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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第七幕】郷愁の音色と孤独な異形者
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1

 

 ドワーフの国、ガイゼンアルブ。それはここリラグンド王国よりも北、最北端のレグラス王国よりは南に位置する山に囲まれた国だ。住人であるドワーフの殆どが鍛冶師で、一日中金属を打つ音が響いていると言われている。何とも騒がしそうな国だね。


 山で囲まれているので、陸路から国に入ることは不可能だと言う。ならどうやって行けば良いのか? それは誰も知らないらしい。ドワーフは何処からともなく現れては、自分達が作った物を売って、その金で酒や食料を買っていく。疑問に思った人達が帰っていくドワーフの後をつけた事があるらしいのだが、毎回同じ場所で見失ってしまうのだそうな。


 そんな謎多きドワーフの国への行き方をリリィは知っていると言う。お互い長旅になるということで、二日かけて旅の支度を始めた。


 どれ程の旅路になるかは分からないが、蜂蜜はクイーン二世のお陰で何とかなりそうだ。クイーン二世もクイーンの子供なので、距離に関係なく念話ができる。店や皆に異変が起きたら直ぐにクイーンへ伝えてもらうように頼んである。


 店の経営は母さんに任せ、魔動コンロやマジッククーラー等の魔道具の作製はガンテの店にお願いした。アルクス先生はどうするのかと尋ねたら、街に残るという。研究も一段落したようで、シャロットのゴーレム研究の手伝いを再開するらしい。


 俺がいなくても、人魚達とエルフ達との取り引きは転移門で出来るようにはなったので、そこは心配しなくても大丈夫だな。後は領主に暫く留守にすると伝えないと。


 すぐさま領主の館に向かい、領主とシャロットにその旨を伝え、了承を得た。


「グフフ、街のことは吾輩に任せよ。ライル君は新しい商品や流通の開拓に勤しむが良いぞ」


「お気をつけ下さいませ。もうライルさんは南商店街、ひいてはこのインファネースになくてはならないお方ですので」


 シャロットの評価は少し大袈裟だと思うけど、俺もこんな中途半端な状態で投げ出す気はない。出来るだけ速く用事を済ませて戻ろう。


「お手数をお掛けしますが、よろしくお願い致します」


 そして二日後の朝、代表達や商工ギルドにも挨拶はしたし、準備は整った。俺は魔力収納から馬車と馬のルーサを出して、待ち合わせ場所に指定された街の門で待っていると、リリィ達が到着した。


 あれ? てっきりリリィだけかと思ったけど、そうではなかったみたいだ。こちらを確認したクレスは笑顔で手を振り、レイシアは堂々とした風格でガシャガシャと全身鎧を鳴らしながら歩いて来る。


「やあ、待たせてしまったかな? 君達と旅が出来るのはうれしいよ」


「ほう、これは立派な馬車と馬であるな。乗り心地も良さそうだ」


 クレスとレイシアもついてくるという事は、この二人にも旅の目的は伝えてあると見て良いのだろうか? そう疑問を投げ掛けるようにリリィに視線を送ると、それに気付いたリリィは大きく頷いた。


「…… 二人にも事情を説明してついてきて貰った。大丈夫、ライルのスキルのことは喋ってない」


 まぁ、それなら別にいいか。実力は確かなようだし、頼りにはなる。お互いに軽い挨拶を交わして馬車に乗り込む。どうやら御者台にはレイシアが乗るようだ。


「お! 中は結構広いんだね。これもマジックテントのように空間魔術で拡張したんだね? 」


 クレスの推察通り、馬車の内部空間を魔術で拡張してある。前に作った帆馬車ではなく、新しく箱形に作り直したのだ。素材はミスリルと鉄で出来ていて、外からミスリルと分からないように、亜鉛でメッキしている。ミスリルの部分に空間拡張の術式を施し、ゆったりと過ごせるスペースを確保したので、馬車の中でも三人程度なら寝泊まりも可能。領主の馬車を魔力で解析して作ったので、震動対策はバッチリ。これでもう尻が悲鳴を上げる事なく、馬車での旅が出来るってものだ。


「お二人はリリィからどの様に言われたのですか? 俺は世界の危機とだけ聞かされいますが、その内容までは話してくれないんですよ」


 馬車がゆっくりと走り出し、門を抜けた所でクレス達に話し掛けた。


「僕らも概ねそんな感じかな? 世界の危機と言われてしまっては見過ごす訳にはいかないからね。それはライル君も同じなのだろう? 」


「ええ、そうですね」


「しかし、リリィに君が必要だと言われたときは少し驚いたよ。いや、別に君を否定している訳ではないんだ。ただ、ちょっと疑問に思っただけでね」


 クレスの疑問も最もだな。ギルとアンネの存在も、俺のスキルについても知らなければ、腕なし方目の只の商人だからね。疑問に思わない方がおかしい。


「ライルは強いよ。見た目だけで判断しないでくれる? 」


 それを聞いたエレミアが不機嫌な声を上げる。擁護してくれるのは嬉しいのだけれど、よく知りもしない相手に見た目で判断するなとは難しいと思うよ。だって今はそれでしか判断出来ないからね。


「気を悪くさせたのなら謝るよ。まだお互いに知らない事が多いだろうし、これから少しずつ知っていこう」


 クレスがそう言うと、エレミアはそっぽを向き窓から外を見始める。その様子にクレスは 「ハハ、嫌われちゃったかな? 」 と乾いた笑いをしていた。


 さて、話の区切りもついた所で、リリィに色々と聞いてみよう。分からない事が多すぎるんだよ。



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