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客室で暫く待っていると、受付の人が部屋に入ってきた。
「お待たせしました。ギルドマスターがお会いになるそうですので、ついて来て下さい」
俺達は受付の人に、ギルドマスターの部屋に案内して貰い入室する。部屋の中は広いが、余計な物が置かれていない。まるで執務室のようだ。冒険者ギルドのマスターの部屋なのだから、なんか剣とか鎧とかでゴテゴテとしているイメージを持っていたけど、随分とサッパリとした部屋だな。
「おう! 話を聞いてもしやとは思っていたが、やっぱりお前らだったか! 」
大きな声で話しかけてきた如何にも冒険者らしい武骨な男性が、この冒険者ギルドのマスターかな? 顔は厳つく、半袖の上着からでも分かる程厚い胸板と古傷だらけの逞しい両腕。明るく笑ってはいるけど、その身に纏う剣呑な雰囲気は隠しきれない。流石は冒険者達のトップを担う人物だ。
「お久しぶりです。一度お会いしただけなのに、覚えて頂けていたとは光栄です」
「ハハハ! お前らは良くも悪くも目立っていたからな、忘れる筈もない。あの時はまだアイアンのくそ生意気なガキだったが、この一年近くでミスリルまでいくとはな。俺の見立ては正しかった訳だ」
どうやらクレス達とは面識があったようだ。クレスは一度だけと言っていたから、ギルドマスターが一方的に気にかけていたって感じだな。
「さて、詳しく聞かせてくれ。オークに飼い慣らされたガイアウルフだって? 」
クレスはギルドマスターに事の詳細を説明した。ガイアウルフを匠に操るオーク、その被害によって敢えなく命を落とした冒険者達と不運な者達、傷だらけになりながらも助けを求めた人達、そして拐われた者達を救い出した事を。
「う~ん、成る程な…… オークが魔獣を飼い慣らすっていう話はない訳ではない。過去にも事例がある、まぁ五百年も前の話だがな」
「それでは、他にもああいうオークがまだいると言うのですか? 」
クレスの問い掛けに、ギルドマスターは何やら軽く思案する素振りを見せた。
「まぁ…… お前らならいいだろう。これはまだ調査中で、表には出してない情報なんだが、どうやらここ数年に渡ってオーク共が活発に動き出しているらしい。オーク共の住み処は大陸中にあるが、特に北方がやばいって話だ。ガイアウルフは北方の魔獣、ならそれに乗ってきたオークも北方にいたオークかもしれねぇな」
「む? 北にいるオークが何故こんな南まで来るのだ? 」
オークの活発化に、北方に生息しているガイアウルフ、そして統率のとれたオーク達…… もしかしてあのオーク達は――
「―― 斥候部隊? 」
思わず声を出してしまった俺に、部屋にいる人の目が全て此方に向けられる。一斉に顔を向けられてビクッと体が跳ねてしまった。
「ほう…… そこの腕なしの坊主は中々頭が回るじゃねぇか。お前の言う通り、そう考えるのが普通だな。普段斥候といったら、余計な戦闘は避けるべきなんだが所詮はオーク、馬車を襲ったのは、おおかた理性よりも本能が勝ったと言った所か? 」
「では、あの村から東にある山には住み処ではなくて、拠点にしていたんですね」
「もういねぇかも知れねぇが、俺から緊急依頼としてあの山の調査依頼を出しておく。他に何か気になった事はあるか? 」
クレスは少し考えてから、あのオーク達のリーダーらしき者が最期に言った “ワレラノオウ” という言葉をギルドマスターに伝えた。
「我らの王―― か。聞き間違いじゃねぇんだな? 」
俺達が揃って頷くのを見たギルドマスターはガシガシと乱暴に自分の頭を掻くと、深い溜め息を溢す。
「オーク共の王が出現したとなれば、この活発化にも説明がつく。くそっ、オークキングなんざ五百年振りだぜ。何もこの時代に現れなくてもいいのにな…… 」
「どうするんですか? 」
「ん? 取り合えず各国の冒険者ギルドに報告だな。その後は今まで通り調査結果待ちだ。お前らも、新しい情報が手に入る事があったら、近場のギルドに報告してくれ。そんじゃご苦労さん」
ギルドマスターへの報告も終わり、ギルドに持ち込んだガイアウルフの素材の代金を受付で受け取ると、ギルドに併設されている食堂で食事をする事にした。
「クレスさん、どうしますか? このまま予定通りにドワーフの国に向かいます? 」
席に着き、料理の注文をし終わった俺は、これからの予定についてクレスに尋ねる。
「そうだね…… オークキングの事は気掛かりだけど、今すぐにどうにか出来る問題ではないし、ここは予定通りに行こう」
それが無難だな。俺達の目的は世界を滅ぼしかねない化け物をどうにかすることだからな。でもそんな化け物をどうやって相手にすればいいんだ? リリィには何か考えがあるのだろうか?
「なぁ、化け物が封印されている場所に着いたら、その後はどうするつもりなんだ? 」
「…… 出来れば倒したい。千年の封印で大分力も弱まっている筈。それが無理なら再び封印するしかない。その場合、またいずれ来る危機に備えなければならない」
そっか、倒さなければこの先も復活と封印を繰り返す事になる。倒せるのなら倒したいと思うのは当たり前か。この千年でどれだけ力が弱まっているのか、それが問題だな。
俺は運ばれてきた料理を食べながら、恐らくこの世界にとって最悪最恐な敵にどう立ち向かえばいいのかを考えるのだった。