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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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9

 

 一夜明け、昨日のオークとガイアウルフをギルドに報告する為に、俺達は馬車でリッケルト領のラプツェルという町に向かっている。

 昨日はギルの雰囲気に圧されて、あのまま解散となってしまい、肝心な事は分からないままだ。何故封印が解けるのか? 何故リリィはその事を知っているのか? 詳しい説明は未だされていない。


 クレスとレイシアは、ギルが敵視する程の強大な何かが復活するという認識らしく、それ以上は聞こうとしないでいる。


「リリィは迷っているみたいだ。何についてかは分からないが、伝えるのを躊躇っているように見える。だから僕達は本人が決心するまで待つつもりだよ。この考えを君達に強要はしない。でも、お手柔らかに頼むよ」


 クレスはそう言うと、御者台に乗った。どうやら今度はクレスが馬を走らせるようだ。


 あれからギルの機嫌はすこぶる悪い。魔力収納内にある自分のねぐらとして使用している洞穴に籠り出てこない。


『あんな奴ほっとけば大丈夫! おおかた、どうやって殺してやろうか考えてんじゃない? 飽きたら出てくるよ』


 アンネは一ミリも気にしてない様子だけど、本当に大丈夫なのか? 何だか洞穴の周りが妙にピリピリした空気なんだけど。心なしかハニービィ達も怯えているように見える。


 宿場村を出て二回目の野宿、明日にはラプツェルの町に着く。エレミアの料理を美味しく頂いた後、そろそろ見張りを立てて休もうかと思っていたその時、リリィが徐に口を開いた。


「…… 皆に話したい事がある」


 俺達はお互いの顔を見合せるとリリィの周りに座り直し、再びリリィが喋りだすまで黙って待ち続ける。


「…… 千年前、人間達は大きな過ちを犯した。当時の魔術は今よりも遥かに栄えていて、魔法に取って代わるとまで言われていた。そして、とある国の王が更なる文明の発展を望み、優れた魔術師達を集めて、禁断の魔術の研究を始めた」


「禁断の魔術…… 」


 クレスはゴクリと喉を鳴らす。


「…… その魔術とは “召喚魔術” 、別次元から生物や物体をこの世界に呼び出す術。 初めは何でもない物を呼び出していた。異界のゴミや、無機物など。そして研究が進むにつれて、生物を呼び出すようになっていった。生物といっても小動物のような小さい生き物だったらしい。次は人間程の大きさの生物を呼び出そうとしていた時に、王からの催促があった。王は焦っていた。周りの国々がどんどん発展していき、置いていかれている感覚だったという。だから彼は望んだ。 “神” の存在を…… そう、召喚魔術の研究を始めたのは、神をこの世界に呼び出す為だった」


「なっ!? 神を! そんな事が本当に可能なのであろうか? 」


 レイシアの驚きと疑問は当然だ。例えそんな事が出来たとしても、それを実行しようとする王に俺は正気を疑わざる得ない。いや、既に狂気に侵されていたのではないか?


「…… 理論上では可能。召喚魔術の研究には沢山のお金と時間が必要。なのに王は待ちきれず、まだ研究も不十分のまま、神を召喚しようとした。その結果呼び出されたのは、とても神とは呼べない物体だった。それは黒い小さな肉のような質感を持った塊だったという。どうやら生き物らしい。 “それ” を厳重な檻に入れ、様子を窺うことにした。 “それ” は有機物なら何でも食べた。そして、食べた生物の器官を造り出すという能力がある事が判明する。それを知った研究者達は魔物や魔獣を与え、 “それ” に魔核を造らせて、もう一度神を召喚する為の研究材料にしていた」


「呆れた、まだ諦めていなかったのね」


 エレミアの言葉に俺達は軽く頷いた。ほんとに諦めの悪い王様だね。まぁ、話を聞くに随分と金と時間を掛けてきたようだから、引っ込みがつかなくなったのだろうな。


「…… “それ” の知能はお世辞にも高いとは言えなかった。当然言葉は通じないので、魔力による思念伝達で命令を送っていたが、一人の研究者がおぞましい提案をした。それは、人間を “それ” に喰わせるというものだった。食べた生物の器官を造り出すのなら、人間を喰わせれば知能も人間並みになるのではないかと思い至ったらしい。そして、親を亡くした孤児を “それ” に喰わせてしまった。それが悪夢の始まりだと知らずに…… 研究者の予想通り、 “それ” は脳という器官を作り出し知能を持った。そのせいで “それ” は学習を繰り返し、狡猾で残忍な生き物に変貌した。無害で従順な振りをして、檻から抜け出し、研究者達を喰らった。喰らえば喰らう程 “それ” の体積は大きくなり、国の人口の半分を喰らった頃には、誰の手にも負えない程に大きく肥大していた」


「正に悪夢だ。いや、悪夢の方がまだ優しいだろうね。それで、その後どうなったんだい? 」


 クレスに促されリリィは話を続ける。


「…… 結局、何も出来ずに一週間足らずで国は滅んだ。だけど “それ” は止まる事はなく、目につく生物を喰らいながら村や町を壊滅させて行った。滅んだ国も沢山ある。このままでは大陸中の生き物が食い尽くされてしまうと危惧した残りの国々は、厄災龍ギルディエンテが “それ” を抑えている間に、エルフ、ドワーフ、有翼人族、人魚族と力を合わせて“それ”に対抗する術を編み出した。それが “封印魔術” 、その術式が完成する頃には、 “それ” もギルディエンテも満身創痍だった。千載一遇の好機と見た人間達は封印魔術で “それ” を封印した。しかし、 “それ” と互角に戦った強さに恐れた人間達は、力を貸してくれたエルフ、ドワーフ、有翼人族、人魚族の反対する意見も聞かずに、ギルディエンテまでも封印してしまった。これには他の種族は呆れてしまい、人間達から離れていった。そこからは歴史にある通り、ゆっくりと魔術文明は衰退していく事になる」


 う~ん、一人の人間の欲から滅びた文明か…… 何ともスケールがデカイ話だ。でも、何でそんな事をリリィは知っているんだ?


「なぁ、何でリリィはそんなに詳しく知っているんだ? 」


 俺の何気ない質問にリリィはピクリと体を震わせ、両手をぎゅっと握り締めた。


「…… それは、私の家に古くから資料と一緒に語り継がれているから…… 神の力を欲した王は、滅ぼされていく自分の国を捨てて、幾人かの家臣と共に研究資料を持ち出し逃げ延びた。その時に王は神の声を聞いたという。 “罪人に罰を与える” という声を。いつか来る世界の危機に備えるのが私達一族の使命であり、罰でもある」


 私達一族? それってつまり……


「…… 私は、世界を滅ぼしかけた愚王を先祖に持つ、罪人の末裔。神の罰に従い、今から来る世界の危機に立ち向かう為に私はいる」

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