13
「その…… 魔力収納というのには、生き物も入れるのですよね? もし宜しければ、わたくしも入れて頂けませんでしょうか? 」
打ち合わせが終わる頃、シャロットが遠慮がちにそんな事を頼んできた。
「良いですね、実は僕も気になっていました。お願いします」
そこにアルクス先生が便乗してきたので断れる雰囲気ではなくなり、二人を魔力収納へ招待する。別に初めから断るつもりは無かったんだけどね。
収納内の案内をエレミアに頼み、アンネとギルは普通に自分の家に帰るかのように魔力収納へと入って行った。その結果、俺は部屋で一人、ポツンと取り残される。なんだろう…… ちょっと寂しい。
『凄いですわ! こんなの初めてですの!! 不思議ですわね~』
『本当に不思議です。こんなに魔力が濃い空間は他にはないでしょう。色々と調査したいですね』
興奮する二人をよそに、エレミアは淡々と案内を済ませていく。うっすらと明るい空間で、アルクス先生はマナの木を見て驚き、シャロットは花畑とハニービィの作る蜂蜜で感激していた。
『ようこそ! わたしん家へ! ささっ、入って入って~』
アンネが二人を家へ招き入れ、蜂蜜酒を振る舞う。アンネが誰かに大好物の蜂蜜酒をご馳走するなんて珍しいな。
『まあ! なんと濃厚な蜂蜜の風味、今まで飲んだどの蜂蜜酒より美味しいですわ! 』
『でしょ! わたしの一番お気に入りなの。これだけは誰にも売らないからね! 』
アンネとシャロット、そしてエレミアも蜂蜜酒を飲んでは話に花を咲かせている。
『アルクスとやら、あのような甘い酒は女共に任せて、我等はこれを飲もうではないか』
ギルはウイスキーを注いだグラスをアルクス先生に渡した。
『綺麗な琥珀色ですね。それに香りも素晴らしい…… !? ごほっ、こ、これは随分と酒精が強いのですね』
アルコールの強さに咽せてしまったアルクス先生だが直ぐに飲み方を覚え、ドライフルーツをかじりチェイサーを交えながらウイスキーを堪能している。
皆楽しそうだね。自分の中なので俺は入る事が出来ず、その光景を眺めるしかない。
そんな俺を気遣ってか、クイーンが魔力収納から出てきて俺の頭に止まってきた。そういう気遣いも出来たんだな、心なしかクイーンの体長が大きくなっている気がする。それに知能も上がっているような…… 気のせいか?
夜も更けていき、シャロットは自室へと戻っていった。凄く名残惜しんでいたが、ちゃんと戻らないと領主や使用人達に心配させてしまうからね。
アルクス先生はまだ収納内でギルと酒を呑みながら、魔術の話をしている。千年前の高度な魔術を知っているギルはアルクス先生にとって、正に生きた教本という訳だ。なので、このまま収納内にいさせる事にした。
さて、俺も寝るとするか。側にいてくれたクイーンにお礼を言って収納内へ戻し、ベッドに潜り眠りに就く。
翌日、恐らく徹夜したであろうアルクス先生と食堂へ向かい、領主とシャロットと一緒に朝食を頂く。
「昨夜はあまり休めなかったようだの。久方ぶりの再会、積もる話が沢山あったのだな」
目の下にうっすらと隈が出来たアルクス先生を見て、領主は何かを察したように頷いていた。いや、殆どギルと魔術談義をしていただけなんですけどね。
「お父様、この後余裕がありましたら、少し時間を頂きたいのですが宜しいですか? 」
朝食を食べ終わる頃、シャロットが領主の予定を伺う。
「ブフ? 別に急ぎの案件はないので構わんぞ。場所は応接室でよいか? 」
「有り難う御座います」
俺達は領主と共に応接室に入り、机を挟んでお互いに顔を見合わせる形で領主の隣にシャロット、対面して俺の左右にエレミアとアルクス先生がソファーに座る。
「お忙しい中、時間を作って頂き誠に有り難う御座います」
代表してアルクス先生がお礼を述べる。対して領主は不気味な笑みを浮かべて返答した。
「グフフ、良い良い、大事な娘の頼みだからの。して、何用であるかな?」
「はい、先ずは此方をご覧下さい…… ライル君、例の物を」
俺はアルクス先生に言われ、魔力収納からマジックバッグを取り出して、テーブルの上に置く。
「……? これは鞄であるな。これがどうかしたのか? 」
「これは只の鞄ではなく、マジックバッグという魔道具です。どのような物かと言いますと―― 」
昨晩に説明したように、アルクス先生は領主にマジックバッグの性能と俺の意図を伝える。領主は時折驚いたり、感心したりと忙しなく聞いていた。
「ブフゥ~、これは素晴らしい! 流石はアルクス殿の生徒と言えるな。吾輩としても出来るだけライル君の意思は尊重したいと思っておる。だからこそ聞きたいのだが、ライル君…… このマジックバッグの全てを吾輩にくれないか? 」
うん? マジックバッグの全てとはどういう意味なのだろうか?
「あの、それはどういった意味なのですか? 」
「ブフ、ライル君はあまり世には出たくないがマジックバッグは売りたい。しかし、そうすると否が応でも目立ってしまう。だから吾輩に協力を求めてきた。そうであろう? 」
「はい。仰る通りで御座います」
「それならば、吾輩がライル君より目立てば良いだけの事。このマジックバッグを吾輩の領で開発したとして、世間に広めれば良いのだ。海産物以外にマジックバッグもレインバーク領の特産品にしてしまおうではないか! 」
全てというのはそう言うことか。自領をマジックバッグの発祥の地にして、その代わり面倒な事は全て請け負ってくれる訳だな。