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「どうしたんじゃ? ワシも暇じゃないんでの、はよしてくれんか? 」
電車のような乗り物から、また一人の赤い髪と髭を持つドワーフが降りてきた。このドワーフもまた長い髭を三つ編みにしている。こうして並ぶと、髭で顔の下半分が隠れているから見分けがつきづらいな。
「お、おぅ、こいつを見てくれ…… いや、この嬢ちゃんがな、グレシアム王の子孫じゃというんでな。そんで盟約とやらでワシらの国に行きたいんじゃとよ」
赤髪のドワーフはペンダントを受け取り、装身具を確認すると軽く唸りを上げ、近寄ってきた。
「こりゃ確かに、グレシアム王家の紋章じゃ。嬢ちゃんよぉ、盟約っつうのは、千年前のやつだよな? つまりは…… そういう事かの? 」
「…… そういう事。連れていってくれる? 」
「それなら連れていかん訳にはいかんじゃろ。王の下にはワシが案内する。ほれ! お前さんらもとっとと乗んな! 」
ふぅ、話はついたみたいだな。ペンダントを返して貰ったリリィとクレス達は乗り物に乗り込んでいく。俺とエレミアも後に続こうとしたら、赤髪のドワーフが驚いたように声を掛けてきた。
「なんじゃ!? お前さんらもいたのか。エルフの里から出ていったと聞いておったが、面倒な事に巻き込まれたようじゃの」
ん? なんか俺達のことを知っているみたいだ。という事は、エルフの里に来ていたドワーフの一人かな?
「あっ! この声は、ドルムさん? 」
エレミアは声で覚えていたようで、ドルムと呼ばれたドワーフは白い歯を見せてニカッと笑った。
「おう! 覚えててくれたか。お前さんとは、あまり面識はなかったからの。人間の坊主とは初対面じゃな? ワシはドルムじゃ。エルフの里に人間が住み着いたのは珍しかったんで覚えていたんじゃよ」
「そうだったんですか、俺はライルと言います。よろしくお願いします」
やっぱり里に来ていたドワーフ達の一人だったか、直接関わるような事が無かったので気づかなかったよ。
「ガハハ、まさかエルフをワシらの国に招待する日が来るとはのう、長生きはするもんじゃわい。ほれ、乗った乗った」
ドルムに促され、電車のような乗り物に乗り込んだ。中には座席が四列、真ん中の通路を挟んで二列に別れている。クレス達は既に座席に着いていたので、俺達も適当な席に座る。最後に入ってきたドルムが運転席らしき場所にいるドワーフに声を掛けると、電車のような乗り物はゆっくりと動き出す。
その様子にクレス達は、おぉーという感嘆の声を上げていた。エレミアも興味深そうに窓側の席から外を眺めている。いや、地下だから景色も何もあったもんじゃないだろうに。
「どうじゃ? 驚いたか? ワシらは “魔動列車” と呼んどる。千年前にな、人間達と作ったと言われておるんじゃよ」
通路を挟んだ隣の席に座っているドルムが得意気に話し掛けてきた。魔動列車―― か、千年前にも俺と同じ世界の記憶持ちがいたのかね。
その後も魔動列車は、駅のような場所に何度も止まり、ドワーフ達を乗せながら地下を走ること事数時間。俺は列車の進行方向に巨大な魔力の塊を視た。体を通路側へずらして前を確認すると、この列車が軽く通るほどの大きな門が見えてくる。
「あれがガイゼンアルブに繋がる転移門じゃ」
レールは転移門まで伸びている。まさか列車ごと門を潜るのか? 一体どれ程の魔力を消費すれば出来るのか、検討もつかない。
「あの、あれほどの転移門を起動して、列車ごと通過できるような大量の魔力は、一体何処から確保しているんですか? 」
「そりゃあ、 “大地の血液” からじゃよ。知らんのか? 大地にはの、ワシらの体と同じように血液のようなものが流れておるんじゃよ。確か、勇者は “マグマ” と呼んでおったな。大地の血液には大量の魔力が含まれておる。それを魔術で吸い上げて利用しておるんじゃ」
前世でいう地熱発電みたいなものか。店の防衛に使えるので、もっと詳しく知りたい。ギルに聞けば教えて貰えるかな?
列車が門に近づき停車すると、運転席にいたドワーフが列車から降りて暫く経った頃、転移門が起動した。ドワーフが運転席に戻り、列車は転移門を潜っていく。
先ず目についたのは煙りだ。そこかしこにある煙突から白い煙りがモクモクと立ち上る光景が広がっていた。周囲の建物はレンガ造りの物もあれば、鉄筋コンクリートで出来た建物もある。山に囲まれた国と言うだけあって、周りには見上げるほどの岩肌が確認出来る。まるで工業地域みたいな街並みだ。
街の駅のような場所に列車は止まり、ドワーフ達が降りて行く。俺達はドルムの案内で、城の近くにある四つ目の駅に降り立った。その城にも煙突が何本も生えていて、煙を吐き出している。これは城の形をした工場のようにも見えるな。
俺達は揃って、まるで田舎者みたいにキョロキョロと忙しなく街を眺めていると、ドルムが大声で笑った。
「ガハハハ! ようこそ! ドワーフの国、ガイゼンアルブへ! これから城に案内するから、ついてくるんじゃ」
ドルムの先導で、金属を打つ音と熱気に包まれた街中を進み、城へと目指す。
「大丈夫? 結構きつそうに見えるけど」
「ちょっと、いえ、かなり鉄臭いわ。臭すぎて頭痛がしてくるくらいよ」
エレミアはドワーフの国に着いてからずっと顰めっ面をしている。鉄の臭いが苦手なエルフでは、この国は酷しいのだろうな。
「苦しいなら魔力収納の中にいても良いよ」
「うん、そうさせて貰うわ。ありがとう」
魔力収納の中に退避したエレミアは、へとへとな状態で家のベッドで横になった。ドルムがエレミアについて聞いてきたら、スキルの事は隠さずに話すか。ドワーフだし、問題はないよな?
『お? 気分が優れない? そんな時はこれを飲めば大丈~夫! すぐに良くなるよ! 』
おいアンネ、今のエレミアに蜂蜜酒を飲まそうとするんじゃない。そっとしておいてやれよ。