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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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22

 

「それで、どんな魔術にしたんですか? 」


「それはですね、防壁の術式と各属性の攻撃魔術にしようかと思っています」


 守りと攻撃か、妥当なチョイスだね。納得している俺にアルクス先生は更に説明を続ける。


「防壁の術式は発動すると、魔術でできた半透明で半球型の壁が前面に展開します。弓や剣といった物理的攻撃と魔法や魔術といった魔力的攻撃を防ぐ事が出来ます。しかし、ある程度ですけど。許容範囲を越えれば防壁は壊れてしまいますので注意が必要です。盾やガントレット、胸鎧に取り付けるのが良いでしょう。攻撃魔術は各属性の初歩的なものなので、魔力消費も威力も少なめですね。例えば、風属性なら風の刃を発生させたり、土属性なら石礫を、火属性なら火球を、水属性なら水球を、といったように遠距離用の術式と、各属性を武具に纏わせるような近距離用の術式にしようかと思っています。これは、武器やガントレットに取り付けるのが良いでしょうね」


 成る程、一般的には魔法スキルは一つだけだ。自分が持っていない属性の攻撃魔術と防御が出来れば生存確率はぐんと上がるだろう。


「…… 宝石は基本的に魔術に対する耐久が強い。だけど、種類によって適した属性が違う。その属性に適した宝石を使用する事によって魔術の威力が向上したり、もっと壊れにくくなる。火属性はルビー、風属性はエメラルド、水属性はサファイア、土属性はトパーズ、雷属性はアメシスト、光属性はダイヤモンド、闇属性はセレンディバイト。これら以外でも宝石の色で見分ける事が出来る」


 リリィが言うには宝石の色でどの属性に適しているのかが分かるらしい。一先ず様子見として、俺が買った各宝石をガンテに譲った。


「ガンテ殿、その防壁の魔術とやらを刻んだ宝石が出来たならば、試しに私の鎧に取り付けて貰っても良いだろうか? 」


「レイシアさんの鎧に? 使用状況も確認したいから、それは有り難い申し出だけど、本当に良いのかい? 」


「勿論だ! その代わり、幾らか安くして欲しいのだが」


「協力してくれたなら、半額にしてあげるよ」


 どうやら話は纏まったようだ。これでガンテの店にも目玉商品とも言えるような物が出来るだろう。


「レイシアが協力するのなら、僕も手を貸すよ。僕には攻撃魔術を剣に組み込んで欲しい。そうだね…… 火か雷の属性がいいかな」


 てっきりエレミアとの話に夢中になっているのかと思いきや、こっちの話にも耳を傾けていたクレスも協力を申し出る。これをガンテが拒む理由もないので、有り難く受けていた。


 そろそろ俺の店でも新しい商品を作らないと。構想はもう出来ている、素材は人魚達から仕入れたし、術式もギルに協力して貰って仕上げてある。マジックバッグの生産は国を挙げての一大プロジェクトになったので、此方の工場には余裕が出来たはず。


 ◇


 二日後、俺は空間魔術を用いて作った新しい魔道具を持って領主の館を訪ねる。色々と忙しいであろう領主は、快く俺とエレミアを出迎えてくれた。正直今日はアポだけ取って帰ろうかと思っていたから、直ぐに会ってくれるとは…… 期待はしていたけど、何だか申し訳ない。


「ブフゥ、これがライル君の作った新商品なのかね? 吾輩にはただの布切れにしか見えんが」


「お父様、これは布ではなく魔物の革ですわ。おそらく海の魔物かと存じます」


 流石はシャロット、正解だ。


「はい、シャロット様の仰る通りで御座います。此方は布ではなくメガロシャークと呼ばれる魔物の皮で出来ております」


 このメガロシャークは鮫に似た海の魔物で、シーサーペントに次ぐ巨体の持ち主だ。その皮も丈夫で水に強く、伸縮性にも優れている。身は不味くて食えたものではないけれど、上質な油が取れるらしい。人魚達にとって今まではそんなに必要ではなかったので、皮と牙だけ取ったら海に棄てていたのだが、料理が出来るようになってからは、揚げ物や炒め物に使う油として使用しているようだ。

 シーサーペントのように海の生物を食い荒らす危険な魔物なので、駆除の対象となっている。


「ほう、メガロシャークとな…… して、これはどの様な物なのだ? 」


「では、失礼致します」


 俺は十分なスペースが空いている床に商品を置き、魔力を込めて刻まれている魔術を発動する。すると、ただの布切れのように見えるそれは一気に膨らみ、頭が尖った三角錐のような形に変わった。


「これは…… テント、ですの? 」


「その通りで御座います。空間拡張を施したテントで、 “マジックテント” とでも申しましょうか。外から見たら一人用テント、しかし中は広く、五~六人は入れます。既に知っているかと存じますが、魔術で空間を拡張された物は、中に何も入っていなくとも膨らんでしまうというのがマジックバッグで確認されています。そうなると折り畳む事が出来なくなりますが、術式の発動を切ってしまえば元の鞄に戻ります。それを利用したのがこのテントで御座います。冒険者達は旅先で野宿をするとき、テントは張らずに地面で雑魚寝をするのが普通だそうです。何故ならば、テントは荷物になるし、一々用意するのが面倒。テントが張れるような場所を確保できない、と言った意見が多いのです。そこで、この空間魔術の特性を利用してテントを楽に張れないかと考え、この商品を作りました。大きさは一人用テントなので場所を取らず、メガロシャークの皮を使用しているので雨にも強い。外から魔物や魔獣に襲われたとしても、滅多なことでは破けません。片付ける時も、発動している魔術を切ってしまえば、折り畳んでマジックバッグに仕舞って終わりです。術式も空間拡張だけですので比較的簡単に作成出来ます」


 ふぅ、アピールしたい所はしたけど、どうかな?


「ブフゥ~! これは素晴らしいぞ、ライル君! 冒険者だけではなく、旅をする者達なら必ず求めるだろう。マジックバッグと合わせれば、その真価が発揮するのも良い。マジックバッグを買うのを渋っていた者達も、このテントと一緒に買うかも知れんな」


 領主が言っていたように、お金はあるのにマジックバッグを購入しない人もいる。その理由が、マジックバッグを必要とするほどの荷物がないというのが殆どだ。その為、大した荷物もないのに四六時中膨らみっぱなしの鞄なんか持ってたら、却って邪魔になるらしい。ならば、旅に役立つ便利な道具を作っていけば、自ずとマジックバッグが必要となってくるはず。


「しかし、メガロシャークは獰猛で危険な魔物ですわ。その素材は何処から仕入れればよろしいのでしょう? 」


「大丈夫です。此方でご用意致しますので、心配為さらないで下さい」


「グフフ、腕の良い冒険者でも、メガロシャークを仕留めるのは困難と聞く。その素材をライル君は安定して供給が出来ると、そう申すのだな」


「はい。左様で御座います」


 迷いなく答えると、領主は大きく頷き、満足そうに鼻を鳴らした。

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