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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
134/812

25

 

「それでは行って参ります。最低でも二週間は留守にしますので、その間この街を宜しくお願い致しますわ」


 マセット公爵の立食パーティが間近に迫り、今日シャロットは出立する前に俺の店に訪れていた。


「気を付けて。行きもそうだけど、向こうで何か仕掛けて来るかもしれないからね」


「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫ですわ、充分に注意は払いますし、心強い味方もおりますので」


 そう言うとシャロットは、後ろで待機している人達に顔を向ける。そこには三人の冒険者がいた。


「心配召されるな。私がこの身にかえても領主様達をお守り致そうぞ! 」


 ガチャン! と大きな音をたて、鎧の上から胸を叩くレイシア。


「レイシアの言う通り、僕たちに任せてくれ。必ず、皆で無事に帰ってくると約束しよう」


 自信満々で爽やかな笑顔を浮かべるクレス。


「…… 仕事はきちんとするから、大丈夫」


 相変わらず眠そうな目をしたリリィはこくりと頷いた。


 どうやら領主とシャロットの護衛として雇われたようだ。確かに、この三人ならば気心を知っているし、実力も十分だ。その他にも、カラミアの隊商護衛として三組の冒険者を雇っているらしい。


「では、お父様とカラミアおば様がお待ちしておりますので、失礼致します」


 出来れば俺もついて行きたかったが、招待状の持っていない俺ではマセット公爵の館には入れず、行き帰りの護衛もプロには敵わないので邪魔になってしまう可能性がある。なので、大人しくここで待つしかなかった。店から出ていくシャロットの後ろ姿を見送り、やるせない気持ちになる。


 ◇


 シャロット達が旅立って、六日は経つ。もうマセット公爵領に着いた頃だろうか? 何事もなければいいけど。


「まだ心配してんの? ここでアレコレ考えていたって何も変わりゃしないよ、信じて待つしかないさ。なに、北のおばさんが一緒にいるから大丈夫でしょ? むしろ何か仕掛けて来るのを待っているかも、あれは怖い女だからね。だからライルは自分の出来る事をしな」


 俺がシャロット達の事でやきもきしていると、店で寛いでいたティリアに注意される。そうだな、今更考えていたってしょうがないか、せめて無事を祈ろう。


「アタシ等は領主様達が帰ってくる場所を守らきゃならない。でないと安心して留守に出来ないからね。カラミアだけでなく、アタシと東のじいさんも、領主様にはご恩があるのさ。貴族達にはカラミアが、街の中はアタシが、そして街や国の外はヘバックが目を光らせている。まぁライルは代表になったばかりだし、街の為になる事なら自由にやりな」


 各々に役割を決めて、インファネースを守っているんだな。それも領主の為にという共通の想いがあるから、ここまで協力し合ってこれたのだろう。それ以外は自分の利益を優先しているみたいだけど。


「でさ、うまい話があるんだけど、一枚噛ませてやろうか? 」


 商魂たくましいね、俺も少しは見習わないと。でも、そのうまい話とやらは遠慮しておくよ。




 すっかりと春めいてきた日差しが窓から入ってくる。リラグンド王国は大陸の南に位置しているので、冬でもそんなに気温は下がらなく過ごしやすい。そんな中でも春の訪れを気配や肌で感じる事が出来るけど、それも直ぐに終わり夏がやってくる。


 この国の春はおそろしく短く、最南端の国であるサンドレアまでとはいかないが、夏はとても暑くなる。夏に向けての商品を今から考案しなければ間に合わないな。何か暑さを凌げる魔道具でも作るとするか。暑くなるとアイスクリームが食べたくなるから、それも作ろうかね。バニラエッセンスはないけど何とかなるだろう。


「あ~やだやだ、もうすぐ夏がくるわねぇ。私、夏って苦手なのよぉ、汗っかきだからお化粧が直ぐに崩れちゃって、化粧品も安くはないのに、嫌になっちゃうわ」


 毎年の事なのか、デイジーはこれからくる夏に辟易していた。化粧が崩れたデイジーか…… できれば見たくない、トラウマものになりそうだ。


「ああ、もうそんな季節か。デイジーさんの化粧崩れの顔はもはや南商店街の風物詩だからね。背筋も凍るあの顔は夏にピッタリだよ」


「ガンテちゃ~ん、それってどういう意味かしらぁん? 」


 この二人は忙しくなり始めたのに、昼になるとこうして店に来ては寛いでいる。本人達は昼休憩だと言っているが、その間店は閉めている訳ではなく、二人とも奴隷を雇って店番を任せているらしい。店が繁盛して雇う余裕が出来たようだ。


 デイジーは変わらず、酔い治しの薬で儲けてるみたいだし、ガンテは宝石を使った、武具に魔術を組み込む方法で売り上げを伸ばしている。各属性に適した宝石を幾つか仕入れて、何の属性の攻撃魔術にするかを選んでもらってから、武具に取り付ける形にしているらしい。因みに防壁の魔術は属性はないので宝石ならどれでも同じである。


 今俺がしなければならないのは、南商店街をもっと活気溢れた街にする事だ。商人を外から呼び込み、新しい店を増やして行くのが目下の目標だな。出来ればパン屋が欲しい、プロが焼いた芳ばしいパンが近場でも食べれるようにしたい。


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