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「いや~、ご~めんね♪ やっぱ人間だったね。しっかし、とんでもねぇ魔力を感じたから来てみれば……まさか、人間だったとはね~、あっ、わたしはね~見ての通り “妖・精” で~す! どう! 感動したっしょ! ねぇ! ねぇ!」
うぜぇ~、妖精って皆こんなんなのか? 外見は可愛いのに……金髪のロングヘアーに青い目、身長は俺の頭ぐらいの大きさだ。前世に見たフィギュアを思い出すな。
「そういや、自己紹介がまだだったね! わたしはアンネリッテ! よろしくね♪ 」
「俺は、ライル。よろしく、アンネリッテ」
「うん!! よろしくね、ライル! わたしの事はアンネってよんでね」
「リッテじゃなくて?」
「えぇ~、リッテって、何かありきたりじゃな~い? 」
う~ん、妖精の感性はよくわからん……
「それにしても、結構歪な魂だね~、あんた一体どんな死に方したの?」
え? 今、 “死に方” と言ったか?あと “魂” と……
「どういう意味だ? アンネは何か知ってるのか?」
「う~ん……あのね、わたし達は魂を視ることが出来るの、そしてこれは、わたしの経験から言えることなんだけど、あんた “転生者” でしょ? 異世界からの……記憶も残ってるね」
アンネはいきなり核心をついてきて面食らってしまった。
「なんで、その事を……」
何とか言葉を絞り出すと、アンネは得意気な顔で、
「ふっふ~ん、わたしの凄さがわかってきたようね! まぁ、半分当てずっぽうだけど……ライルの魂の質と雰囲気がね、わたしの知り合いの人間に似てるのよね~、それでピンッ!ときたのよ」
「知り合い? その人も転生者なんだ?」
俺の他にもいたのか……
「そうそう、あれどのくらい前だったかな~? 確か五百年ぐらい前だったかな? そんときに出会ったの、人間達から “勇者” って呼ばれてたよ」
ちょっと待て!? 五百年? 勇者? いかん、頭が混乱してきた。
「どったの? へんな顔しちゃって」
「いや……少し、頭の整理を……まず、アンネはどのくらい生きてるの?」
「ちょっとやだ~! 女の子に歳を聞いちゃダメなんだぞ!」
アンネは両手で握り拳を作り、それを両頬へ近づけプリプリと怒ってるアピールをしている……………うぜぇ。
「それじゃ勇者ってのは、魔王を倒すとかのあの勇者?」
「そだよ~、まぁ五百年前にその勇者が魔王を倒したから、今は両方いないけどね」
おぅ、魔王を倒した後なのか……
「他にも転生者はいるのかな?」
「ん? それはライルみたいに記憶持ちの事?」
「記憶持ち?」
「うん、転生自体は普通の事だよ。命は巡るものだからね、いろんな世界からこの世界へ転生してくるよ。その逆もあるけど」
「世界規模の輪廻転生ってことか……」
「そうそう! 輪廻転生! 勇者もそんな事言ってた。普通は魂をまっさらの状態にしてから転生してくるもんなの、だけどごく稀に前の魂のままで転生してくる事もあるんだよね」
「それが記憶持ちと呼ばれてるのか……」
前の魂のままで……か、前世の俺が死んだ状況と今の俺の状態が似ているのはそれが原因なのか?
