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王との謁見も終わり、俺達は城の客室で泊まる事になった。ギムルッド王は、下がる時にまでアンネを表に出さないでくれと強く頼んでいたな。どんだけ嫌われているんだよ。
そんな王の態度にアンネはすっかりとへそを曲げてしまい、怒涛の勢いで蜂蜜酒と果実酒を交互に煽っていた。妖精はアル中にならないとは言っても、これは飲み過ぎだよ。かといって注意しても止まらないし絡まれるので、放っておくのが一番だ。
王城の豪勢な夕食を頂いた俺達は、この後の予定を話し合うために、クレスの部屋に集まっていた。
「それで、僕達はこの後はどうすればいいんだい? 」
「…… 明日、王ともう一度謁見して、封印の遺跡への立ち入り許可を貰う」
遺跡? そこに化け物が封じられているのか?
「…… それと、ここで管理している封印の術式が描かれている魔導書を見せて貰う」
「? その封印の術式とやらは、リリィの一族には伝わっていないのか? 」
レイシアの疑問にリリィは淡々と説明をする。
「…… 封印魔術を作ったのは、私達の一族以外の人間と他種族達。グレシアム王は自分の国が滅びる寸前に逃げ出し、姿をくらませたので術式は分からない」
成る程、グレシアム王が消息不明になった後、国々が壊滅していき、追い詰められた末に完成した封印魔術だから、リリィの一族に伝わっていないのも当然か。その術式を魔導書に書き記して、ドワーフ達が封印の遺跡と一緒に管理している訳だな。とにかく明日、もう一度ギムルッド王に会う必要がある。
そして翌朝、朝食をとった俺達は、玉座の間のように広い場所ではなく、謁見室と呼ばれる小さな部屋に通された。まぁ小さいと言っても、玉座の間と比べればと言う意味なのだが。
大きめのソファーに一列に座り、王が来るのをメイドが入れてくれた紅茶を飲みながら待つ。ここはドワーフの国なので勿論メイドもドワーフだ。女性のドワーフは男性と比べると細くて顔も小さく、見た目は幼い女の子に見える。これで成人だと言うのだから驚きである。俺の頭の中で合法ロリの言葉が浮かんだが、深く考えるのを放棄した。
しかしこの紅茶は旨いな。茶葉は何を使っているのだろう? 香りが強く、爽やかな口当たりでとても飲みやすい。メイドに聞いた所、大陸の西に位置するアスタリク帝国の帝都に本店を構える、大手茶商のブレンド茶葉らしい。
アスタリク帝国か、確か実力主義の軍事国家と聞いた事がある。暇さえあれば近隣の国に戦争を仕掛けているなんて噂がある野蛮な国というイメージだったが、こんな茶葉をブレンドする商会もあるのか。おそらく広い意味合いでの実力主義なんだろう。
少し興味が湧いてきた。この件が上手く片付いたら、訪ねてみるのもいいかも知れないな。そんな事を思いつつ暫く待っていると、ギムルッド王が部屋に入ってきたので、俺達は揃ってソファーから立ち上がり、方膝を床につき跪いた。
「うむ、楽にして構わん」
ギムルッド王が専用の一人用ソファーに座り、お言葉を頂戴した後、俺達はゆっくりとソファーに腰掛ける。徐にメイドが一冊の本を俺達と王の間にあるテーブルに置いた。それを見届けると王が口を開く。
「これは、今はもう古代と呼ばれる時代に作製した魔導書じゃ。封印魔術もこの魔導書に記されておる」
「…… 有り難く、拝見します」
慎重に頁を捲るリリィの横から俺も覗き見る。初めて見る術式ばかりだ。アルクス先生に見せたらテンションが上り過ぎて発狂してしまうんじゃないか? ペラペラと頁を捲っていたリリィだったが、その手が止まった。どうやら目当ての頁に着いたらしい。
そこには封印魔術の術式と説明文が記されている。俺は横からそれを読んでいて、おや? と思う。ギルに施されていた封印の術式とは毛色が違うのだ。ギルの場合は封印対象から直に魔力を奪い、魔術の維持をしていたのだが、ここに記されているのは外部から魔力供給がされている。それと、鎖以外にも檻に杭に色々と使われているようだ。ギルと比べるとかなり厳重だな。
「新たな鎖や檻等は既に作り終えておる。後はお主が術式を刻めば完成じゃ。物は地下倉庫に仕舞っておるので、其処で作業をするがよい。封印具が完成次第、封印の遺跡への立ち入りを許可しよう」
「…… 有り難く存じます。早速作業に移っても宜しいですか? 」
「うむ、良きに計らえ」
ギムルッド王の言葉を受けると、リリィは魔導書を持って謁見室を後にした。あの、残された俺達はどうすれば良いんですかね?
「さて、封印具が完成する間、お主らは暇じゃろうから、この国を見て回ったらどうじゃ? 既に知っておるかと思うが、ワシらはものづくりが得意での。鍛冶、裁縫、木工と様々じゃ。これを機にお主らの装備を見直してみると良いじゃろう」
要するに今の武具では心許ないから、もっと強いのに替えろと言うことか。
「街の案内にはこの者に頼んだ。行きたい所、欲しい物があれば遠慮なく言うが良いぞ」
ギムルッド王がそう言うと、部屋の奥からドルムが仏頂面で出てきた。何か凄く不服そうだね。
「まったく、何でワシがこんな面倒な事を…… 」
「まぁそう言うな。お主が連れてきたのだから、面倒ぐらい見たらどうじゃ? 」
「はぁ、王に言われちゃ仕方がない。取り合えず武具を揃えるぞ、そんな装備じゃ直ぐに駄目になってしまう」
俺達はドルムの案内の下、武具を買い揃える為に街へと向かう。ギムルッド王は俺にだけ 「良いか、アンネリッタは絶対に外に出すで無いぞ」 という有り難い御言葉を頂戴した。