物の姿が見えなくなった。うっすらと雑草が生えた地面と瓦礫が広がる場所に神殿のような建物がある。中は広く、一部屋だけ。その中央にポツンと大きな檻が一つ、異様な光景だ。
檻の中はリリィが言っていた異空間になっていて、鉄格子の間から見えるのは黒い空間があるだけで中は確認出来ない。天井には巨大な魔力結晶が吊られていて、不気味に赤く輝いていた。これがリリィの言っていた大魔力結晶か。何やらワイヤーのようなもので大魔力結晶と檻を繋いでいる。あのワイヤーを通して魔力供給を行っているようだ。
ここに、例の化け物がいるのか。やばい、緊張で催してきた。一旦トイレ休憩にしませんかね?