「この体も、魂が原因なのかな?」
「そうだね、魂って最初は形がきまってないの。宿った器と同じ形になっていくのが普通なんだけど、ライルの場合は最初から形が決まっていた。たぶん、前の世界で死んだ直前の姿に……だからね、器のほうが魂の形に引っ張られたんだと思うよ」
「なるほど……それじゃあ、魂をどうにかすれば、俺の体は普通になれるのか?」
魂を正常な形に戻す事が出来たなら、もしかしたら……
「う~ん、それは無理だと思うよ。魂の形を変えるなんて、神様達でも難しいかもだよ?」
そうなのか、でも原因が分かったのだから、解決方法もきっと見つかるだろう。
さて、これからどうするか。まず館には帰れないだろうな……クラリスに迷惑は掛けられないし、たぶん俺が帰らなければクラリスは安全だと思う。
なら、このまま姿をくらました方がいいかもしれない。
「ねぇねぇ、さっきから気になってたんだけど、なんでそんなボロボロなの?」
確かに、傷は魔力支配の力で自分の細胞を操り塞いだけど、俺の体は血と泥で汚れている。
「まぁ、色々あってね。歩きながら説明するよ」
俺はアンネにこれまでの事を話した。伯爵の家に生まれた事、自分のスキルの事、クラリスの事、そして先程の戦いとも呼べないような無様な出来事を……
「ふ~ん、そんな事があったんだ、大変だったんだね!」
そんな話をしていたら、目的地に着いた。
「うへぇ、これがその御者ってやつ?」
俺はあの場所へ戻ってきた。フォレストウルフはもう何処かへと消えていた。
そこには御者だった者の残骸が残されていた。
何故、戻ってきたのか? それは自分がやった事を自覚するため、目を逸らさず認めるためだ。どんな理由があろうとも、自分がした行動で人が死んだ。それは変わらない事実なのだから……
この体では手を合わせる事も出来ないので、目を瞑り黙祷を捧げた。
「やっぱり似てるね、クロトに……彼も戦闘が終わった後、必ず手を合わせ、目を瞑っていたよ」
アンネが懐かしそうに俺を見ていた。
おそらく、クロトと言うのは五百年前の勇者の名前だろう。
俺は魔力を伸ばし、御者の傍に落ちていた小袋を持ち上げた。
中には金貨が十枚入っていた。金貨一枚、一万リランだから、俺の命は十万リランか……
このままだとあれなので、御者を埋葬することにした。魔力を地面に流し、少しずつ窪みを作っていると、
「なになに? 穴ほるの? それならわたしにまっかせなさ~い!」
そう言ったアンネは、魔力を放出し、
「土の精霊さん、おなしゃ~す!」
アンネがそう言うと地面に穴があいた。
「なんだ!? 今のは、魔法か?」
するとアンネはドヤ顔を浮かべながら、
「ヘッヘ~ん、どう? すごいっしょ! 魔法じゃなくて精霊魔法と言うんだよ」
「精霊魔法? それはどういうものなんだ?」
「うんとね、精霊に魔力を与えてお願いを聞いて貰う魔法さ!」
「その精霊というのは?」
「精霊はね魂以外のものに宿っていて、何処にでもいるんだよ! この土にも、あの木にも、空気にも、精霊はいるのさ……あんたの後ろにもねぇ!!」
その言葉に思わず後ろを振り向いてしまった。
「きゃははははは!!!」
アンネは腹を抱えて空中で笑い転げている。
さすがにイラッときたが我慢した。
「精霊魔法は俺でも使えるのか?」
「あ~無理無理、人間には使えないよ。人間は精霊の姿も見えなければ声も聞こえないからね」
そっか、それは残念だ。 俺達は御者を埋葬して、静かにその場から離れた。
「ねぇ、これからどうすんの?」
「わからない……行く宛もないし、とりあえず村でもないか探すよ」
「じゃあ、わたしもついていこっかな! 暇だし、目的もないし、ちょうどいいね!」
「え!? ついてくんの!」
「あ~! なにその反応は! わたし結構つよいんだぞ~、それとライルに魔力の使い方を教えてあげる。あんた魔力量はすんごいのに、全然使いこなせてない! ダメダメのブッブー!! 魔力はね、もっといろんな事が出来るんだよ」
魔力の使い方か、それはありがたい、俺の知らない魔力の活用法をたくさん知ってそうだな。
「わかったよ……これからよろしく、アンネ」
「うん♪ よろしくね! ライル、 旅は道づれ地獄までってね!」
「こえーよ! なんだそのことわざ、聞いたことねぇよ!」
「あれ? 勇者から教えて貰ったんだけど、聞いたことない? ライルとは違う世界からの転生者だったのかな?」
いや、十中八九同じ世界だと思う…………はぁ、クラリスは心配するだろうな、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。あんなに世話になったのに……でも、今よりもっと強く成長したら会いに行こうかと思う。だから、それまではさよならだ。
「お~い! ライル!! どったの? 早く行こうよ~!」
いつの間にか立ち止まっていたらしく、少し離れた所でアンネが呼んでいる。俺は苦笑して歩き始めた。




