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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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「それは良いのですがその場合、個人では販売出来ないのですか? 」


 そうなると困るな、売るものが少なくなってしまうよ。


「グフ、そうではない。ライル君がこのマジックバッグの作成者という事は伏せて、吾輩がそれを量産する。ライル君には自分で作った物を自分の店で売って貰って結構。他領や他国に売り出すのは吾輩に任せて欲しいのだ」


 それなら良いかな? 別にマジックバッグの販売を独占したい訳ではないし、広まってしまえば珍しくはなくなるだろう。


「それならば、領主様のご提案を受けさせて頂きます」


「ブフフ! 良いぞ、では量産するための工場を建てなければな。魔術師も多く雇わなくてはならないぞ、術式の指導に関してはアルクス殿に頼むが良いかな? 」


「はい、大丈夫です。この術式については理解しております」


 昨日、ギルの講義を徹夜で受けていたからね。


「でもお父様、何処に工場をお建てになりますの? この街にはそんなに広い土地は余っていないはずでは? 」


「何を言っておるのだ? すぐ近くにあるではないか。吾輩の敷地を潰して使えば良かろう? 無駄に遊ばせている所が多いのだ。“勿体ない” 確かそうであったな? シャロットよ」


「お父様…… はい、仰る通りですわ」


 こうして話は纏まっていき、俺はマジックバッグの作り方を教えたのだが、普通に鞄を作ってそこに術式を刻むだけ、その術式もアルクス先生が知っているので、教える事はあまり無かった。


「ブフゥ~、先ずは工場を建設して、それから鞄を作成する人達を集め、術式を刻む魔術師達を雇わなければな。出来るだけ早く量産体制を整えるので、それまでマジックバッグの販売は待ってはくれぬか? 」


 確かに、俺が先にマジックバッグを売り出したら変だよな。他にも空間魔術を使った魔道具の考案が幾つかあるけど、もう暫くは保留になりそうだ。


「はい、畏まりました」


「礼を言うぞ。恥ずかしい話だが、このレインバーク領は貿易と漁業以外はてんで駄目でな…… 海に面した村で塩田を作ってはいる。しかし、それだけでは領民全てに仕事がある訳ではない。農業にしても適した土地が少なく、貿易で事足りてしまっている状況で、金を稼ぐために冒険者になる者や奴隷登録をする者が少なからず出てくるのだ。中には別の領で奴隷登録をする者もおるそうだ。マジックバッグの量産は必ず、この領にとって大掛かりなものになる。仕事が無い者、奴隷になった者達の良い仕事場になってくれるだろう。これで少しでも、奴隷になる者が減れば良いのだがな」


 そうか、領主は領民達の為にマジックバッグの工場を建てたいのか。漁師や冒険者は危険がつきものだから、やっていくには相当な覚悟が必要だ。体力や腕に覚えのない人達は奴隷登録をした方がてっとり早いのだろう。何も奴隷が悪いという訳ではなく、そこまでしなければ仕事にありつけない状況を嘆いているんだと思う。人を沢山起用する事業を必要としてたんだな。


「申し訳ありません。領民の為とはいえ、何だかライルさんを利用するような形になってしまいまして」


 もしかしてシャロットは俺からマジックバッグの利権を奪ってしまったと思っているのだろうか? それなら全く気にしてはいない。むしろ遠慮なくやってほしい位だ。そっちが目立てば目立つほど俺は影に潜む事が出来るのだから。


「大丈夫、こっちは平気だから。俺の方こそ、隠れ蓑なんかに利用して申し訳ないよ」


 俺の返答を聞いて、シャロットはホッとした表情を浮かべる。そこにアルクス先生が近づいてきて、手紙を渡してきた。


「クラリスさん宛に書いた手紙です。信用しやすいようレインバーク家の封蝋を貸して頂きました。これを君の知り合いの冒険者に渡して下さい」


 昨夜の内に書いたのだろうか? 仕事が早いね。俺は手紙を収納して、ガストール達に会う為に館を出て冒険者ギルドへと向かう。



 ギルドにいた冒険者に尋ねたら、どうやら朝っぱらから酒場で呑んでいるらしい。こんな時間から店はやっているんだな。酒場に入るとガストール達は直ぐに見つかった。悪い意味で目立つんだよね、あの三人は。


「朝からお酒とは良いですね。今日はお休みですか? 」


「あん? 何だ、ライルか。どうした? 俺らに用事でもあんのか? 」


「あ! 姐御、お疲れ様っす」


 呑み始めたばかりなのだろうか、ガストール達はそんなに酔ってはいなかった。相変わらず姐御と呼ぶルベルトにエレミアは顔を顰めただけで何も言わない。訂正するのは諦めたのかな?


「実は頼みたい事がありまして」


「指命依頼か? ギルドにはもう発行済みなんだろうな? 」


「いえ、ギルドを通さずにお願いしたいのですが」


 それを聞いたガストールの目が鋭くなり、俺を見据える。


「公にはしたくねぇってか…… やばい案件か? 」


 冒険者歴が長いと、こういった事もよくあるのか、ガストールの察しは良かった。


「ヤバイと言うほどではありませんが、ハロトライン領の領主の館で使用人をしているクラリスという女性を無事にこの街まで連れてきて貰いたいのです」


「ほう、女を連れてこいか…… お前のコレか? 」


 そう言ってガストールは小指を一本だけ立たせる。こっちの世界でもそうやるんだね。


「いえ、俺の母です。此方で一緒に暮らそうかと思いまして」


「なんだ、母親かよ。受けてやってもいいが、向こうが拒んできたらどうするんだ? 」


「その場合は仕方ありませんので諦めます。無理矢理連れてくるような真似はしないでください」


 五年も経てば色々と事情が変わるだろうからね。その時はせめて俺が無事だと伝えたい。


「ハロトライン領の場所は知っていますか? 」


「おいおい、俺達は冒険者だぜ。行った事ぐらいあるに決まってんだろ? 場所も覚えてるし問題はないぜ」


 冒険者と言うだけあって、様々な所へ冒険しているようだ。俺は手紙と金貨二枚をテーブルの上に置いた。


「この手紙を必ず母に渡して下さい。もし、この街に来てくれるのなら護衛をお願いします。後、これは前金です。残りの半分は帰ってきた時にお支払いします」


「へっ、女を一人迎えに行くだけで四万リランかよ。余程大切なようだな」


「はい。なので、くれぐれも気を付けてお願いしますよ」


 ガストール達はこういうのに慣れているのか、必要な事以外は聞かずに旅立っていった。もし何かあっても素直に知らないと言えるからだそうだ。ほんとそういう事には頭が回るよな。


 今更だけど、あの三人で大丈夫だったかな? クラリスが変な勘違いをしないと良いんだけど。

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