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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第一幕】望まれぬ子
10/812

8



 

 アルクス先生が来た日からもう、三年の月日が経った。


 今日、家庭教師としての契約期間が満期を迎える。


「なんだか、あっという間でしたね。ライル君も、もう八歳になるんですね……あれ? まだ八歳ですか? まぁ、時が経つのは早いですね」


「そうですね………先生、この三年間、本当にありがとうございました」


 俺は先生に向かい、深く頭を下げた。


「いえいえ、僕の方こそ、ありがとうございました。とても楽しかったですよ。 ライル君、僕はね……最初はこの仕事を受けるのは、気が進みませんでした」


 先生は申し訳なさそうな顔で語り始めた。


「貴族の子供というだけでも面倒なのに、五歳の子に魔術を教えろと……正直に言って無理だと、何を考えているんだと思いました。だけど、研究資金が底を突いてしまいましてね。渋々受けたのですが、予想外に君は僕の授業についてきてくれました。驚愕ですよ、本当に……今では魔術言語は完璧、術式の構築も基本がしっかりと出来ています。よく頑張りましたね」


 そう言って、先生はそっと頭を撫でてくれた。


「ありがとうございます。先生の教え方が上手だからですよ」


 この屋敷の片隅で過ごし、まだ外に出たことの無い俺にとって、先生との授業や会話はとても新鮮で楽しかった。


「僕の最初の生徒がライル君、君で良かった」


「僕も、先生で良かったです」


 これはお世辞でもなんでもなく心からそう思う。


「まだ教えたいことはありますが、資金も溜まりましたし、暫くは研究に専念したいと思います」


「残念です……でも、仕方がないですよね、先生は魔術師で魔術の研究をするのが本分ですから」


「はい、とても残念ですが、そう言うことです。 あのですね……ライル君、僕は……君に、言わなければならない事があります」


 ん? 何だか先生の雰囲気が変わった。顔をしかめ、とても言いにくそうにしている。


「これから僕は、ライル君にとても不快な事を言うと思います。ですが冷静に、耳を塞がずに聞いて下さい」


「は、はい……分かりました」


「ライル君は後二年で、魔法スキルを授かるために王都へと行くと思います。ですが、必ずしも魔法スキルを授かる訳ではありません」


 え? 教会で祈れば誰でも貰える訳ではないのか。


「ここからは、余り言いたくは無いのですが……もし、スキルを授かる事ができなかった場合、ハロトライン伯爵――つまり、君の父親がどう動くかが問題なんです」


 へぇ、今世の父親の名前を初めて聞いたな、伯爵って聞いた事あるけど、どのくらい偉いんだっけ?


「やはり、ライル君は自分の両親の事も何も聞かされていないのですね」


 先生は軽く息を吐き、少しずれた眼鏡を直しながら、


「ブルゲン・ハロトライン伯爵、このハロトライン領の領主で君の父親です」


 金持ちの家の子だとは思っていたが領主の息子だったのか……


「いいですか? 貴族と言うのは体面を異様なほど気にする生き物です。まぁ、中には例外もありますが、概ねそのようなものです………僕も元は貴族でした。男爵家の三男ですけど……僕が十歳の時、魔法を授かりに教会で祈りました。しかし、神は応えてはくれませんでした………僕は魔法が使えません。信仰心が足りないとか、貴族で魔法が使えないのは恥だと言われ、半ば家を追い出される形で魔術学園へ入学させられました。貴族の間では魔術は魔法の下位互換だと認識されています。僕は卒業と同時に本格的に家を出ました。今はそれで良かったと思っていますよ、自分の好きなように生きてますから」


 先生は少し寂しそうに微笑みながら、眼鏡の位置を直した。


「男爵家ですらこの有り様です、それが伯爵家になったらと思うと………」


 確かに、八年もほったらかしだからな………


「家庭教師として雇われた時、ハロトライン伯爵から言われました。知り合いから預かっている子供に魔術を教えてやって欲しいと……」


 あぁ、それって……


「後でクラリスさんから聞きました、君がハロトライン伯爵の実の息子だと……伯爵は、君を自分の子だと、認めたくないみたいです」


 そっか、そりゃそうだろうな……


「君を貴族の社会に出す訳にはいかないと……何故なら………それは……君の……体の――」


「――先生、大丈夫です。分かってますから、だから……大丈夫です」


 だから、そんな顔をしないでほしい。本当に先生は真面目だな、だからこそ信頼できるんだと思う。


「すみません。伯爵が今まで君を育てさせていたのは………」


「僕の魔力が目当てですね」


 先生は目を見張った後、悲しそうな顔で呟いた。


「やはり君は賢しいね。まだ八歳の子供なのに……そう、君の魔力量は非常に多い。しかも、まだ成長途中なんですから驚きですね。そこに魔法が加わったら、とてつもない力となる」


「先生、もし魔法を授かれなかった場合、どうなると考えていますか?」


 まだ決まった訳ではないけど、対策は考えた方がいい、最悪の事態を想定しなければならない。


「そうですね………考えたくはありませんが、君を生まれなかった事にするのではないでしょうか」


「それは……どっちの意味で、ですか?」


「両方ですね、可能性としては……」


 追放か、暗殺か………


「ハロトライン伯爵は貴族の間では有名ですからね、良くも悪くも」


 なんだそれ、恐ろしいな。


「ライル君、僕では力になれそうにはありませんが、君の無事を祈っています。必ずまた、会いましょう」


「いいえ、先生は十分僕の力になってくれました、感謝しています。また色々と教えてください」


「はい、その日が来るのを楽しみに待っていますよ」


 その時、ノックの音が響き、クラリスが部屋へと入ってきた。


「失礼致します。アルクス様、そろそろお時間でございます」


 先生との別れの時が来たようだ。


「それではライル君、また会いましょう」


「はい、先生!いつか、また………」


 アルクス先生はクラリスに送られ、部屋から出ていった。


 はぁ、何となく予想していたんだか、ハッキリと言われると、流石にくるものがある。

 最悪の事態にならないように俺が出来る事は何なのか? あと二年で何が出来るのか? とりあえずスキルを磨くしかないか。

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 そして二年が過ぎ…………俺は十歳になった。

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