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クレス達が起きてくる頃には、ドルムは出来上がった鎧に邪魔にならない程度の装飾品や模様等、意匠を凝らし仕上げに研磨をすれば、ミスリルの白銀とアダマンタイトの黒色のコントラストが見事な鎧に完成した。
「美しい…… これ程に素晴らしい騎士の鎧は初めてだ」
レイシアが若干興奮しながら装着した全身鎧はサイズがピッタリで、前の鎧よりスマートなフォルムをしている。関節部分は丈夫なワイバーンの翼膜が使用されていて動きやすく、前の鎧同様にレイシアが気に入っているという金の装飾も忘れずに施されていて、ドルムの気遣いが垣間見える一品となっている。
一方クレスの鎧は、胸鎧と腰鎧に分かれていて、太腿まであるグリーブにガントレット。そのどれもが、ミスリルの土台に薄くアダマンタイトがコーティングされていた。そうする事で、アダマンタイトの重さを軽減している。ただそうなると、アダマンタイトの黒一色になってしまうので、その上から模様を深めにを刻み、出来た模様の窪みに溶かした金を流し込み接合させ、見た目も華やかになっている。
そして二人の鎧の胸には、防壁の魔術を刻んだ宝石が忘れずに取り付けられていた。前の鎧は鋳潰して再利用出来るので、ドルムにお礼として渡したようだ。
「見た目よりも軽くて動かしやすい。安心感が違うね」
関節の可動域を確めながら、クレスとレイシアはドワーフの技術に感心している。
「防具はこれで良いじゃろ。武器はここにあるのをやる。ミスリル製からアダマンタイト製のもあるから好きなもんを選んで持って行け」
二人とも子供のように目を輝かせ、嬉々として選び始めた。楽しそうで何よりだね。
「あの、俺達には何も無いんですか? 」
「お前さんには好きなだけ鉱石をやるから自分で作れ。その方が早いし簡単じゃろ? 何の為にワシの手伝いを頼んだと思っとるんじゃ」
やっぱりそうなるか。確かに、ここにある武具を魔力で解析したり、実際に手伝ったりしてドワーフの技術を勉強させて貰ったけど、俺だって記念に何か一つくらいドワーフが造った物が欲しいんだよ。
武器選びも終わり、ドルムは自分の部屋で、俺は客室で泥のように眠りについた。ドルムが起きてこないと魔動車で城に戻る事は出来ない。クレス達には悪いけど眠くて仕方ないのだ、適当に時間を潰しててくれ。
目を覚ましたらもう夕方間近だった。居間に向かうと既にドルムは起きていて、俺が渡したウイスキーを上機嫌で呑んでいる。おい、これから魔動車で城まで運転して貰おうと思ってたのに、なに呑んでんだよ。
「あ? これぐらいの酒でドワーフが酔う訳がないじゃろ。大丈夫じゃって、心配無用じゃ」
ここが異世界だろうが、ドワーフが酒に強かろうが、飲酒運転は絶対駄目!! 俺が頑なにドルムに運転をさせまいとしていたので、クレスが代わりにドルムに教わりながら運転する事となった。
う~ん、いくら操作が簡単だと言っても初心者だもんな。飲酒運転とどっちが安全なんだろ? 魔動車には免許はないみたいだし、隣にドルムがついているなら大丈夫かな? 酒飲んでるけど。
ドルムの指導で軽く庭で魔動車を走らせた後、俺達はクレスが運転する魔動車で王城へと向かった。スピードはそんなに出てなくて安全第一な、クレスの性格が分かるような運転だ。なので王城に着く頃にはすっかりと日が落ちていた。
出迎えてくれた宰相のエギルにリリィの様子を伺うと、ずっと倉庫に籠って作業をしているらしい。食事や睡眠はちゃんと取っているようだから大丈夫だろう。
明日リリィの所に行ってみるか、俺なら何か手伝える事があるかも知れない。王城の自分に宛がわれた部屋で夕食を取り、一人でのんびりと過ごしていると、ノックの音が聞こえてくる。
クレス達かな? 俺はそう思って気軽な気持ちで扉を開けた。しかし、扉の先にはクレスでもレイシアでもリリィでもなく…… ドワーフの国ガイゼンアルブを治める者、ギムルッド王が立っている。
はい? これは夢か幻か? 戸惑う俺を余所にギムルッド王は部屋に入り、テーブル席に着いた。
「ほれ、何をしておる? お主も席に着かんか」
まだ混乱している頭を何とか働かせ、フラフラとギムルッド王の対面の席にと着く。どうにか落ち着いた所で周りを確認する。お付きの人も護衛の人もいない、王一人だけのようだ。
「ドルムから報告は受けておる。何やら上物の酒を持っているとの事。是非ともワシにも飲ませてくれんか? 」
酒? 酒が目当てで夜に一人で俺の部屋まで訪ねて来たというのか? はぁ、王という立場でも酒の誘惑には勝てないのか。まぁその気持ちは分からなくもないけどさ。
魔力収納から樽ではなくて、瓶に入ったウイスキーとブランデーを取り出してテーブルに置く。ついでにつまみとして、収納内で育てた果物で作ったドライフルーツも用意した。
「おお! この芳醇な香りと美しい琥珀色、なんと素晴らしい」
硝子のグラスに注がれたウイスキーを、ギムルッド王はうっとりとした顔で眺めている。そしてグラスを口元に運び、香りを楽しんだ後、ウイスキーをひと口飲み、風味を味わうかのように鼻から息を吐く。
「こんなに旨い酒は久しぶりじゃ。さあ、夜は長い。呑み明かそうぞ」
気に入ってくれたのは嬉しいけど、俺も付き合わなくちゃ駄目ですか? 緊張して酒が喉を通らないよ。はぁ~、ギムルッド王の言う通り、長い夜になりそうだ。