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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【幕間】
15/812

魔術師アルクス

 

「ふぅ、今日はここまでにしますか……」


 僕は、読んでいた魔術書をそっと閉じた。そういえば、もう二年ですか……今年で彼は十歳になるのですね。




 彼――ライル君に初めて出会ったのは、僕が魔術学園を卒業してしばらくの頃でしたね。

 勢いで家を出た僕は、研究費はおろか生活費を稼ぐのもままならない状況でした。そんな時、学園でお世話になった講師の方が、仕事の話を持ち掛けてくれたのです。


 なんでも、とある貴族が魔術を教えてくれる者を探していると、報酬も悪くありません。だけど、誰も受けたがらないらしいです。


 理由を聞いた所、なんと教える相手は五歳の子供だと言うのです。 僕は驚きを通り越して呆れてしまいました。五歳の子供が魔術の何たるかを理解出来るはずがない。しかも、依頼主はあのハロトライン伯爵だと言うのではありませんか。

 誰も受けたがらないのは納得です――でも僕はお金につられ、その仕事を受けることにしました。


 乗り合い馬車で王都からハロトライン領へ向かい、館の近くに宿を取りました。


 家庭教師としての初日、館へ向かうと応接室に案内され、そこには伯爵の姿がありました。


「あぁ、例の家庭教師か……貴様が教えるのは知り合いから預かっている子だ。内容や方針は全て一任する、好きにやってくれ」


 伯爵はそれ以上何も言いませんでした。


 応接室から出ると、一人のメイドが待機していて、


「私はライル様の侍女、クラリスと申します。これからお部屋へご案内させて頂きます」


「僕はアルクスと言います、どうぞよろしくお願いします」


「はい、アルクス様、こちらこそよろしくお願い致します」


 案内された部屋は屋敷の片隅にあり、人が出入りしているような感じがしません。知り合いの子供を預かっているにしては、何だかおかしいと疑問に思ったのを覚えています。


 クラリスさんがドアをノックして部屋へ入っていったので、僕もそれに続きました。

 さて、どんな子だろうか? 余りわがままな子じゃなければいいのですが――当時の僕はそんな事を考えていましたね。

 だけど目の前に現れた黒髪の子供は僕の想像より大きく外れていました。


 まずその子供には両腕がありませんでした。服の袖の膨らみから察するに、おそらく肘より下が無いのでしょう。

 顔の左半分がまるで火傷でもしたかのような痕になっており、左目は白濁していました。


 あからさまな反応をしてはいけないと思い、すぐに顔を取り繕い、何とか自己紹介を済ませました。


 彼も自己紹介をしましたが、五歳とは思えないほど落ち着き、しっかりとしていたのが印象的でした。


 こんな小さな子供にどう教えたらいいのか心配でしたが、驚く事に、ライル君の理解力は目を見張るものがありました。

 解らない所や疑問に思った所は積極的に質問をし、とても真面目に、時には楽しそうに僕の授業を受けてくれて、嬉しかったです。


 ライル君と話していると、つい子供だということを忘れてしまい、いつもの調子で語ってしまいますが彼は普通についてきます。

 本当に不思議な子です。


 それにライル君は冷静で前向きな性格をしているみたいです。自分の体の事で悲観にならず、よく笑っていました。

 自身に術式を刻む事が出来ないと知り、落ち込みましたが、すぐに立ち直ってくれましたね。


 しかし、ライル君の魔術許容量を調べた時は驚きました。まさかあれほどの魔力量だとは……だけど術式が全く刻む事が出来ないのは初めてです。

 いや、あれは刻む余裕がないと言えばいいのでしょうか? まるで、先に別の何かが詰まっているような、そんな感じがしました。


 ライル君の家庭教師を始めてからの、この三年間はあっという間でした。その間にクラリスさんからライル君が伯爵の息子だと教えてもらい――あぁ、やはりと思いました。


 伯爵には今年で五歳になる男女の双子がいます、僕は嫌な胸騒ぎを感じました。まさかとは思いますが、もしライル君に魔法スキルが授かれなかったら…………そう思うと伝えずにはいられませんでした。ただ不安を煽るだけかもしれない、それでも僕に出来ることは、これしか思い付きませんでしたから……


 そして、ライル君に伝えましたが逆に気を使わせてしまいました――はぁ、情けない、一番不安で傷付いているのはライル君なのに……僕には彼を救えるほどの力も地位もお金も無い。

 やるせない想いを胸に残したまま、家庭教師としての役割は終わりを告げました。



 神々よ……どうか……何卒、彼を……真面目で、優しい彼を……どうか……御守り下さい………


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