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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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 転移門を設置した事で人魚達とエルフ達が頻繁に店に訪れるようになり、人魚達が持ち込む魚介や干物、エルフ達が持ち込む肉や薬草等が順調に集まっていった。野菜、味噌、醤油、ワイン、ブランデーといった作るのに時間が掛かる物に関しては、供給が安定するまで俺の魔力収納内で作った物を各店に卸している。


 地下にも人魚とエルフの為にカウンターと商品を置いたことで人手が足りなくなった。今は街の客が少ないのでまだ大丈夫だが、これから増やそうと皆で頑張っている訳だから、母さんとアルクス先生だけでは確実に人手不足で店が回らなくなってしまう恐れがある。

 これでは安心して旅にも出られないな。う~ん、あまり気が進まないけど、シャロットが前に勧めてくれた奴隷でも雇うとしようか。


 母さんとアルクス先生に相談した結果、奴隷を雇う事が決定した。奴隷については初めてなので誰かついてきて欲しかったけど店番があるという理由で、結局いつも通り俺とエレミアの二人で奴隷商店へ向かった。


 奴隷商店は東商店街にあり、外見はレンガ造りの立派な建物だ。これは俺が想像している奴隷ではない、人の売り買いじゃなくてきちんとした雇用形体をしたものなんだと、シャロットから聞いてはいるが複雑な気分だよ。やっぱり奴隷という呼び方が悪いと思う、何とかならないかね。


 俺は若干足どりを重くしながら奴隷商店に入っていくと、広いエントランスの先にあるカウンターに向かい、受付の男性に話し掛ける。


「あの…… ど、奴隷を雇いたいのですが、こういうのは初めてでして、どうすれば良いのでしょうか? 」


 すると男性はにこやかな顔で対応してくれた。


「ようこそ、フレイデック奴隷商店へ。奴隷をお雇いになるのは初めてですね。先ずはこの用紙に記入をお願い致します」


 そう言われて渡された用紙には、名前に住所、奴隷を雇う動機、どの様な奴隷を求めているのか等の記入事項があった。それらを記入し終えて受付の男性に渡そうとしたら、横から何者かに奪われてしまう。


 なんだと思って顔を向けると、そこには俺が記入した用紙を読んでいる片眼鏡の男性がいた。タキシードに似た服装をしていて、黒の短髪で壮年のような面立ちをしている。


「ふむふむ、店の接客を目的とした奴隷を御所望ですか…… お客様は奴隷を雇うのは初めてとの事。然らば、私めが担当させて頂きます。どうぞこちらへ」


 片眼鏡の男性に個室へと案内され、お互いにテーブルを挟み対面する形でソファーに座る。


「遅ればせながら自己紹介を…… 私めはバルトロ・フレイデックと申します。この店の責任者を務めさせて頂いております。どうぞご贔屓に」


 ここの店主だったのか、ということは奴隷商人か。やはり先入観が強いのか、どうしても胡散臭く見えてしまう。


「南商店街で雑貨屋をしているライルと言います。よろしくお願いします」


「はい、お噂はかねがね伺っております。味噌と醤油を南商店街だけに卸し始めたそうですね? 遂に南商店街がやる気を出したと、此方でもこの話で持ちきりで御座います」


 もう噂は広がっているのか。それにここは東商店街だ、もしかして南商店街の連中は相手にしないとか、金額を吊り上げてくるつもりなのだろうか?

 そんな俺の怪訝な表情を窺い、バルトロはニッコリと笑みを浮かべた。


「ご心配なさらないで下さい。東商店街に店を構えてはおりますが、サラステア商会の傘下ではありません。此方の方が多く奴隷を雇って下さるので、此方に店があるだけで御座います。それに、南商店街が動き出した事は喜ばしく思っているのですよ。各商店街が競い争う事により、この都市の経済は回ってゆくのですから」


 何やら上機嫌で語るバルトロに適当に相づちを打っていると、従業員と思わし女性が紅茶を持ってきてくれた。


「ああ、君。ここに書かれている資料を持ってきてくれたまえ」


 バルトロは女性に何やら数字が書かれた紙切れを渡して下がらせると、紅茶を一口飲んだ。


「それでは資料がくる間に、奴隷についてご説明致しましょう。今は昔と違って奴隷は法で守られております。人権を無視した対応、強制、暴力、それらを行えば裁きの対象になりますのでご注意下さい。奴隷には、契約奴隷、借金奴隷、犯罪奴隷と大まかに三つに分類されます。契約奴隷とは一般的な奴隷で、殆どがこれに当たります。何らかの事情で家を失ったり、行く宛が無くなった人達が契約奴隷になっていく場合が多いですね。次に借金奴隷ですが、これは言葉通り借金で首が回らなくなってしまった者達です。契約奴隷と借金奴隷の大きな違いは、借金奴隷は奴隷として契約すると、我々奴隷商がその借金を全額肩代わりするのです。奴隷商が肩代わりした金額を返せるまで、奴隷を辞めることは出来ません。犯罪奴隷は、ご想像の通り犯罪を犯した者達の事です。これに関しては人権などはありません。隷属魔術で行動を制限され、戦争での肉盾となるか鉱山での危険地帯で死ぬまで働かされるかのどちらかになります」


 成る程、契約奴隷は自分の意思で奴隷になったり、辞めたり出来ると、借金奴隷は自分の借金を肩代わりしてもらう代わりに奴隷となって、肩代わりしてもらった金額を稼いで返すまで奴隷は辞める事は出来ない。犯罪奴隷はもはや終身刑のようなものだね。


「隷属魔術とは何なのですか? 」


「隷属魔術と申しますのは、奴隷商のみが使う事を許された魔術で御座います。一番よく知られているのは、主と定められている者に危害を加えようとすると、全身に激痛が走ったり呼吸困難に陥ったりと、最悪死に至ることもあります。犯罪奴隷に施す場合は自分以外の誰かに危害を加えようとすると発動するようにしています。他には、命令に逆らえなくなったりと効果は様々です。我々奴隷商は国から厳正な審査と試験を受け、それに合格した者だけが奴隷商として商いが出来るのです。国に認められていない者が奴隷商をしていたり、隷属魔術を使用した場合、その者は有無を言わさず犯罪奴隷として処理されてしまいます」


 俺がイメージしていた奴隷は犯罪奴隷が近い感じかな。どうやら、かなり厳しく法が定まっているようだ。

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