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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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21

 

「うわぁ…… 凄いな」


 俺とエレミアはカラミアとの約束を果たす為、朝から北商店街に来ている。そこには如何にも高級感漂う店が建ち並んでいた。

 高級ホテルにレストラン、宝石店や魔道具店、美術品を取り扱っている店もある。うお! ここは酒場のようだが南商店街とは全然違う。おしゃれなバーといった感じだ。


 客層が違うと商店街もここまで違ってくるものなんだな。しかし道行く人が俺達を、いや、正確には俺を蔑むような目で見てくる。ここには貴族や裕福層が多いと聞く、選民意識が高い人もいるのだろう。


 何だか懐かしいね、この視線。俺とアンネの二人で村を回っていた頃を思い出す。マントのフードを上げて顔を見せただけで、嫌な顔をされてたっけな。出会いに恵まれていたからか、そんな視線を向けられていた事なんて、すっかり忘れていたよ。


「早く用事を済ませて、こんな所さっさと出ましょう」


 エレミアはこの視線に堪えきれず、不機嫌な態度を露にしていた。そうだな、俺も慣れているとはいえ居心地の良いものではないからね。


 暫く歩いていると、二階建ての建物が見えてきた。そこには “ペルフェット” と書かれた看板が掲げられている。ここがそうか、立派なレストランだ。中へ入るとまだ準備中のようで、従業員達が慌ただしく動いていた。


「来たわね、早速で悪いんだけど厨房へお願いするわ。そこで料理長が待ってるから」


 挨拶もそこそこにカラミアに厨房へと案内され、エレミアは此方が用意した味噌と醤油の扱いを料理長に教え始める。その間暇なのでどうしようかと思っていたら、カラミアに二階の個室に連れられて、パーティに出す料理の試食をする事になった。


 マセット公爵の領地は山が近くて海が遠いとのことで、海の幸は長持ちする干物以外は使わず、山の物や川魚を使用している。山菜とキノコをバター醤油でソテーしたもの、川魚を焼いたものに醤油と柑橘系果物の汁を混ぜて大根おろしに掛け、おろしぽん酢モドキにして食べたり、ビッグボアのバラ肉と豆苗の味噌煮、川魚を味噌に漬け込んだり、新鮮な野菜でゴマ味噌サラダにしたりと様々な工夫を凝らした料理が次々と運ばれてくる。


 カラミアはそれを一口、二口食べて改良すべき点を挙げては次の料理に移る。その顔は真剣そのもので、一切の妥協を許さないといった感じだ。どれも美味しいと思うんだけどな~、何が駄目なんだろう? 俺では良いアドバイスは出来そうにないので、単純に出された料理を楽しむ事にした。


「色々と教えて貰って助かったわ。料理長も新しいレシピが増えて喜んでいたわよ。貴女が教えてくれたニンニク醤油は仕込むのに時間が掛かるからまだ試せないけど、きっと素晴らしい料理になると思う。パーティが開催されるまで納得のいく料理に仕上げるつもりよ。なのでこれからも味噌と醤油をお願いね」


 お腹も十分に膨れた頃、漸く試食会は終わりを迎えた。うぷっ、朝から食い過ぎた、もう夜まで何も食べたくはないよ。お腹パンパンの俺にカラミアは一枚の便箋を渡してきた。


「約束した宝石商の住所よ。話は通してあるから、必要になったら訪れると良いわ。ただし、あんたも商人なら値段交渉は自分でやりなさい」


「はい。ありがとうございます」


 俺とエレミアはカラミアと別れ、宝石商の下へ行ってダイヤモンド、セレンディバイト、エメラルド、ルビー、サファイア、トパーズ、アメシストを取り合えず一個ずつ購入した。どんな宝石が良いのか分からなかったから一通り買ってみたけど、宝石ってやっぱり高いね、もとが取れればいいんだけど。


 店に戻ると、何時ものようにガンテとデイジーにリタとリリィ、それと何故かレイシアとクレスまでのんびりと紅茶を飲んでいた。何だか増えてる……


「あっ、おかえりない。ライルさん」


「ああ、ただいま。キッカ」


 キッカに挨拶を返して、人の店で屯っている者達に近付いていく。


「おや? 戻ってきましたか。で、宝石はどうなったのかな? 」


 ガンテは此方に気付くなり、宝石について尋ねてきた。


「ええ、ちゃんと正規の相場で買えましたよ。次は絶対に値切ってやりますよ。それで、皆さんは集まって何を話していたのですか? 」


「それは頼もしいね。今、皆で武具に魔術を組み込むのならば、どんなのが良いのか話し合っていたんだよ。冒険者の意見も聞きたくてね、リリィさんのお仲間である、この二人を呼んできてもらったのさ」


 だからレイシアとクレスが俺の店にいるのか。


「僕らの意見なんかで参考になるのならばいいんだけど…… やあ、エレミア。久しぶりだね、何か困った事はないかい? 」


「ええ、久しぶりね。今の所、貴方の力は必要ないわ」


 クレスはエレミアを見つけると、直ぐに話し掛けてきたが、エレミアは素っ気ない態度で接している。


「それで、意見は纏まりましたか? 」


 俺の問いにガンテは腕を組み、難しい顔をした。


「まあ、一応ね。俺は魔術については良く分からないから、リリィさんとアルクスさんに任せたんだ」


「はい、僕とリリィさんで、出てきた意見を検討した結果、宝石に刻む術式をある程度纏めてみました」


 現役冒険者の意見と、魔術のプロが検討したのなら間違いはないだろう。


「宝石に術式を刻むのはアルクス先生に頼んでもいいですか? 」


 長期間留守にしても大丈夫なようにしたいから、俺以外の誰かに頼みたいのだが、リリィは冒険者なのでアルクス先生しか頼む人がいないのだ。


「う~ん、僕にも研究がありますからね…… 僕が呼んだ魔術師の一人をガンテさんが雇うのはどうでしょうか? 」


「俺が魔術師を? 別に構わないけど、来てくれるかな? 」


「大丈夫ですよ。あれから工場で働きたいという魔術師を何人か雇ったようですし、一人抜けても問題はありません。それに、彼も同じ術式ばかり刻んでいて飽きたとも言っていましたので、来てくれますよ」


 こうして、宝石は俺から仕入れて、術式はガンテが雇うアルクス先生の元同級生の方に刻んでもらう形になった。

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