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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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23

 

 ガンテが武具に魔術を組み込むという試みを始めて六日目、遂にそれは完成した。協力を申し出たレイシアとクレスの剣と鎧には一個ずつ宝石が取り付けられている。アルクス先生の元同級生も快諾してくれて、今ではガンテの店の一員だ。


「…… 見て。私の杖にも着けて貰った」


 自慢でもしているかのように、リリィは自分の杖の先端で輝くルビーを、俺の目先にズイッと近づけてきた。


「うおっ! 俺の目を潰す気か! 嬉しいのは分かるけど、危ないだろ」


「…… 別に、それほど嬉しくはない」


 プイッと顔を逸らすリリィ、素直じゃないね。


「ハハハ、またそんなこと言って……ライル君。レイシアから聞いたんだけど、リリィはね、宝石を取り付けて貰った日の夜、よほど嬉しかったのか杖を抱いたまま寝ていたらしいよ」


「…… クレス、それは言わないと約束した」


 心なしかムッとした表情でリリィはクレスの頭を杖で叩き始める。本気ではなさそうだけど地味に痛そう。


「いや、ごめんよ。つい、ね。クッキーを買ってあげるから、もう僕の頭を叩くのは止めてくれないか? 思いのほか痛いよ」


 クレスに買って貰ったクッキーとシャルルが淹れた紅茶で機嫌が直ったようで、リリィは大人しく椅子に座っている。


「やれやれ、魔術界の異端児と言われていても、まだ子供。無理に背伸びする必要はないと思うんだけどね」


「お二人は、出会ってから長いのですか? 」


「ん? そうだね…… かれこれ一年の付き合いになるかな。レイシアと二人で冒険者として活動していたら、いきなり仲間に加えて欲しいと言ってきてね、二人して驚いたのを覚えているよ。何か目的があるみたいだけど、僕らにも教えてくれないんだ。でも放っておく事も出来なくて今も一緒にいるって感じかな」


 クレスは紅茶をちびちびと飲むリリィを、やさしい眼差しで見詰めていた。


 かなりのお人好しだな。見ず知らずの少女を仲間に加え、尚且つなんの目的があるのかも告げないのに、一年も一緒にいるなんて。まぁ、それは俺も同じか。世界の危機なんて言われて、リリィに協力しようとしているのだから。


「クレス! これは凄いぞ! 見た目はそうでもないのに、中はとても広いのだ! 値段は八万と少々高いが、買っておくべきだと進言する」


 キッカからマジックテントの説明を受けていたレイシアが、興奮を隠そうともせずにクレスに詰め寄る。


「へぇ、それは凄いね。これも空間魔術ってやつかな? これなら場所もとらないし、どこでも雨風を凌げるね。うん、良いよ。一つ買っておこうか」


 工場の生産量に合わせて、俺の方でもマジックテントを売り出した。結果は上々、狙い通り冒険者達がマジックバッグと一緒に買っていき、他にも行商人や隊商の人達にも好評だ。


 クレス達はマジックテントを購入して店を出て行く。これから簡単な討伐依頼を受けて、武具に取り付けて貰った魔術の使い勝手を確認するらしい。


「邪魔するよ! 何だい、随分と景気が良さそうじゃないか。ちっともアタシのとこに来ないから、此方から来ちまったよ! 」


 そう言って店に入って来たのは、銀髪お下げの小さな女の子、西商店街代表のマーマル商会、会長のティリア・マーマルだ。こんな見た目だけど、俺より年上で歴とした成人女性なんだよな。


「相変わらず五月蠅いおちびちゃんね。もう少し声を抑えて欲しいわ」


 続いて入って来たのは、何かと付き合いの多くなったリアンキール商会、会長のカラミア・リアンキールだ。おや? 珍しい組み合わせだな。偶然街中で出会ったという感じではなさそうだけど。


「ほう、ここが噂の店かの…… なるほど、良い店じゃな。これなら南も安心じゃろうて」


 後からもう一人、二人の知り合いらしき人物が店に入ってきた。その人は仕立てのよい服を着ている背の高い初老の男性で、綺麗に整えられた髭と白髪が混じった金髪。背筋がピンと伸びて、上品な佇まいをしている。


 ティリアとカラミアの後から入ってきたということは、そういうことなんだろう。このじいさんの正体が何となく予想出来てしまう。出来ればハズレて欲しいけど。


「初めまして―― じゃな? 儂は東商店街で代表などというものをやっておる、サラステア商会、会長のヘバック・サラステアじゃ。よろしくのう、ライル君」


 やっぱりか! ということは、俺の店に各商店街の代表が集まっている訳か。うへぇ、これから何が始まるんだ?


「は、初めまして。ライルです。此方こそ宜しくお願い致します」


「フォッフォッフォッ、そう緊張せんでも良い。儂らはこれから対等な立場になるのじゃからな」


 はい? 誰と誰が対等だって? このじいさん、ボケでも始まったのかな?


「ちょっと、ライル君が困惑しているわよ。詳しい話は二階でしましょう。いいわね? 」


 一度来た事があるカラミアは勝手知ったるなんとやらで、二階へ上がっていき、ティリアとヘバックもその後をついてく。


 おいおい、ほんとに何なんだよ。俺はキッカとシャルルに店の事を頼むと、急いで三人の後を追って二階へと向かった。

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