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う~、頭が痛い、あいつら酒強すぎ。王との酒盛りの翌日、痛む頭を魔力支配のスキルで治し、部屋から出て中庭へ向かう。そこにはドワーフの兵士とクレス達が戦闘訓練をしていた。朝からご苦労な事で。
ドワーフの兵士は剣ではなくて斧が主流だ。その小さな体からは想像も出来ない程素早く動く。小回りも効いて膂力もあるが少々持久力に難がある。だからドワーフの戦いは短期決戦であり、長引くと不利になってしまう。
クレス達はその事を分かっていて、わざと長引かせることはせずに、ドワーフの兵士がバテる前に決着をつけていた。ドワーフ達はそんなクレス達の姿勢を気に入ったようで、我先にとクレス達に向かっていく。ここでも人気者だね。
そんな光景を暫く眺め、リリィが作業をしているという地下倉庫へと足を運んだ。
見張りの兵士に扉を開けてもらい中に入ると、まず最初に巨大な檻が目に入る。それと杭に、あれはギルを縛っていた鎖と同じものか? リリィは魔導書を片手に鎖へ術式を刻んでいる最中だった。途中で声を掛けるのは何だし、終わるまで待つ事にしよう。
少し離れた所で様子を見ているとリリィは一息つき、手で額の汗を拭う。どうやら一段落ついたようなので、俺は近づき話し掛けた。
「お疲れ様。調子はどう? 」
「…… 順調そのもの。このまま行けば、五日程で封印具は完成する」
流石はリリィ、仕事が早い。決戦まで後少しか、正直に言えば今すぐにでも逃げたい気分だ。封印の準備は万全だしギルもいる。俺がいる必要はあるのか? ついそんなふうに考えてしまう。
「この封印具はどうやって使うんだ? 」
「……… 先ず、この杭に刻まれている魔術を発動した後に、鎖と一緒に弩砲で化け物に撃ち込む。そしたらその鎖で化け物を縛り魔術を発動させる。これで一時的だけど動きを抑える事が出来る。その隙に檻の中に化け物を入れて、檻に刻まれている魔術を発動、その魔術を維持するために大魔力結晶を設置すれば封印は完了」
「大魔力結晶? 」
「…… ん、化け物は異界から召喚された。この世界の理から外れた存在。よって魔力を持たず、魔術の維持には外部から魔力を供給する必要があった。当時、街のエネルギーとして利用していた大魔力結晶を使用したと思われる。杭と鎖に刻まれている魔術は動きを封じるもの。そして檻に刻まれている魔術によって内部は亜空間となり、化け物を外に出さないようにしてある」
こんな馬鹿デカイ檻じゃないといけないような化け物を、よく封じられたな。
『我もいたのだ、封じる事は容易い。まぁ、あのままでも我が勝っていたがな』
成る程、それなら納得できる。でもその後にギルも鎖で封印されたんだよな、そりゃ他の種族も呆れるわ。
「あのさ、ギムルッド王からリリィの御先祖の事を聞いたんだけどさ…… 」
俺は昨日ギムルッド王から聞いたリクセンドの話をリリィに伝える。リリィは最後まで口を挟まずに黙って聞いていた。
「…… そう。でも事情はどうあれ、化け物を呼び出し、世界に大きな損害と混乱を招いた事には変わりない」
やっぱりそう考えるか。せめて先祖に抱いている悪感情が無くなればと思ったんだけどな。
「…… でも、私の先祖が最低のクズでは無かったのが分かった。ありがとう」
口角を軽く上げて頬笑むリリィを見て、内心ホッとした。余計なお世話かと思ったけど、自分のご先祖様を恨んで欲しくはなかったから。
「手伝おうか? 教えてくれれば、術式を刻めると思う」
「…… それじゃあ、お願いする」
リリィから術式を学び、封印具の作製を手伝う。それにより作業効率が上り、予定よりも早く完成しそうだ。
それからは朝から晩までリリィと一緒に封印具作りの日々が続いた。その間もクレスとレイシアはドワーフの兵士との訓練と、街に繰り出しては、役に立つ物がないかと探しているようだ。
エレミアは、封印具作りの合間に作った新しい剣を使いこなせるように収納内で練習している。ドルムから貰ったマナトライトとミスリルを使用した剣で、芯となる部分にマナトライトを、剣身と刃はミスリルにしてあり、一定間隔に繋ぎ目がある。魔力を通して芯になっているマナトライトを魔力操作で伸ばすと、剣身が伸びて鞭のようになる。所謂、蛇腹剣と呼ばれるものだ。
普通の鞭のように腕だけでなく、魔力操作でも多少軌道修正が可能なので、使いこなせれば戦力アップ間違い無しである。それと俺の丸ノコにも改良を加えた、といっても盾になる部分に防壁の術式を刻んだ魔力結晶を埋め込んだだけなんだけどね。これで幾分か防御面が強化されたかな。
後は、低品質の魔石に爆裂の魔術を刻んだ “魔石爆弾” と名付けた物も作った。これは術式を発動させると三秒後に爆発するという単純な物だけど、威力は中々である。
それとギムルッド王なんだけど、あれから夜になると毎日のように部屋を訪ねてくるようになり、毎晩ギルと酒を呑んでいる。お酒あげるから、ご自分の部屋で飲んでくれませんかね?
こうして着々と準備を整え、ついに封印具が完成した。あとは化け物を倒す、それが無理なら再び封印するだけだ。