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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
143/812

6

 

 俺の魔力念話を受けたクレスは、自分の体を光らせたと思ったら、一瞬でその場から消えてしまう。次にクレスの姿を確認出来た時には、既に一体のオークの首を切り落とした後だった。


 速っ! 全然見えなかったぞ! 人間ってあそこまで速く動ける物なのか?


『あれは光魔法だな。己自身に光を纏うことにより、光と同じ速さで動く事を可能にしたのだ。そうそう容易にできるものではないぞ。あの人間、思いの外やりよる』


 ギルの解説だと、クレスは光の速さで動けるって事か。おいおい、そんなのありかよ。


 続けざまにクレスはガイアウルフの首に剣を突き刺し、剣の柄に取り付けられているアメシストに魔力を込める。宝石に刻まれた雷の魔術が発動して、稲妻が剣身を伝いガイアウルフの首から体全体に到達したらしく、激しく痙攣した後に地面へと倒れた。夜の冷えた風が焦げ臭いにおいを運んでくる。


 それが合図となり、他のオーク達が一斉に動き出す。


「オトコハコロセ! オンナハツカマエロ! テイコウスルナラ、テアシヲキリオトシテモカマワナイ! 」


 リーダーらしきオークの号令で、オーク達が此方に向かって来た。ガイアウルフの動きは素早く、俺達との距離がどんどん近くなっていく。


 迫りくるオークとガイアウルフに、エレミアは水魔法で地面を凍らせ、二匹のガイアウルフの足を凍らせて縛りつけた。いきなり動きが止まった反動で、ガイアウルフの背からオークは投げ出されてしまう。地に倒れたオークにエレミアは電撃を与え動きを封じたその間に、二匹のガイアウルフを風魔法で切り裂き、痺れて動きが鈍くなっている二体のオークをミスリルの剣で斬りつけた。


『ッ! 気をつけて! 二体に抜かれた。こいつらを仕留めたら直ぐに行くから、何とか持ちこたえて! 』


 流石にエレミアでも、四匹のガイアウルフに乗ったオーク達を全員押さえる事は出来なかったようだ。二組のオークが俺達を挟む形で左右から迫ってきた。


「此方は私に任せよ! リリィはもう片方を頼む! 」


 レイシアは迫りくるオークとガイアウルフに盾を構え、攻撃を受ける。ガイアウルフのスピードに乗ったオークのこん棒による一撃はかなり重いと想像するに容易い。しかし、レイシアはその一撃に微動だにせず耐えきって見せた。あんな華奢な体でよく平気だな。俺だったら一発でもくらえば即アウトだろう。


 もう一方のガイアウルフに乗ったオークには、リリィが準備していた魔術を放つ。リリィの足元からオレンジ色の魔法陣らしき模様―― 魔術だから魔術陣か? ―― が現れ、その魔術陣から炎の鎖が数本、オークとガイアウルフに向かって勢いよく飛び出していった。


「…… ガイアウルフ程度では、この鎖から逃れるのは不可能」


 オークはガイアウルフを巧みに操り、何とか炎の鎖から逃れようとするが、リリィの宣言通り健闘及ばず捕まってしまう。炎の鎖はオークとガイアウルフの体に蛇のように絡み付き、その身をじっくりと焼いていく。その苦しみを表すかのようにオークは絶叫するが、その叫びは無情にも仲間には届かず、夜の闇へと吸い込まれていった。そんな光景を目の当たりにして、俺の左半身がジクジクと疼きだす。炎に生きたまま焼かれる苦しみは、多少なりとも知っている。既に事切れているオークとガイアウルフに同情の念を禁じ得ない。


 レイシアが相手にしているオークは、レイシアに攻撃を与えては直ぐに距離を空け、またガイアウルフによるスピードの乗った一撃をお見舞いするといった、ヒットアンドアウェイを繰り返している。だがレイシアはその攻撃に全て耐え、オークが離れた所で土魔法の石礫で反撃する余裕さえ見せる。


 このままでは駄目だと思ったのか、オークはガイアウルフにレイシアを攻撃させ、自身は途中でガイアウルフから飛び降りてレイシアの右側面に回り込み、こん棒を上段から降り下ろす。だが、突如現れた半透明で半球状の壁に阻まれ、オークのこん棒はレイシアには届かなかった。


 予想外の事態に動きが止まった一瞬をつき、レイシアはオークの胸に剣を深く突き刺し、そのまま振り上げる。オークは胸から上がパッカリと斬り裂かれ、仰向けに倒れていった。


「うむ! やはり防壁の魔術とやらは素晴らしいな! 」


 いやいや、片手でオークを切り裂くその腕力も大したもんだよ。


 主人を失ったガイアウルフはレイシアから距離を置いて警戒していたが、いきなり地面から飛び出してくる先端が鋭く尖った岩に腹を突き刺されて絶命した。どうやらリリィの魔術のようだ。うん、俺の出番は全くないね、まぁその方が楽で良いけど。


『エレミア、此方は終わったからクレスの方を頼むよ』


 二体のオークを仕留め終えたエレミアが、こっちに向かおうとしていたので、魔力念話でクレスの手助けを頼んだ。


 その間にクレスはオークとガイアウルフを倒し続け、気づけば残りオーク二体にガイアウルフが二匹。初めは此方の倍はいたのに、今では同じ数にまで減らされてしまっている。


「クソ! ニンゲンメ! コノママデスムトオモウナヨ。ワレラノオウガ、キサマラニンゲンヲ、コロシツクシテクレル。ソノトキガタノシミダ」


 エレミアが加わり、勝ち目がないと判断したリーダーらしきオークは、二人がもう一体のオークとガイアウルフを相手にしている隙に逃げ出した。ガイアウルフの足は速く、エレミアとクレスが相手にしていたオークとガイアウルフを仕留める頃には、既に遠くまで離れていた。これじゃ追いつけそうもない、逃げられてしまったか。そう残念に思っていると、


「悪いけど、僕は君を逃がす気はないよ。ここで仕留めないと、犠牲者が増えていく一方だからね」


 クレスの呟くような独り言は、不思議とよく耳に響いた。クレスは剣を天高く掲げると、今まで明かりとして宙に浮かんでいた光の玉達がクレスの頭上に集りだし、徐々に小さくなっていく。いや、圧縮していっていると言った方がいいな。

 そしてクレスが剣先を逃げるオークに向けたその時、圧縮された光の玉達から一筋の光が放たれた。オークに向かって一直線に伸びる無数の光の筋は、まるでレーザービームである。


 光の玉から放たれたビームは、逃げるオークとガイアウルフの体を貫いていく。体に数多くの穴を空けられたオークとガイアウルフは、その場で転倒してピクリとも動かない。どうやら息絶えたようだ。


 後に残るは、光を失い静寂に包まれた夜と、血生臭い空気だけ。


 強いとは聞いていたが、これ程とはね。そりゃ話題になるのも頷けるよ。


「皆、大丈夫だったか? 怪我はないかい? 」


 クレスは消えてしまった明かりの換わりに、新しい光の玉を生み出して、こっちに近づいてくる。


「ああ、問題はない。みな無事だ」


 レイシアの言葉に、クレスは緊張した面持ちから安心したような笑みに変わった。

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