奇談 ー墓地ー
高校の夏休み。
家で本を読んだりゲームをしたり友達と遊んだりとするもんですが、
私の場合、そういう事が許される家庭環境ではありませんでした。
昼夜を問わず寝ることは許されず、友達のところに行こうにも学校まで片道4時間のところに住んでいたので行けずじまい。
家に居ると暇潰しの様にビール瓶が破れるまで殴られたりしたので、仕方なく飼ってた犬の散歩で出来るだけ外で時間を潰す様にしてました。犬を連れていると真夜中でも警察に通報されませんからね。
ある日のこと、民家のない山道で犬のリードを外して散歩していた時に嬉しかったのか、犬は四方八方に走り回り獣道に入るなり山の中へ入っていってしまいました。
しばらく待っても降りてくる気配もないし、犬の名前を呼んでも茂みからガサガサと音がするだけで姿は見えず。
仕方なしに私も獣道に入って犬の跡を追うことにしました。
獣道に入ってそれ程時間は経ってはいませんでしたが、山の頂上付近に着くとそこは茂み等一切なく開けていて5つほど墓石が乱立していました。
そこの墓地の中心には飼っている犬が金縛りにあったかの様に突っ立っていました。
犬の名前を呼んでも耳すら動かさず、奥の墓石を見つめていました。
犬の首輪にリードを着け、その場から離れようと周りを見るとその墓地は異様な雰囲気でした。
まず、墓石は手入れをされている雰囲気はなく汚れていました。
それに全ての墓石には所々10円玉位の穴が開いていました。
どの墓石周辺にも卒塔婆が建てて有りましたが、全て折れていたり腐っていたりと、マトモに建っているのは一本もなし。
おまけに墓地の周りには道がなく、後ろを振り向いても来たはずの獣道すら有りませんでした。
私は怖くなるのが嫌だったので何も考えない様にしました。
辺りは陽も暮れて暗くなる寸前。
何処から降りようか周囲を見回していると、急に犬が墓石に向かって吠え出しました。
私が犬が吠える方を見ると、墓石の穴の開いている場所からドス黒いものが流れてきました。
私は全身に鳥肌が立ち、他の墓石も同じ様に穴の中からドス黒いものが流れ出していたので犬のリードを引っ張りながら後退りました。
犬もようやくその場から動いてくれる様になった時には私は走り出しました。
兎に角怖くて無我夢中に走ってたのでどうやって降りれたのか分かりませんが、気がつけば林道に出ていました。
後日、昼間にあの黒く流れるものが何だったのか怖いもの見たさもあり気になったので見に行こうとしましたが、墓地へ入って行く獣道は見つかったものの墓地へは行くことができませんでした。
それ以来、何回か行こうと挑戦はしましたが今だにその墓地へは行けずじまいです。