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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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15

 

 マジックバッグの量産が決まってからの領主の働きは迅速で、すぐに自分の敷地内で工場の建設を始めたのだった。

 シャロットはゴーレムを使って建設の手伝いをして、街の兵士達は各村で募集をしたり奴隷を雇ったりと、工場で働いてくれる人達を集めているらしい。


 アルクス先生は知り合いの魔術師達に連絡を取り、この街に集めているようだ。厄介な術式なだけに信用のおける者を少しでも多くしたいと、時折俺を訪ねて来ては魔力収納内でギルの講義を聞いている時に、そのような事を話していた。


『はぁ~、ここは本当に良い空間ですね。興味が尽きる事がありませんよ。もうずっと此処にいたい位です』


 すっかりと魔力収納が気に入ってしまったアルクス先生は、収納内の家でのんびりと紅茶を飲んで寛いでいる。アルクス先生にとってこの空間は調査対象に溢れた楽園のように見えるのだろう。


『ふっふ~ん♪ そらそうよ。なんてったって、わたしの素敵空間だからね! あの湖も、お花畑も、果樹園だって、全部わたしが提案したのよ! 』


 アンネが得意気に自慢しているのを、アルクス先生は頻りに相槌を打ちながら聞いている。

 適当に聞き流せば良いのに、真面目だね。しかし、まだその素敵空間っていう設定は続いていたんだな。


 魔力収納にやってくるお客はアルクス先生だけではなく、もう一人いる。露店を閉める時間になると、時々シャロットがやってきては、アンネとエレミアとで井戸端会議ならぬ、収納内会議を開いていた。俺の中は喫茶店か何かですかね?


『―― そういう訳でして、工場の建設は順調に進んでおりますわ。しかし、本格的に売り出す前に、此方で作ったマジックバッグを王に献上しなくてはなりませんの。そうすることによって、わたくし達は王を蔑ろにしていません。国の為にこの魔術を捧げますと公言するのですわ。ようはご機嫌取りですわね。これで王からの覚えがめでたく、他の貴族への牽制にもなって動きやすくなりますの』


『そう、人間って変よね。同じ種族なのに、足の引っ張りあいをしているなんて。エルフならそんな事はしないで、皆で協力するのに』


『そうですわね。そうなれたら、どれ程素晴らしいか…… ですが、人間は数が多く、国も沢山あります。ご自分達の利益を優先しなくては生きては行けませんのよ。せめて、国内だけでもエルフのようになれたら良いのですけど』


 シャロットは疲れたように、遠い目をして大きな溜め息を漏らす。貴族として生きてきた中で、他の貴族からの妨害のようなものが何度かあったのだろう。自分の権益を守る為、邪魔になりそうな家を潰そうとしたりとか、貴族同士そういうのがあるんだろうな。


『大昔から人間は変わらないね。くだらないのもいれば、楽しいのもいる。それが良いのか悪いのかは分かんないけど、見ていて退屈はしないよね』


『オホホ、妖精さん達から見れば、わたくし達のしている事は滑稽に見えるのでしょうね』


 このように、収納内でシャロットが持参した紅茶やアンネお気に入りの蜂蜜酒を飲みながら、三人で雑談を交わすのが日常の光景になりつつある頃、工場が完成した。僅か一週間足らずで建設してしまうとは信じられない早さだ。


 大工の殆どは土魔法が使えるらしく、整地等に掛かる時間が大幅に短縮できるとシャロットが教えてくれた。やはり魔法は便利だ。魔術と違って自由度が高く、威力の調整が楽に出来るのが良い。

 魔術は一度術式を刻んだら後で調整が出来ないのだ。威力、範囲、魔力消費量、継続時間、発動距離など細かく設定を決めたら、その通りに発動する。

 しかし融通が聞かない分、多様性に優れているし誰でも使えるのが魔術の強みでもある。まぁ、一部俺のような例外はあるけどね。


 人と魔術師も徐々に集り、遂にマジックバッグの量産が始まった。鞄に使う皮は、一般用にギガノダイルというワニに似た魔物の皮やヴェノムサーペントの皮を使用して、冒険者等の旅に最適な物にはワイバーンといった下級ドラゴンの丈夫な皮を使っている。


 鞄の作成は手縫いなのかと思ったが、なんと魔力で動くミシンがあったのだ。エルフの里では手縫いだったので、ミシンの構造を魔力で解析して、後で里のお土産に作っておこう。


 魔術については、アルクス先生が通っていた魔術学園の同級生だった人達を集めたらしい。その中でも特に仲の良い友人に、空間魔術と重力魔術について王都への報告と講義を頼んだそうだ。


 本人曰く、身近に失われた魔術の教えを乞う存在がいるのに、王都まで行って時間を無駄にしたくない―― と、王都行きを断固許否している。


 アルクス先生でも我が儘を言うんだね。学園の同級生達は昔からこんな奴だったと口を揃えて言っていた。俺の知らない先生を垣間見た気がするよ。



 そして記念すべきレインバーク領のマジックバッグ第一号が完成した。俺が見本として渡した肩下げタイプと同じ物だ。このマジックバッグとアルクス先生の友人を連れて、領主はこれから王都へと向かうようで、完成したマジックバッグの確認と領主の見送りにと館に呼ばれていた俺は、領主と挨拶を交わしていた。


「道中、お気をつけて下さい。無事のご帰還を心より願っております」


「ブフゥ、有り難うライル君。吾輩の留守の間、娘をよろしく頼むよ。それと、マジックバッグの販売の件なんだが、各地区の代表になっている商会に卸すので、同時期に店で出してほしいのだ。商会へは既に話は通してある。吾輩はまた暫く王都にいなければならないのでな。販売時期は娘と相談して決めてほしい」


 全ての地区で同時期に販売すればあまり目立つことはないだろう。この人に協力を仰いで正解だったな。見た目はともかく、中身はいい人だ。領民からの不満の声は体形以外殆ど無いのは頷けるよ。

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