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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第六幕】南商店街の現状と対策
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4

 

 アルクス先生はガンテにも椅子と紅茶を用意して、店内でゆったりとしている。たまに客が来るけど、紅茶を飲む二人に一瞬だけ驚き、なんだこの二人か―― と直ぐに買い物を続ける。


 あまり認めたくはないけど、常連さんからしたらよく見る光景になりつつあるんだよね。中にはデイジーやガンテの客が二人を呼びに来ることもある。


「ふぅ~、何故だか分からないけど、ここは落ち着くんだよね」


「そうなのよ、何故かしらね? 」


 よく分からんが、俺の店にいると落ち着くらしい。マイナスイオンでも出ているのかな?


『それは、この店がマナに満ちているからだろう。魔力収納にあるマナの木から生み出されたマナが、ライルの魔力を通して溢れ出ているのが原因だな。マナが豊富な所は、この世界の生き物にとっては安心出来るものなのだ』


 う~ん、それって空気が濃いとリラックス出来たり、疲れが早くとれるとかと同じような事なのか? ていうか、俺からマナが溢れ出ていたのか。いよいよ人間離れしてきたな、これじゃ歩くマナ製造機なんて呼ばれても文句は言えないね。


「ねぇ、ちょっと! 聞いてるの! 」


 デイジーの呼び掛けで意識をそっちに向ける。


「あ、はい。すいません、聞いてませんでした。何ですか? 」


「も~、しっかりしなさいよ。この暇な時間をどうにかしようって話してたじゃないのよ」


 そんな話になっていたのか。確かに、客が来ないのは問題だな。


「どうにかって、どうするんですか? 」


「それを今、話し合ってんでしょ。で? 何かいい案はないかしら? 」


 そんな事を言われてもな…… まだこの商店街に来て日も浅いから、何も思い浮かばないよ。


「すみません、何分ここに店を構えたばかりですので、この商店街の事もよく分かっていないんですよ」


「あら? それもそうね。あまりにも落ち着くもんだから、昔からある感じがしてたわ」


 それはこの商店街に馴染んでいると思ってもいいんだよな。


「そうだね。ライル君も来たばかりで、知らない事も多い。このインファネースの街は四つの地区があり、各地区に商店街があるのは前に教えたよね? 」


「はい。最初にガンテさんのお店へお邪魔した時に教えて貰いました。確か、東西南北の地区に別れているんでしたね」


 えっと、東地区は港に近いので、料理屋やお土産屋、魚屋等が多いんだよな。

 西地区は住宅街だから、生活に準じた店が多く構えていて、北地区は高級住宅街で、領主の敷地にも近いので高級店が建ち並んでいると。

 そして、南地区は商工ギルドと冒険者ギルドがあって、酒場や宿屋が多い。だから、冒険者達と旅商人達が沢山いるんだったな。


「話を聞くだけなら、上手く住み訳が出来ていると感じるけど、実際は違う。この商店街にいる商人の殆どは東地区に流れて行っているんだ。主に貿易品目当てだね。その中には他国の珍しい剣や鎧もあるから、冒険者達もよく足を運んでいるらしいよ。魔道具といった高級品は北地区の方が品揃えが良く信用もあるのでそこへ向かい、雑貨や服等の日用品は西地区を利用している。ではこの南商店街はというと、酒場と宿屋位しか利用されない。他の地区は品揃えも品質も、俺達の店と比べると段違いなんだよ」


 成る程。南商店街にある店よりも、良いものがあるのなら、そりゃ他の地区の店に行くだろう。


「それだけじゃないわよ! あいつらと来たら、鍛冶師や薬師、裁縫師といった腕の良い職人を買収して自分達の商店街に抱え込むのよ! ここからも何人か向こうへ行ってしまったわ」


「あいつらって、誰のことなんですか?」


「各地区を牛耳っている商会の事だよ。ライル君と一緒にマジックバッグを売り出したから分かるよね? 」


 ああ、確かに各地区の代表になっている商会にマジックバッグを卸しているな。彼等がお金を積んで、職人達を囲っているのか。でもそれも戦略だから、表だって文句は言えないよね。


「腕の良い職人を迎え入れて、自分のいる商店街を盛り上げようとするのは普通だと思いますけど」


「あなたの意見は正しいわぁ。でもね、納得出来ない事が一つあるのよ…… どうして、私にお呼びが掛からないのよ! 私だって薬師として十分に腕があるのに! 」


 腕が良い事以上に面倒だからじゃないかな? デイジーをスカウトしない商会達の気持ちは分からなくもない。


「まぁ、そういう訳でこの商店街には酒場と宿屋以外の店が少ないんだよ。向こうに行った職人達を戻す手立てはないし、どうすれば南商店街に人を沢山呼び込めるのかな? 」


「貴方は良いじゃない、冒険者達から武具の修理とかあるからまだ大丈夫でしょ? リタちゃんのとこも、良い生地を使った服が一部の冒険者達に人気があるらしいじゃない? 私なんか回復薬と解毒薬以外てんで売れないわよ。マジックバッグみたいに私の店にも何か一つ売りになるものがあればねぇ」


 う~ん、薬か…… 俺よりもエレミアに聞いた方が良さそうだな。


「あら? 皆さんお揃いで何をしてらっしゃるのかしら? 」


 どうしようかと頭を悩ませていると、二階から女性陣が下りてきた。どうやら今日の女子会は終了したようだ。俺は先程まで話していた内容をシャロット達に伝える。


「確かに他の地区と違って、南商店街には人が少ないですわね。でもそれは各地区の営業努力の成果でもありますし、不正もございませんので、何とも言えませんわね」


「それは分かってるのよぉ、だからこうして何をしたら良いのか考えてるんじゃないのさ」


 シャロットの言葉にデイジーは不満を露にする。結局は自分達の店を盛り上げるしかないのだが、その方法が分からない。


「しかし、南商店街の業績は伸びていると伺っておりましたが、違うのですか?」


「うん、それは間違いではないよ。新しい調味料の味噌と醤油のお陰で酒場や宿屋は賑わっているけど、他の店にはあまり影響がないんだ」


 確かに、そういう所には客は集まっているので、商店街の業績は上がっていると見えるのだろう。だけど個人で考えると、儲かっている店とそうじゃない店との差が大きい。その差を埋めなければ、いずれ潰れていく店が出てきてしまう。


「エレミアちゃ~ん、何か話題になる薬ってない? 」


 デイジーの気色の悪い猫なで声で問い掛けられたエレミアは、暫し考えて、


「話題になるかどうかは分からないけど、必要とされる薬を作れば良いのよね。なら、酔い治しの薬なんてどうかしら?」


 エレミアが言うには、酒場が繁盛しているなら二日酔いになる人も多いのではないかと。その人達が求める薬を作れば、自ずと話題になっていくのでは? との事らしい。


「良いわねそれ! その提案頂いたわ! でも酔い治しの薬なんて初めて聞くわね」


「そう? 人間達は知らないのね。簡単な材料で出来るからお手軽よ。調合がちょっと難しいだけ、お店が終わったら教えてあげるから、後は自分で何とかしてよね」


 エレミアから薬の製法を教えて貰える事になったデイジーは、奇声を上げて喜んでいた。エルフから直に教わる人間の薬師なんて初めてかもしれないと興奮を隠せない様子だ。


 取り敢えずは当面の対策として、この商店街に来ない人よりも、来てくれている人達のニーズに応えようという意見で纏り、ガンテとデイジーは自分の店に戻っていった。


 俺も自分の店に来てくれるお客の意見をリサーチしてみるか。何か良いアイデアが浮かぶかもしれない。


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