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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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21

 

「ふむ、甘い干し果実が酒に合うとは知らなんだ。しかし、大きなグラスにたっぷりの氷を入れ、この鳥の揚げ物と共に食すのも良いな。それとこの烏賊を一晩干したのも酒に合う。これは止まらんわ」


「喜んで頂けて、幸いで御座います」


 酒を呑み初めて一時間もしない内に、ウイスキーとブランデーの空瓶が二つずつテーブルに置かれている。あれ一瓶七百ミリリットルあるんだよね。


 ストレートだとすぐにダウンしていまいそうなので、俺はウイスキーの水割りを飲んでいる。本当はハイボールにしたいのだけど、炭酸水がないので残念だよ。それまでストレートで飲んでいたギムルッド王が興味を持ち、俺と同じ飲み方をしたので、急遽つまみを増やしたという訳だ。


 どれも好評だが特に干物や乾物が気に入ったようで、休むことなく顎を動かしている。


「これは良い。保存も効くし、歯応えが実に素晴らしい。噛めば噛むほど味が口の中に広がり、食していて楽しいの」


 ギムルッド王はうっすらと頬に赤みを帯びた顔で、上機嫌で呑んでいたが、ふと気付くと目が遠くを見詰めていた。


「…… ワシとリクセンドはの、酒場で出会ったのじゃ」


 リクセンド…… リリィの先祖のことか。


「リクセンドについては何処まで知っておる? 」


「リリィから聞いた事だけですが、化け物をこの世界に呼び出した元凶であり、国を捨てた愚王だと」


 友と呼んでいた相手に失礼かと思ったが、リリィから聞いた事を正直に話す。しかしギムルッド王は怒る素振りは見せず、むしろ哀しそうに眉を下げるだけだった。


「愚王―― か。今から千年程前の事じゃ…… ワシは己の腕を磨くために大陸中を旅しておった。そして魔導国家と呼ばれておる国に立ち寄り、すぐに酒場に直行した。その酒場の隅の席で辛気臭い顔で一人で飲んどった若蔵がおったので、気になって声を掛けたんじゃよ。そんな顔で飲んでいたら、せっかくの酒も不味くなるだろ―― とな。初めは何を言われたのか分からんようで、ボケッとしておったが徐々に笑顔になっての、ワシらは酒の席を共にしたのじゃ。その辛気臭い若蔵がリクセンドじゃった」


 出会いが酒場とは、いかにもドワーフらしいね。


「意気投合したワシらはよく酒を呑み交わしながら、様々な話をしたものじゃ。リクセンドは酔うとな、よく前世の話とやらを聞かせてくれた。馬が必要ない馬車に、空を飛んで人を運ぶ鉄の乗り物。地下を走る長い鉄箱、遠くの者と話せる道具など、聞いていて飽きることは無かった」


 やっぱり千年前にも記憶持ちがいたんだな。それも俺と同じ世界で近い時代の。それがリリィの先祖だと言うのが驚きだけど。


「リクセンドが王族だと知ったのは、出会ってから半年が過ぎた頃じゃった。黙っていてすまないと謝られたが、そんなもん関係無いと笑い飛ばすと、あやつも安心したように笑いおった。それからは二人でよく馬鹿をやったもんじゃ。リクセンドが前世の知識とやらの着想をワシが鍛冶で、あやつは魔術で再現しようとしたのじゃ。多くの魔道具を作り出した、あの魔動車も魔動列車も、ワシとリクセンドの合作じゃ。そんなワシらの関係は、リクセンドが王位についても変わらなかった。むしろ馬鹿をやる規模が大きくなったと言っても良かろう。ワシはドワーフ達を巻き込み、魔動列車の実用化に協力した。その見返りとして、人間達が造る酒を貰っておった。気が付くと、あやつの国とドワーフの国が友誼を結ぶまでの関係になっておったのじゃ」


 こうして話を聞く限りでは、国の発展は順調のように思えるけど、何で召喚魔術に手を出してしまったんだろう?


「その内に、リクセンドは妻との間に子供もでき、国は順調そのものじゃった。しかし、ある日を境に国の発展は停滞していく事になる。周辺の国々が、リクセンドの国の技術を盗み、真似るだけではおさまらず、さらなる改良を施し、そこから新たな着想を生み出していった。リクセンドは天才ではない、前世の知識があるだけの凡人じゃ。瞬く間に国力は逆転してしもうた。リクセンドとワシが造り上げた物は形を変え、戦争に利用されて多くの者達の命を奪っていった。その者達の中にはあやつの息子と国民も含まれておる。ワシらの考えが甘かったのじゃ。あやつが言う前世の物を再現していけば、いつも酒場で酔って話してくれた、あの平和な世界を築けると思っていたんじゃよ。じゃが、蓋を開けてみれば、戦争を激化させただけじゃ。ワシらの技術が効率よく人を大量に殺せる道具に使われておる。その事実を知ったリクセンドは、戦争を終わらせる為に更なる力を欲した」


 う~ん、俺にも前世の知識はあるけど、諸々の事情で再現しようとしても出来ないのが殆どだ。主に保身の為だけど。でもリクセンドは違った。彼は一国の王なのだ。しかもドワーフの国と友誼を結んでいるので技術力もある。前世の物を再現出来る下地が十分にあった。

 きっと、この世界を前世に近づけたかったのだろう。完全に平和とは言えなかったけど、今よりは遥かに良いと思う。でも、技術の発達は新たな争いを生んできた。それを考慮しなかったのか?


 何もかもが早すぎたんだ。俺達の前世での暮らしは、無数の屍の上に成り立っている事実を実感出来ていない。だって俺達は死ぬまで戦争を知らなかったのだから、正義を翳して人を殺した事がなかったから。だから、発展した技術が平和に繋がると信じて疑わなかったのだろう。


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