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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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18

 

「こんにちは。無事に店を開く事が出来たようで何よりです」


 そろそろお昼休憩でも入れようかと思っていた所に、商工ギルドのギルドマスター、クライドが狐目を更に細くして店に入ってきた。あれで愛想笑いでもしているつもりなのか?


「これはギルドマスター、いらっしゃいませ。お陰様で今のところは特に問題もなく順調です」


 店の中をキョロキョロと見回したギルドマスターは、一つの商品に目をつけて、そこに近づいていく。


「そのようですね、私としても上手くいっているのなら良いのですが、この蜂蜜はギルドに卸す物と同じ物ですか? 」


 一瓶四万リランの値札が置かれている棚から蜂蜜の入った瓶を手に取り、尋ねてくる。


「えっと、それはですね…… その、予定よりも早く、数も多く仕入れられたので、自分の店でも売ってみようかなと思いまして」


 へへへ、と笑って誤魔化す俺を見てギルドマスターは眉間の皺を深くする。あっ、やべぇ、怒らせてしまったか?


「そうですか…… なら多少早いですが、今ここで蜂蜜を卸して頂きましょうか。ご自分の店で売れるほど仕入れてきたのなら問題はありませんよね? 」


 俺はギルドマスターに約束していた、蜂蜜の入った瓶を二十個その場で渡した。大量の蜂蜜をどうやって持っていくのかと疑問に思っていたが、ギルドマスターは既に別の店でマジックバッグを購入していたので、蜂蜜入りの瓶を全て仕舞う事が出来た。


「やはり便利な鞄です。確かライル君はシャロット嬢のご友人なんですよね。その伝手でマジックバッグを仕入れたのですか? うらやましい事です。ギルドにも卸して欲しいと頼んではいるのですが、まだ生産量が安定してなくて今は難しいと断られてしまいましたよ。もし、シャロット嬢に会うことがありましたら、ギルドは何時でもお待ちしておりますと、そう伝えて頂けませんか。それでは、この辺で失礼します」


 ギルドマスターが店から出るのを見届けたあと、一気に体の力が抜けていく。ふぅ~、やっぱり黙って蜂蜜を売ったのがいけなかったのかな? 先に蜂蜜をギルドに卸しておけば良かった。


「いやぁ、怖いですね。流石はギルドマスターと言ったところでしょうか」


 隠れて様子でも見ていたのか、アルクス先生がカウンター奥から出てきていた。


「先生、見てたのなら助けて欲しかったですよ」


「僕も彼は苦手なんですよ。感情が読みづらくて、それにライル君なら大丈夫だと信じていましたからね」


 なにそれ、ずるいな~、アルクス先生は狡い! 気持ちは分からなくはないけどね。逆の立場だったら俺もそうする。


「店番は僕に任せて、休憩に入ってきて下さい」


「有り難うございます。それじゃあ休憩入りますね」


 俺は二階に上り、ダイニングキッチンへと向かう。そこにはエレミアが用意した食事がテーブルに並べられていた。貝と野菜のクリームパスタにコーンスープとどれも旨そうだ。


 食事と休憩をすませ一階に戻ると、そこそこの数のお客が店に来ている。アルクス先生に聞いたら、他の地区でマジックバッグを買いそびれた人達がこの店に流れて来たらしい。


 初回で様子見ということで、販売数は押さえ気味にしてある。マジックバッグを購入した人達と街の様子を伺いながら、今後の基本販売量を決めようとしていたのだが、初日の様子では余り参考にはならないな。


 マジックバッグの価格はかなり高額に設定しているはずなのに、もう他の地区では売り切れたのか。大手の商会だから売るのが上手なんだろうね、俺も見習いたいものだ。


 この国では三十リランもあれば、エール一杯は飲める。主食のパンも安いものなら、コッペパンのような形をした黒くて硬いパンで一個五リラン、高いものでは白くて柔らかいパンで五十リランはする。一般の人が一人で贅沢をせずに一月暮らすには、食費だけで約四千リランもあれば事足りるはずだ。かなり質素な暮らしにはなるけど。


 この事からシーサーペントのマジックバッグ一個、三十万リランはとても高額だというのが分かるだろう。安いマジックバッグでも十万リランもするので、一般市民には手が届きづらい。それを見越して数は押さえ目にしたというのに、品切れになってしまった。


 勿論、転売防止の為にお一人様一点限りにしてあるのに関わらずにだ。精々上手くいっている旅商人か、等級の高い冒険者が買い求めるものだと予想していたが、思いのほかこの街に住む多くの市民が買っていったのが驚きだ。結構皆溜め込んでいるんだね。


 この国の物価を調べて最初に感じたのは、蜂蜜が高い! という事だ。なんだよ五百ミリリットルの瓶一つ、二万リランって…… でも、それほどまでに蜂蜜の入手が難しく、貴重だということでもある。この世界では養蜂なんてものはないみたいだし、そりゃ高くもなるか。


 俺が卸している蜂蜜は一般で販売されている物より味が濃厚で美味しいようで、貴族の皆様に大変好評らしい。なので、一瓶四万リランなんて卸値がついたのだろう。主に貴族達に届けているようなので、実際の売値は倍近くにはなってるはずだ。


 今日の売り上げは、その蜂蜜とマジックバッグのお陰でかなりのものになった。まぁ、それも最初だけ、マジックバッグは一つ持っていれば十分だし、これから少しずつ売り上げは落ちると予想している。


 先ずはこの街で、そしていずれは他領、他国にと販売ルートを伸ばして行くのだろう。俺はその道を後からのんびりと歩いて行けば良いだけだ。


 こうして、開店初日は大成功と言っても過言ではない成果を残して終了した。

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