始業式
季節は春。
俺は春という季節は好きだ。
暑くもなく、寒くもない、程よい温かさの日差し、少し冷たい風、小鳥のさえずり、その全てが好きだ。
だが、その春の中でも唯一、気に食わないのが「出会い」。
春になると進学や新学期や就職など、新規一片するような初めての場所、人との出会いがある。
俺はそれが嫌いだ。
俺、以外にもそう思う人は大勢いるだろう、未来への不安や期待など様々な悩みを抱えてしまう。
そういうことを考えると、大抵の人は「どの季節が好き?」と聞かれても「秋」と答えるだろう。
しかし、俺は春が好きだ。
「おはよー!春ー!」
「あぁ、おはよう」
春と呼ばれた彼は本を読んでいて、背後からどこか聞き覚えのある声を聞き彼は後ろへ振り返り、声の主を見て挨拶を返す。
「どうしたのー、何か、元気じゃないね...」
「樹...お前が朝から元気過ぎるだけだよ...」
「あははー!そーかもー!でも、今日から新しいクラスだよ!友達いっぱい出来るかもだよ!これはテンション高くせずにはいられないよ!」
今日から新学期で始業式。春と呼ばれた彼は高校2年生になる。
そして、この物語の主人公である春と呼ばれた彼の名は「宮原春」。
身長は百八十センチ近くあり、読書をするのが趣味などこにでも居そうな高校生である。
どういった理由は定かではないが春は大体の親戚や友達などの知人からは「はる」と呼ばれている。しかし、正しくは「しゅん」である。
春は自分の名前でもある「春」という季節も好きではあるが、始業式である今日、この日は憂鬱でしかなかった。
さらに、春から樹と呼ばれた女性は「宮本樹」。
少し男っぽい名前とは裏腹に、その容姿はかなり整っていて、髪はロングで艶やかな黒い色、瞳は少し茶色がかった綺麗な瞳、胸はそれなりにあり、それでいて大和撫子を思わせる感じの女性で春にとっては、春の名を正しく「しゅん」と呼ぶ唯一の知人。
そんな、樹と春は家が隣で幼馴染でもあり、学校でクラスが一緒になると春と樹は名前が「宮」で始まるため、いつも春が前の席で樹が後ろの席となる。
そのため、二人は常に一緒にいるような状態なため、双子の兄妹のような気軽さがある。
そして、朝からテンションの高い樹と新しいクラスになる事に憂鬱な春の下へと声が掛かる。
「そこのお二人さんー、朝から夫婦水入らずのイチャイチャですかのー?」
「ち、ちがうよ!イチャイチャなんてしてないー!!」
「夫婦ってところは否定しないのね...ふふふ...」
「ふ、夫婦って、そ、それも、ちがーう!」
これまた、朝から変な事を言い出すやつが出て来て樹をからかっている。
春はそこで樹をからかって遊んでいるやつに向けて読んでいる小説で頭を軽く叩く。
「うふぅ...何するのよー!痛いでしょー!」
「有栖川!からかい過ぎだよ!」
樹をからかっていた、有栖川と呼ばれる女性は「有栖川美紗」で帰国子女っぽい感じの可愛さがあり、ジャンルは違うけれども、樹といい勝負を出来そうなくらいの美女である。
そんな彼女は、今、春達が向かっている高校「有栖川学園」の理事長の娘であったりする。
どうして、美紗は春達と親しくしているかと言うと実は今のところよく分からなかったりする。
「それに俺はいいけど、俺みたいなやつと夫婦とか言われて樹が良い思いしないだろ!」
「え?」
「相変わらず、はるは鈍感だなー」
「...?何が?」
「樹ー!はるなんて置いて行こー!」
「...う、うん!春先に行ってるね!」
春は小説に目をやりながら無言で手を振る。
春は本を読みながら歩き、学校へ到着すると先に行っていたはずの樹と美紗がこちらへ手を振っているのが見えた。
「どうした?」
「春!また、私と同じクラスだよー!」
「おー!そっか!」
「わ・た・し・た・ち!でしょ!何で私を抜け者にしてるのよ!」
「ごめん!ごめん!つい!」
「「つい!」じゃないわよ!もー!はるも何とか言いなさいよ!まったくー!」
「有栖川、お前なー、」
「な、何よ!」
「さっき樹のことからかっていたし、おあいこだろー!」
「うぅ...」
「美紗ちゃん、私そんな事思ってないよ!本当にわざとじゃないのごめんね!」
「樹...いいえ、私こそさっきは、からかってごめんなさい。」
春は「そんな謝るくらいなら最初からからかうなよ!」という様な状況に呆れつつ、どこまでも仲が良すぎる樹と美紗を放って置いておいて、自分の教室の場所を確認しようとし、掲示板へと向かっていた直後、また春は声を掛けられた。
「よー!はるー!おはよう!またクラス一緒だな!」
「おはよう、そっか、って、また同じクラスなのか?」
「何だ、まだ、掲示板のクラス表を確認してなかったのか?」
「ああ、今、確認しようとしてたところだった。」
「そっか!じゃ、また後でな!」
「何だ、教室へ案内してくれるんじゃないのか?」
「なんでだよ!これから職員室に用事があるんだよ。」
「そっか、じゃ、また後で、」
「おう!」
そう言い放ったあと彼は職員室へ向かうべく校舎に入って行った。
今、話をしていた彼の事は一言で現すなら「モテ男」だ。
イケメンで勉強も出来て運動も得意、皆が羨む完璧な奴、それが彼、「遠藤和彦」であり、春の親友でもあった。
しかし、和彦と春が親友であるのは周囲の人間から見て、不思議だと思える程に性格が違い、春は口数が多くなく、物静かで本を好む一般的な性格。
それに対して和彦は明るい性格で皆の人気者であった。
整った容姿で人気者であるのは樹や美紗も一緒で、そんな人気者達が春の事を構い、友で居てくれるのが春自身も不思議で仕方がなかったそんな事を考えつつ、春は掲示板で教室の場所を確認し、自分の下駄箱へ向かおうと歩いている。
「あ、春!先に教室行こうとしてたでしょ!」
「そうよ!はる!私達を置いて行くなんて酷いじゃない!」
「...。いや、教室はすぐそこだろう。」
「むぅー。そうだけどーいいじゃん!」
春が下駄箱まで辿り着いたところで先程まで友情を深め合っていた樹と美紗が走って来て抗議の声を挙げて、駄々を捏ねていた樹と美紗が靴を履き替えるのを春待ち、三人で教室へ向かうのだった。