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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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22

 

 語りすぎて喉が渇いたのか、ギムルッド王はウイスキーの水割りをぐいっと煽った。


「そこから先はお主らが知っておる事で概ね間違ってはおらぬ。じゃがな、友の名誉の為に言っておくが、リクセンドは好きで逃げた訳ではない。ワシが無理矢理に逃がしたのじゃ。あの化け物の制御が不能になった時、あやつが国に残り化け物と戦おうとしておったのをワシが止めた。どう考えても手遅れだったからじゃ。ワシはの…… 国の存亡よりも、国民の命よりも、あやつに…… リクセンドに生きていて欲しかったのじゃ。だからあやつがワシに、妻と子供を託して死地に赴こうとするのを、力ずくで止めて国から逃がした。生き残った国民達は散り散りに別の国へ、又は遠く離れた山奥へと逃げ延び、程なくして国は滅んだ。化け物が過ぎ去った王城と王都だった場所で、リクセンドは獣のように泣いた。涙を拭おうとせず、喉が枯れるまで慟哭しておった」


 怖くなって逃げたのでは無かった訳か。でも、一族には愚王として語り継がれているのは何故だ?


「その後も化け物は止まらず、周辺の国々を壊滅させていった。これに危機を覚えた神が、ギルティエンテを向かわせた。そしてワシらと人間、その他の種族の力を合わせ、化け物を封印することが出来たのじゃ。その封印の術式を開発したのが、リクセンドである。あやつは己の正体を隠し、自分が犯した罪の責任を取ろうとしたんじゃ。封印が成功したのを見届けると、あやつは妻と子供を引き連れて、何処かへと消えてしまった。あやつから神の声を聞いたと言われた時、ワシは決意を固めた。友の罪が赦されるまで、この術式と封印の地を管理し、来るべき時に友の子孫に力を貸すとな。それから暫くして、風の噂で生き残った国民達と小さな村を作って、細々と暮らしていると聞いたのじゃ。恐らくあやつは、自らの罪を忘れぬ為に国を捨てた愚王として、語り継がせておったのじゃろう。変な所で頑固者じゃったからの」


 そう言って少し微笑んだギムルッド王の目から、一滴の涙が零れ落ちる。


「おっと、歳を取ると涙脆くていかんの」


 誤魔化すようにウイスキーを煽り、そっと涙を拭う。どんな理由があろうとも自分が決断を下した結果、化け物を呼び出し、国から逃げ、世界を滅ぼしかけた事実は変わらない。リクセンドは言い訳をせずに有りのままの自分を残したかったのだろうな。子孫に恨まれても愚王として、まるで反面教師のように、子孫達に未来を託した。


「こんな話をするつもりは無かったのじゃがな、旨い酒と肴で口が軽くなってしもうた。それに、何だか懐かしい感じがしての。まるでリクセンドと呑んでいるようじゃ」


 それは、同じ世界での記憶持ちだからかな? 似たような事をアルクス先生にも言われたっけ。やはり別の世界の記憶を持っている者は似たような雰囲気でも醸し出しているのだろうか?


 その後も他愛ない会話を交わし、酒を飲み続ける。


「終ぞ空を飛ぶ鉄箱は作れなんだ。空を飛ばすのにも大量の魔力が必要なのに人を乗せなければならない。ならドラゴンの背に乗った方が余程楽と言うものじゃ。しかしそんなことは分かっておる。異世界で出来たことを、ここで出来ないというのが悔しいのじゃよ! 」


「あ~、確かにそうですね。向こうは魔力なんて力は無かったですから。それなのにこの世界より便利なので、納得はいきませんよね」


「おお! 分かってくれるか。流石はあの方に選ばれた者じゃな」


 空瓶が十本を越えた辺りから、ギムルッド王の態度が少し砕けた感じになっていった。完全に酔っぱらっているね。ご機嫌な様子なので大丈夫かと思ったのか、アンネとギルが魔力収納から出て来てしまい、酒盛りに変わった。


「やっぱりお酒といったら蜂蜜酒でしょ~が! この美味しさが分っかんないかな~」


「じゃから妖精は子供舌と言われるんじゃ。甘いもんばっかり食しておるから、そんな能天気でおられるのかのぉ」


「ふむ、我もドワーフの王に同意する。貴様らがもっとしっかりしておれば、マナ枯渇の危機など起きなかったかもしれんのだぞ」


「にゃにお~! それと甘いもん好きは関係ないじゃろがい! 」


 この二人が加わるだけで随分と賑やかになるな。いくらアンネでも二対一は分が悪そうだ。


「うわ~ん! ライル~、こいつらがいじめるよ~。こうなったら他の皆を集めて、髭狩りだぁー! 」


「じゃから! それは二度とするなと言っておるじゃろ!! 」


 今から四百年程前に、ドワーフの国に悲劇が起こった。それは妖精達の悪戯により、一夜にして全てのドワーフの髭が刈り取られてしまったのだ。ドワーフにとって髭とは権威の象徴であり、威厳を誇示する為に必要なもの。彼等の誇りそのもの。そんな髭を綺麗さっぱりツルツルにされてしまったドワーフ達は、余りの恥ずかしさに地下へと潜り、山に囲まれ誰も入ってこられないような場所に新たに国を造り上げて、自分達の誇りを取り戻すまでひっそりと暮らしてきた。


 もう悪戯ってレベルじゃないだろ。アンネにどうしてそんな非道い事をしたのか尋ねると、


「なんかむさ苦しくて、鬱陶しかったから! 」


「貴様はそんな理由で、ワシらの誇りを奪ったというのか!! 」


 因みに刈り取ったドワーフ達の髭は、今もアンネの故郷でロープやハンモック等の素材として有効活用されているらしい。


 妖精、なんと恐ろしい種族なんだ。


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