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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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24

 

 いやぁ、凄いね。店の二階にある客間に、北商店街のカラミア・リアンキール、西商店街のティリア・マーマル、東商店街のヘバック・サラステア、各商店街の代表達が揃って母さんが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。


 何だこれ? ついそんな事を思ってしまう。自分で言うのも何だが、こんな店に集まるよう人達ではないだろうに。一体どんな用事があるのか、考えただけで胃がキリキリと痛み出しそうだ。


「さて、そろそろ用件を伝えないとね。私達がここへ来たのは、あんたを南商店街の代表として正式に認める為よ」


 ん? 今カラミアは何と言った? 代表として認める? 俺を?


「儂らも南商店街の行く末を案じておったのじゃよ。代表がいなくなってから、街は衰退する一方じゃったからのう」


「そうそう、まとめ役がいなくなっただけであの有り様。しかも新しい代表になろうという気概のある奴も出てこなくてさ。このままだと都市全体の経済に悪影響を及ぼしかねない状況だったのよ。だからアタシ達は話し合って、南商店街を歓楽街にしようと決めたのさ。歓楽街としてやっていけそうな店以外の人達を引き抜いたりして、職にあぶれる者がでないよう準備してきたのに、君が全部無駄にしてくれちゃったし、責任取ってくれないとね」


 う~ん、俺はただ一時的にまとめ役を買って出ただけで、そんな意図はなかったんだけど…… 勢いで言うものじゃないな。


「という訳で、あんたはこれから南商店街の代表よ。異論は認めないわ。他の店からも同意は得ているから逃げ場なんてないわよ」


 あらら、既に包囲されている状況だったのか、流石は代表達だ。ここで俺が断ったとしても、他に代表になる人がいなければ何も変わらない。南商店街を更に発展させるには必要なのかも知れないな。


「…… 分かりました。皆さんが認めているというのなら、喜んでこの商店街の代表を務めさせて頂きます。まだまだ若輩者ですが、ご指導ご鞭撻の程、お願い致します」


 深々と頭を下げた先に、「確かに勉強不足だわ」「アタシんとこに来ないのは残念だけど良かったわね」「フォッフォッ、これでやっと肩の荷が一つ下りたわい」との声が聞こえてくる。


「では、早速じゃが商談といこうかの。あの酔い治しの薬と醤油が欲しいのじゃよ」


「あ! こらジジイ! 抜け駆けすんな! アタシだって味噌と醤油が欲しいんだよ! 」


 この商談で東商店街には定期的にデイジーの酔い治しの薬と醤油を卸す事になり、代わりに魚介の値段を適正価格より安くしてもらえた。醤油は屋台の新しい味になるとして、酔い治しの薬は貿易商なので船に乗る事が多く、船酔いする者の為だそうだ。


「まったく、最近の若いもんは根性が足りんのじゃ。少しの揺れでゲェーゲェーと、釣りもせんのに撒き餌などしおってからに」


 と、ヘバックは嘆いている。船酔いって根性でどうにかなるんですかね?


 西商店街では味噌と醤油、エルフの里のワインとブランデーを求めてきた。なので此方も野菜類を要求する。


 これで不当な金額での取り引きは無くなるだろう。味噌と醤油の味が南商店街だけのものではなくなってしまうけど、材料が今までよりも安く手に入るようになったし、この一件で新しく開拓した流通経路もある。味噌と醤油料理の先駆けとして南商店街の酒場や宿屋は話題になるかもしれないので、損はしないと思う。


「強引な引き抜きの件は事情があったということで納得はしますが、どうして魚介や野菜の値段をつり上げたのですか? 」


「なに、利益を求めるのは商人の性というものよ。儂らは南商店街を案じてはおるがそれはそれ、これはこれじゃ」


「仲良しこよしではいられないからね。アタシ達は仲間でもあるけど、競争相手でもあるのよ」


 ヘバックとティリアは厭らしい顔で笑い合う。


 こわっ! やっぱり豪商なだけはある、油断も隙もあったもんじゃねぇ。でもこれぐらいでないと、この業界では生き残れないのかね。


 代表達との商談も終わり、三人は店から自分等の商店街へと戻っていった。これで、この都市の商店街本来の形に治まったな。これからはお互いに利用しあいながら、自分達の商店街を、そしてインファネースの経済を発展させていくことになる。

 だが、油断は禁物だ。少しでも隙を見せたら頭からガブリと喰われてしまう。充分に気を付けなければならない。


 そう、思っていたのだが……


「だから! なんで、未加工のチョコレートがこんなに高くなってんのよ! おかしいでしょ! 下げなさいよ! 」


「あらあら、そうかしら? 今年の収穫量から見ると妥当かと思うけど。そうね、おちびちゃんの所に若い鍛冶師がいたわよね? 彼をくれるんだったら考えてあげても良いわよ」


「ふざけんな! クソババア!! 将来有望な若者を誰があんたなんかに渡すかってのよ! 」


「デイジーさんや。酔い治しの薬なんじゃが、もう少し都合してくれかの? 」


「あらぁ、東の代表に頼まれたら断りづらいわねぇ。でも、他にもこの薬を必要としてくれてる人は沢山いるのよ。困ったわ…… 所で話は変わるけど、サンドレアの化粧水、あれは良いわね。私の肌に凄く馴染むのよぉ」


「フォッフォッフォッ、後で若いもんに用意させよう」


「あらぁ! 嬉しいわ。それじゃあ、私も頑張っちゃおうかな? 」


 俺が南商店街の代表に認められて十日、着々と商店街の客足は伸びていっている。しかし、各商店街の代表達が俺の店に足繁く通うようになってしまったのだ。それだけではなく、店の中で鉢合わせた代表達はそのまま商談を始めてしまう。


 訪れた客には、何でこんなところに代表が? なんて顔をされるし、遠慮して入って来ない人もいる。これは立派な営業妨害だ! 店の中で商談をするな! それと何か買っていけ! と言ったら、クッキーを一袋ずつ買っては二階へ上り、商談の続きを始めたのだった。


 あぁもう!! 俺の店を溜まり場にすんなっての! 場所代とるぞこの野郎!

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