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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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 キッカとシャルルを雇い始めて四日、流石は商人の子供だけあって計算もバッチリ、物覚えも良好だ。これなら安心して他の業務に集中出来るな。


 南商店街の流通経路も固まってきたし、各店の利益も今の所増えてきているようだ。

 北商店街で売られている洗浄の魔道具は値段が高いので冒険者達はこの店で買っていってくれるし、母さんの蜂蜜クッキーもシンプルで保存がきくという理由で、西商店街に行っていた女性冒険者達が徐々に戻り始めている。


 女性冒険者曰く、


「西商店街の喫茶店は、休みの日にゆっくりと寛げるのは良いけど、お菓子はあまり保存がきかないのよね。やっぱり旅のお供にはここの蜂蜜クッキーだわ」


 との事らしい、上手く使い分けてらっしゃる。


「シャルル、それこっちに持ってきて」


「あ、うん。分かった」


 手慣れた様子で開店準備をこなすキッカとシャルルを横目に、俺は各店の流通網が書かれたメモを確認していた。


 今のところ問題はないけど、不安は拭えない。まだまだ向こうの方が有利なのは変わらないのだから。それでも、少しずつ客を集めていくしかない。当面の目標としては、他の商店街との対等な立場を手に入れる事。でないと野菜や魚介以外の品でも、此方の要求が通らず、向こうの要求だけが通る一方的な取り引きだけになってしまう。せめて適正価格には戻したい。


「ライルさん、準備完了しました。何時でも開店出来ますよ」


 これからどうするかと頭を悩ませていると、開店準備を終えたキッカが報告しにきた。


「ああ、ありがとうキッカ。少ししたら店を開けようか」


「はい、分かりました。あの…… 私達を雇って下さって、有り難う御座います。二人一緒では中々雇ってくれる人がいなくて、助かりました。ここは何だか居心地が良くて、皆さんも優しくしてくれますし、出来ればずっとこの店で働いていたい位です」


「そうか、そう言ってくれるのは嬉しいよ。だけど俺達はまだ出会ったばかりだ。お互い知らない事が多い、契約期間も半年ある。その間に俺は君らを信用に値するか判断しようと思っている。だから君達も、この店と俺達を見極めて欲しい。その結果、お互いの思いが同じなら、奴隷としてではなく直接君達を雇いたい」


 その時は、この二人にも地下室の事を話して人魚やエルフ達の相手をしてもらう事になるだろう。偉そうな物言いをしておいてなんだけど、俺の方はもう雇う気でいる。だからこの半年という期間を使って、ここはブラック企業ではありませんよ~、見捨てないで~、とキッカとシャルルに精一杯アピールするのだ!


「…… はい、私達頑張りますから、しっかりと見ていて下さい」


「うん。俺も、君達が心変りしないよう頑張るよ」


 俺とキッカは軽く笑い合い、店を開けた。


 ◇


 やはり朝はそれなりに客も来ているのだが、昼になると極端に少なくなってしまうな。シャルルなんかあまりに暇なもんだから、カウンターに肘を付きながら、うつらうつらとしている。


 平和だね。必死に眠気と戦っているシャルルを見て和んでいると、店のドアが勢いよく開いて誰かが飛び込んできた。その音にビックリしたのか、シャルルはビクッ! と体を跳ねさせて、キョトンとしている。


 誰だ? 結構慌てているようだけど、何かあったのかな?


「あ、デイジーさん、いらっしゃいませ」


 客の正体にいち早く気づいたキッカによって、デイジーが来たと判明した。


「ちょ、ちょっと! 大変なのよ! 今さっき領主様が戻ってきたの」


 お、漸く王都から戻って来れたのか、随分と長い間いたね。


「そうなんですか? 良かったですね、シャロットも喜んでいるでしょうね」


「全然良かないわよ! いえ、戻って来られたのは良いことよ。でも…… 何者かの襲撃にあったみたいで、馬車がボロボロなのよ。心配だわ、ご無事ならいいんだけど…… 」


 は? 領主が襲われた? それは心配だ…… 馬車が戻ってきたのだから生きてはいるんだよな?


「キッカ、シャルル、少し留守にするから店番は頼んだよ。何かあったら母さんに報告してくれ、あとエレミアに俺の事を聞かれたら、領主様の館に行ったと伝えてくれ。それじゃ行ってきます」


「あ、はい。分かりました」


「う、うん…… いってらっしゃい」


「詳しい事が分かったら、私にも教えて頂戴ね! 」


 三人に見送られ、俺は急いで領主の館に向かう。一刻も早く領主の安否が知りたかったので、アンネの精霊魔法で領主の館近辺まで一瞬で移動した。


 門兵にシャロットを呼んで貰い、館まで一緒に向かっている途中に詳しい事情を伺うと、今から一週間前に王都から戻れると領主から連絡があったそうだ。しかし、帰って来たのはボロボロになった馬車と領主の私兵に護衛として雇った冒険者達、それと意識不明の領主だった。


「幸い命に別状は御座いませんでしたわ。此方へ向かっている途中で魔獣の群れに襲われたらしく、偶然そこに居合わせた冒険者達の協力により、魔獣達は難なく撃退出来たのですけど、お父様がデッドリースパイダーの毒に侵されてしまい意識を失いましたが、それも冒険者様のお陰で一命を取り留めたようですわ」


「そうだったのか…… 何にせよ領主様が死なずに済んで良かったよ 」


「ええ、彼等には大変感謝しております」


 それにしても、襲われている領主の馬車を偶然近くにいた冒険者が救った――か。領主も運が良いのか悪いのか、いや、この場合は悪い方だな。


 館に着いた俺はシャロットに客間へと案内され中に入ると、そこには先客がいた。おそらく彼等が領主を救った冒険者達なのだろう。見覚えのある姿に俺は思わず溜め息を漏らす。


 よりによってこいつらかよ…… 爽やか系イケメンと騎士の女性、それと黒いローブを羽織った魔術師の女の子。まさか冒険者達の間で話題沸騰な三人とここで再び出会う事になろうとはね。



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