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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
140/812

3

 

 その後も順調に馬車は進み、隣のリッケルト領に入った。レインバーク領よりも領地は狭いが農業が盛んで、小麦を中心とした農作物を輸出しているらしい。


 日も暮れ始めた頃、小さな村に着いた。今夜は野宿をしなくても良さそうだ。道の左右に宿屋と酒場らしき店が並んでいる。規模は小さいので、宿場町というより宿場村といった感じか。


 レインバーク領からくる人達と、逆にレインバーク領に向かう人達とで、それなりに賑わっているようだ。俺達は適当に宿を取り、馬車とルーサを預けてから食事の為に酒場へ向かった。

 この村の宿は食事を出さない。何か食べたければ、近くの酒場へと行くしかない。利益を独占しないように、宿は泊まるだけの所、酒場は食事をするだけの所、他は雑貨屋のような店がちらほらと確認できる。この村全体で一つの店のようなものだな。


 宿を出て少し歩いた先にある酒場へと入り、店員に案内された席に着いて注文をする。俺はエールと何かつまみになるような揚げ物を頼む。


「お酒が好きなんだね。あんまり若いうちから呑みすぎるのは良くないから、ほどほどにした方が良いよ」


 そういうクレスはパンとスープ、肉野菜の炒め物といった実に定番な食事を頼んでいた。勿論お酒は無し。話を聞くにそんなに得意ではないみたいで、飲むと直ぐに顔が赤くなり眠くなってしまうらしい。アルコールは体質的に合わないようだな。


 女性達は揃ってパスタを頼んでいる。三人ともソースは違う種類にしていて、後でシェアでもするつもりかな。


「レイシアさんはお酒を飲まれるんですね? 」


 俺と同じように、木で出来たジョッキを店員から受け取るレイシアを見てそう言うと、


「うむ。嗜む程度ではあるが、私も飲むぞ。酒の飲めない騎士は仲間の騎士と親睦を深めるのが難しいと聞く。故にこうして少しずつ慣らしているのだ! 」


 そして勢い良くジョッキを口に運んで…… チビチビと飲み始めた。ほんとに少しずつだな! レイシアもお酒はあまり得意ではないとみた。エレミアは酒は飲むが、エールはそんなに好きではない。エルフの里では、酒といったらワインだったからか、果物で作った酒が好きみたいだ。それと、ちゃっかり自分のエールを注文していたリリィだが、後で俺が美味しく頂きました。


「…… むぅ、物事を知るためには経験が必要。よって私にもエールを要求する」


 はいはい、あと二年待ちましょうね。俺だって我慢したんだ、特例は認めません。


 食事も終わり会計を済まして外に出ると、日は完全に落ちていた。それでも店の灯りと外灯の光りでそんなに暗くは感じない。夏の生温い風が夜の空気に冷やされて、ちょっとだけ心地が良かった。


 腹も膨れたし他にすることも無いので、さっさと寝てしまおうかと思っていたら、村の入り口―― 俺達から見たら、入ってきた所の反対方向なので出口になるのかな? ―― が何だか騒がしい。トラブルだろうか? 何にせよ俺達には関係の無いことだ。


「どうしたんだろう? ちょっと見てくるよ。ライル君達は先に戻っててくれ」


「私も行くぞ! クレスを一人にはさせて置けないのでな」


 クレスとレイシアは俺達に相談もなく、勝手に騒ぎが起こっている場所へ行ってしまった。巻き込まれタイプじゃなくて、首を突っ込むタイプだったか……


「いつもあんな感じなのか? 」


 隣にいるリリィに少し呆れながら聞いてみると、ハッキリとした動きで頷く。


「…… いつもあんな感じ。クレスは身に掛かる火の粉は払わずに、さらに浴びるような人」


 なにそれ? ドMなの? 精神的苦痛が快楽にでも変わるの? それとも正義感ってやつが強いのか? 理想の勇者になりたいなんて本気で言う奴だからな。


 どちらにせよ、放っておく訳にはいかない。あの二人が向かったのだから、一緒にいる俺達も否応なしに関わる事になる。そんな訳で、俺とエレミアとリリィも二人の後を追うしかなかった。


 村の入り口には人集りが出来ていて、中から男性の悲痛な声が辺りに響いていた。


「頼む!! 冒険者がいたら助けてくれ! お願いだ! 」


 人が多くて確認は出来ないが、何やら助けを求めているみたいだ。


「なぁ、あいつの言っているのは本当なのか? オークだって? 」

「いや、あの様子からして嘘はついていねぇみたいだ。だけど、ここにいる冒険者は殆ど護衛依頼を受けている奴等ばかりだからな。依頼主を放っておく奴はいないし、危険な所に依頼主をつれていく馬鹿もいねぇ」

「残念だが、不幸な事故だと諦めるしかないな」


 そんな野次馬達の言葉をかき消すかのような、力強い声が人混みの中から聞こえてきた。


「安心召されよ! 騎士の誇りに掛けて、ご家族を救ってみせようぞ!! 」


 この声はレイシアだな。声を聞く限りもう手遅れのようだ。俺は諦めて人混みを掻き分け二人の元へと向かうと、そこには血だらけの男が泣きながら、クレスとレイシアに哀願している姿があった。


 嫌な予感を胸に抱きつつ、俺はクレスに話し掛ける。


「あの…… これは一体どういう状況なんですか? 」


「ライル君! いい所に来てくれた! これからオーク共を倒し、拐われた人達を助け出す為に馬を貸して欲しい」


 ん? なんだってそんな話になったんだ? もう少し詳しく説明して貰えませんでしょうか?

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