表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
105/812

16

 

 領主が王都へと旅立って五日、マジックバッグの量産は順調に進み、完成した物から各地区の代表となっている商会へと卸されていった。


 東商店街にはサラステア商会、西商店街にはマーマル商会、北商店街にはリアンキール商会、そして南商店街には俺がマジックバッグを売りに出す事になっている。


 既にマジックバッグの宣伝はされていて、インファネースの街はちょっとした騒ぎになっていた。空間魔術を施した鞄の魔道具が販売されるという噂は街中に広がり、中には嘘なんじゃないかと疑う者もいる。


 マジックバッグの売上を見込んで、俺は南商店街の空いている土地とそこにある家を商工ギルドからローンを組んで購入した。場所は南商店街の端っこの方だが、それなりに広い土地だ。家も手入れがされていないのかボロボロで今にも崩れそうだけど、その分安く買えたし、一から家を建てるよりはましだ。午前と露店を閉めた後の時間を使い、店を構える準備を始める。


 魔力支配のスキルで二階建ての木造建築の家を、一階を店に、二階を住居場所にと改築して、地下には倉庫を作った。今は宿を出て二階で暮らしている。まさか自分の家を持つ事になるとはね…… 前世では思いもよらなかっただろうな。


 店自体は完成したけど、まだ開いてはいない。マジックバッグの販売と同時に開店しようかと画策している所だ。それまではいつも通り露店で洗浄の魔道具や果物と酒を売って、ローン返済に充てている。


 マジックバッグの販売時期は何時でも良いので、シャロットと各地区の商会へ一任していた。最悪店が間に合わなくても、露店で販売出来るからね。それで話し合いの結果、十分な量を確保でき次第店に出す事になり、それから三日後、各々が準備を整えて明日マジックバッグを販売する事となった。


「いよいよですわね…… 何だか緊張しますわ。もし売上が想定以下だったらと思うと、ドキドキが止まりませんわ」


 明日の開店の為、店の準備で商品を棚へ並べていると、シャロットが緊張した面持ちで訪ねて来て、不安を煽るような事を言っていた。


「大丈夫ですよ。宣伝の効果もあって、この数日はマジックバッグの話題で持ちきりだったではありませんか」


 手伝いをしてくれているアルクス先生の言葉に幾分か緊張が和らいだのか、少しだけ笑顔が浮かんだ。大きな事業でかなりの資金を注ぎ込んだからな、これで失敗なんかしたら目も当てられない。緊張するのも当然か。


「ライル、これで良いかしら? 」


 エレミアが卓上スタンド型のPOPを持ってくる。そこには手書きで “マジックバッグあります” の文字と値段が書かれていた。うん、女性らしい可愛い文字だ。明日、店頭にこのPOPを飾ろう。店の一番の売りだから前面に出さないとね。


 後は洗浄の魔道具や酒、果物に胡椒、味噌、醤油といった調味料を、名前とその商品の説明と値段を書いたPOPと共に並べていく。

 それだけでなく、蜂蜜も売りに出そうかと思っている。ハニービィ達の蜜回収率が上り、何時もより多くの蜂蜜が確保出来るようになっていたのだ。良く良く観察してみると、クイーンも含めてハニービィ達の体がガッチリしてきたというか、逞しくなったというか、そんか感じがする。


『恐らく、濃い魔力空間で長い期間を過ごす事によって、体に変化が起きて強化されたのだろう』


 と、ギルの見解だとそうらしい。そう言えば普通の動物も濃い魔力に当てられ続けると体内に魔核が生成され魔物に変化してしまうと、昔アルクス先生から教わったな。そうなると今、魔力収納にいる馬のルーサも、その内魔物に変化してしまうのか?


 それはちょっと不安だな。最近外にも出していないし、たまには思いっきり広い場所で走らせてやりたい。この商売が落ち着いたら、思う存分走らせてあげよう。


 夕方には店の準備も終わり、二階でエレミアが作った料理を皆で食べていた。この街に来てから魚介三昧だったから、今日は肉中心の料理だ。エルフの里から分けて貰った葡萄で作ったワインを飲み、肉を食らう。最高だね! この葡萄はワイン用の葡萄なので渋みが強く、実も小さいので食用には向かない為、店には出していない。


「美味しいですね。料理もさることながら、このワインの心地よい渋みが肉の甘さを引き立たせてくれます」


「本当に美味しいですわ。鼻に抜ける香りも素晴らしく、癖になりますわね。あっ、勿論、一番は蜂蜜酒ですわよ」


 アルクス先生とシャロットにも好評のようで良かった。ワインを褒めた時にアンネが苦い顔をしていたので、シャロットが慌てて機嫌を取っていた。



「ご馳走様でした。今日はこれで失礼致します。明日、上手くいくよう祈っておりますわ。それでは、ごきげんよう」


 シャロットは館に帰り、アルクス先生は何時ものように魔力収納内へと入ってギルと話し込んでいる。アンネも収納内で眠る前の蜂蜜酒を飲んでいた。


 二階にある寝室のベッドで横になり明日の事を考える。マジックバッグは店内中央の目立つ所に置いたし、洗浄の魔道具は小さいからカウンターの側に並べた。壁の棚には果物や酒、野菜に調味料。反対側の棚には、鉄で作成したカセットタイプの魔動コンロに、魔石や魔核で光るランプ。それと旅先で使うような小さめの鍋やフライパン等の調理器具なんかも作って置いた。


 まだまだ商品のラインナップに不安が残るけど、明日開店だ。何時も露店に買いに来ている人達には店を構える事は伝えてあるし、マジックバッグの宣伝もした。後はなるようにしかならない。分かってはいても中々眠れないものだね。


 はぁ、まだ店を出すのは早かったかな? 露店で細々とやってた方が良かったんじゃ? 不安でつい、そんな後ろ向きな事を考えてしまう。


「大丈夫。こんなに頑張ったんだから、きっと上手くいくわ。安心して、明日に備えて眠りましょう」


 不安が顔に出ていたのか、エレミアが優しく声を掛けてきた。そうだな、やれる事はやったんだし、もう後には引けない。

 俺はエレミアに礼を言って眠ろうと目をつぶる。エレミアのお陰で心は軽くなり、これなら眠れそうだ。


 しかし、ここでも一緒の部屋なんだよね。部屋数はあるんだから別々にしようって言ったのに…… エレミアも俺と一緒で心配性な所があるからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