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俺は死んだ……………はずだ。決して頭がイカれてるとか狂っているわけではない。
俺は正気だ、そこは自信を持って言える、なぜなら覚えているからだ、自分が過ごしてきた三十年分の日常を、そしてその終わりも……………。
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「はぁぁぁ~~」
これで何回目のため息だろうか、数えてはいないので分からないし、する気もない。
肩も腰も凝りすぎて頭まで痛くなってくる。
此のところ残業続きでさすがに参ってしまうな、しかもサービス残業ときたもんだ、ありがたすぎてあの偉大なくそ上司様にバックドロップでもかましてやりたい気分だよ。ちらっと時計を確認すると、もう夜の十一時だ。区切りもついたし、そろそろ帰るか。
パソコンの画面をにらみながらそんなことを考えていると、突然の轟音と激しい横揺れがこの部屋を襲い、俺は椅子から転げ落ちる。
「うおぉう!!」
一斉にすべての窓ガラスが割れ、パソコンも椅子も机もコピー機も激しく揺れ、倒れた物もある。
――いったい何が起きたのか?
――あぁ、今までの残業の成果が………。
――とにかくここから逃げなければ!
あまりのことで思考が纏まらずにいたら、天井が崩れ始めて瓦礫が降ってくる。よく見たら床にも亀裂が入り今にも崩れそうだ。
まだ降り注ぐ瓦礫の中なんとか出口へと体を進めた。
あとちょっと、もう少しでこの部屋から出られる!
そう思った直後、俺の体は一瞬宙を浮き、そのあと重力に引っ張られ下へと落ちて行った。
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どのくらい意識を失っていたのだろうか、数分?数時間?うまく頭が働かない。
意識がはっきりとしていくにつれて身体中に鋭い痛みが襲う。
「うぅぅ、かはぁ!はぁ……はぁ……」
痛みと喉の渇きで上手く声がだせない、意識が朦朧として視界が揺れる。それに両腕の感覚がないような気がする。
恐る恐る顔を上げ確認してみると………。
無い…………ないんだ………俺の腕が……肘から……下が……両方……無くなっていた。
「ぁぁアァァァ!?ウゥあああああああ!!!!!」
何故? どうして!? 俺がいったいなにをした!! なんでこんな目にあわなければならないだ!!!
誰にもぶつけられない怒りと死ぬかもしれない恐怖、自分に起きた物事すべてに対する哀しみをこめて叫んだ、喉が渇いてガラガラだけど叫ばずにはいられなかった。
なんとか気持ちを落ち着かせ、視界も多少安定してきたので分かったことがある。
どうやら床が抜けて下の階に落ちたみたいだ。
どういう経緯で両腕を失ったのかは分からない。落ちてる途中か、それとも落ちた先になにかあったのかもしれない。
今、俺の周りは瓦礫に囲まれてはいるが、隙間が空いていないほどではない。
どうにかして外に出なくては、そう思い体を動かそうとしたが、左足が折れているようで余り動かせそうにない。
それでもまだ動く右足と腰を動かし、地を這う芋虫のように這いずって移動するが、自分が流した血で滑って思うように進めない。それでも、この先には誰かがまだ残っていて助けて貰えるかも知れない。そんな期待を胸に、どうにか瓦礫の中から出ることができた。
たがその先に見た光景は、そんな僅かな希望を根こそぎ奪いさっていった。